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自分の事でも無いし、その子の地位が上がった所で私には何の影響も無かったけれど、それでも傍から見ているとそういうのは腹立たしかった。
「大体理不尽なのよ! 優秀な人間はどんどん潰して私みたいなハケン社畜量産してさ。挙げ句会社が傾いたらハケン社畜から切って、倒産寸前になって優秀だった子にまた声かけたりとか! そんな会社に戻ってくるかっての! まさにリアルざまぁよ!」
「今日も絶好調に荒御魂が荒ぶってんな! そういう所からお前達の経典は出来上がってたんだな」
キシシ! と意地悪な笑い声を上げるクリスを睨んだ私は、皆にお茶のおかわりを淹れて一口飲むと、ホッと息をつく。
そんな私を見てセターレがおかしそうに笑った。
「落ち着きましたか?」
「ええ、大分。ごめんなさい、取り乱したわ」
「いいえ。ストレスはどんどん発散した方がいいですからね。それに理不尽な事に対して誰かが声を上げて怒っているのを聞くと、聞いている方も胸がスッキリするものです」
「そうよ、ヒマリ。あなたのそういう所が私は大好きなの。いつまでもそのままのヒマリでいてね」
「それは私に一生社畜で居ろって事なの?」
真顔で言う私にルチルは慌てて首を振った。
「まさか! どうしてそんなにも捻くれてるのよぉ~」
「そりゃ仕方ねぇよな? 骨の髄まで社畜根性が染み付いちまってるもんな?」
「う・る・さ・い! あんたの晩ごはん、今日モヤシね」
「嘘だろ! いつもの可愛い冗談じゃねぇか!」
ポカポカと腕を振り回して私に殴りかかってくるクリスと、それを受け止める私達を見てセターレがにこやかに言った。
「仲良しですねぇ。こんな予言も一切鏡に映りませんでしたよ」
「そうなの? 本当に何にも映らなかったの?」
よほどありえない事なのか、ルチルが目を丸くして尋ねると、
「ええ。全く、一切何も。だからクリス様がこちらにいらっしゃったという話も信じられなかったんです」
セターレはそう言って眼鏡を押し上げた。
「そうなの……何故かしら?」
「それは恐らくヒマリさんが異世界の方だからでしょう。言わば彼女はこの世界の理から外れた存在ですから。ですが、もしかしたらそれで良かったのかもしれませんよ?」
そんなセターレにルチルが不思議そうに首を傾げる。
「あら、どうして?」
「もしも私の鏡にクリス様とヒマリさんが映っていたら、間違いなくヒマリさんと一緒にすぐにでも城に保護という名の軟禁をされていたでしょうからね」
そう言ってセターレはずずず、とお茶を飲んで目を輝かせる。
それを聞いて私は思わず引きつる。
「そ、それは困るわね」
「おう、それは困るな。いや、お前は別に困らないんじゃねぇの? 城に居たら軟禁されているとは言え、三食飯付きだろうし」
「それは確かにそうね。おまけに部屋も掃除しなくても常に綺麗なんでしょ? メイドさんとか居るんじゃないの?」
「そりゃ居るだろ! 城だぞ、城! メイドなんて吐いて捨てる程いるだろ!」
「マジか~! メイドさんにお嬢様とか言われてチヤホヤされる人生……一度でいいから経験してみたかった!」
もしかしたら物凄く美味しい話を逃してしまったのかもしれない。あれ? もしかしたら今からでも遅くないのでは? 期待に満ち満ちの目をセターレとルチルに向けると、私のそんな厚かましい心が伝わったのか、二人共苦笑いだ。
「言っておくけどヒマリ、もう今さら無理よ?」
「そうですね。残念ですが、王はあなた達がすっかりこの国に馴染んでいて、もうこの国から出ないだろうと踏んでいるので」
「そ、そんな……真面目に働きすぎたのか……」
「そうねぇ。だってあなた、貴族の女子の間で今や評判の美容専門家みたいになってるんだもの。今更あなたを城で軟禁するなんて言ったら、どれだけの家から反感食らうと思うの?」
「くっ! こんな所でも社畜の私が邪魔をするっ」
「ふはっ! まぁ仕方ねぇな。諦めろ。それにお前、さっきは僕もああ言ったけど、軟禁なんかされたらそれこそ菓子だの料理だの簡単に出来ないぞ」
「それは嫌! 唯一の趣味なのに! まぁ今の生活気に入ってるからいいんだけどさ。ちょっとぐらいはお姫様扱いされてみたいって思ってみてもいいじゃん」
まぁ恐らく3日で飽きるが。そんな私にクリスがドンと自分の胸を叩いた。
「そんなの! 僕がいくらでもしてやるよ! な?」
「いや、あんたはどっちかっていうと弟よ。もしくは甥っ子?」
「なんでだよっ!」
「そうですよ、クリス。ヒマリの婚約者は俺ですから」
「トワ!?」
「トワ! どうしたの? 随分早いね」
突然リビングに現れた能面のような顔をしたトワに思わず私とクリスが驚きの声を上げると、トワはテーブルの上に大きな袋を置いた。




