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「それなんですが、この世界では聖女が持っているスマホという物について詳しく知る者はヒマリしか居ません。それが聖女にバレるのは非常に困るので、ヒマリがスマホを知っているという事は、騎士団長達の間だけで留めるように、と釘を刺してきました」
「そうですね。最悪の場合ヒマリさんの身に危険が及ぶ可能性もありますからその方がいいでしょう。姫も、ヒマリさんがスマホについて知っているという事は他言しないように」
「もちろんよ!」
「でもそれも時間の問題だよな。身内はこいつが異世界から来た事知ってるけど、聖女とか王にさえ言ってないんだろ?」
「ええ。王はあの通りの方なので迂闊にヒマリの事は話せません。そもそもクリスの名付け役が俺の婚約者だとは思っていないし、何か厄介な事になると困ると思って俺はヒマリについては詳しく話しては居ないんです。だから伝えている事と言えば、遠方の国からこちらにやってきた人がいる。その人は妖精のイタズラによってこちらに連れて来られたようだ。帰る方法が見つかるまでは、地元の知識を使ってどこかで小料理屋をして生計を立てるつもりらしい、とだけ伝えてあります」
「あんたまたそんなすぐにでもバレそうな嘘を!」
私が思わず立ち上がると、そんな私をトワが手で制した。
「これが一番都合が良かったんだよ。号外を見たでしょう? 聖女の俺とクリスへの執着ぶりは最早狂気だよ。そこに自分と同じように異世界から来た女が絡むとなると、本当に何をしてくるか分からない。だから性別も年齢もボカしたんだよ」
「経験者は語るって奴だな。まぁ実際妖精のイタズラで辺境の地に飛ばされる奴って案外いるしな」
何かに納得したようにクリスが頷くと、トワは迷惑そうに顔を顰める。どうやらビンゴだったようだ。
「今回の場合とは少し違いますが、昔、一緒に買い物をしていた従姉妹を刺殺されそうになった事があるんだよ」
「ひえっ……な、何でまたそんな事に……?」
「従姉妹の婚約者に送る誕生日のプレゼント選びに付き合っていたら、それを見て誤解した令嬢が従姉妹に襲いかかったんだ。とまぁ、こういう事があるのでヒマリ、明日からこの村に箝口令を敷きます。構いませんか?」
「敷いてちょうだい! 何なら今すぐにでも行ってきてちょうだい! 私まだ刺されたくないもの! ちょっとルチル! あんたもよ! 私とトワの関係を知ってる人たちにも絶対に漏らすなって口酸っぱくして言っておいてよね!?」
身と蓋はあるかもしれないが、お芝居で誰かに妬まれて殺されたりしたら堪らない! 私は思わず立ち上がってルチルの肩を掴んで勢いよく前後に揺さぶると、ルチルは首をガクガクさせながらどうにか頷いた。
「私の方は大丈夫だと思うわ。何せ私が紹介した人たちは皆、信頼出来る方たちばかりだもの。でもそうね……これからはもっと厳選して紹介した方がいいかもしれないわね」
何かを考え込むようなルチルにセターレまでもが頷く。
「女性でも男性でも、嫉妬は怖いですからね。そういう意味ではクリス様の名付け役というのも黙っておいた方が良さそうです」
「もちろんそのつもりです。他にヒマリの事知ってるのは……スタンと隣町の医者か」
「ああ、フレッドな。じゃ、丁度いいじゃん。あいつに事情話して口裏合わせてもらえば?」
「何の?」
キョトンとした私とトワを見てクリスが眉を吊り上げた。
「何のってお前らの懐妊騒動の口裏合わせだろうが! もう忘れたのかよ!?」
「そうでした! 色々起こりすぎてすっかり忘れていました! 確かにそちらも急がないといけませんね。ヒマリ、明日事情を話しに隣町に行きましょうか」
「え? でもいいの? ルチルの護衛は?」
放ったらかしていいの? と思わず首を傾げた私にトワが真顔で言う。
「問題ありません。姫にもついてきてもらえば済む話ですから」
「え? ちょっと、私行くなんて一言も——」
「もちろん姫は協力してくれますよね? 元はと言えばあなたが今まで積み重ねた悪行が種ですもんね?」
「ハ……ハイ」
トワの真顔の圧力に負けてルチルが頷くと、トワは満足げに頷いた。
「セ、セターレ! これは脅迫ではなくて!? この人姫を脅迫したわよ!?」
「まぁそうですね。ですが、ヒマリさんに何かあればこの国からクリス様が居なくなってしまうので、それは避けたいですよね」
「う……」
「ねぇねぇ、そんなにクリスって重要なの? 一国の姫よりも?」
よく分からないが、姫の安全よりもクリスの方が大事だなんて何だか変な話だ。
「大事なんですよ。一国の姫よりも。もっと言えば一国の王よりも大事だと言っても過言ではありません。それほど高位妖精様の存在はこの世界では尊い存在なんです」
「へぇ……あんた、凄いのね」
「まぁな! もっと敬ってもいいんだぞ?」




