79
「私たちは分かってるわよ。トワがそんな器用な人じゃないって事は。でもさ、あんた顔がさ、そうは思わせないのよ。何でもそつなくこなしそうなのよね」
「それな! こいつ本当はこ~んなにも不器用なのにな! トワは悲しいかなその顔で大分損してるよな。普通は大分得するはずなんだろうけど」
「ほんと、真面目すぎんのよ、トワは。でもまぁ今は私が居るしそういう噂は大分払拭されたでしょ、多分」
苦笑いを浮かべて言った私にトワは泣きそうな顔で拝んでくる。
「それはもう本当に、感謝してもしきれません。ありがとう、ヒマリ」
「いいえ、どういたしまして。さて、話を戻しましょう。セターレさん、そういう訳なのよ。だからもしかしたらこの世界は私が居た世界では何かのお話だったのかしれない。ねぇルチル、あなたが見た絵なんだけど、他に何か書かれて無かった? 例えばー……何か文字とか」
「も、文字!? そんなもの詳しく見てないわ! あ、でもあの絵を宮廷絵師が証拠として模写していたはずよ。うぅ……もう私、お城に帰れないわ……」
「なるほど。その絵が見られたら何か分かるかもしれないんだけどな……。作品名とか入ってなかったのかな」
腕組をして考え込んだ私にクリスがポンと手を打つ。
「そうだ! トワかセターレがその絵見に行ってくればいいんじゃん?」
「や、止めてください! 後生ですから!」
「そうよ! バカ言わないの! 女の子の裸の絵よ!? ちょっとは描かれた方の身にもなってみなさいよ! あんたの今の発言は、トワとあんたのそういう絵を私やルチルが見に行くのと同じ事よ!?」
「そ、そっか! わりぃ。ルチルも、ごめん」
物凄い剣幕で怒鳴った私を見てクリスがシュンと項垂れた。クリスの謝罪を聞いてルチルは違う意味で顔を真っ赤にして困惑している。
「あ、頭を上げてください、クリス様! それに恥ずかしいのはもちろんですが、そもそも誰かにお見せ出来るほど私はその……豊満なほうではないので……」
「心配すんのはそこでいいの? ルチル。まぁもうルチルの絵の事は一旦忘れましょう。後はノーマン達の首尾にかかってるわね」
「おや、ノーマン達も動いているのですか?」
「そうなのよ。そもそもその話を持ってきたのが各騎士団の団長達だったの。トワが寝込んでる時にね」
「そうでしたか。ふむ……これは面白そうですね。僕も協力しましょう。どのみち僕も姫もしばらくは城には戻れませんし」
眼鏡の奥の瞳を光らせたセターレを見てルチルとトワが引きつった。もしかするとこの人が張り切ると何かが起こるのかもしれない。
けれどもう全て話し終わってしまったし、今更どうしようも無い事だけは確かだ。
だから私は努めて明るく言った。
「私達だけじゃどうしようもなかったから助かるわ。これからよろしくね、セターレさん」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします、ヒマリさん」
そう言って私達はがっちりと握手をした。もしかしたらこれで毎日タダで占ってもらえるかもしれない、などと淡い期待を抱いたのは誰にも内緒である。
翌日、市井に派手に号外が出された。内容はルチルの廃嫡についてだ。
「ルチル、あんたとうとう廃嫡されたって事になってるわよ?」
「ええ!? あ、このサラダ美味しい。ヒマリ、これは何ていうサラダなの?」
驚きつつも呑気なルチルに私は「ミモザサラダよ」と答えながらテーブルの上に今しがたもらってきた号外を置いた。
その号外を手に取ったのはすっかり昼食を終えたセターレだ。
「おやおや、これは困りましたね。いくら低俗な庶民の新聞でも、書いて良い事と悪い事があります。可哀想に。この新聞社は近いうちに潰されますね」
「それは予言なの? セターレさん」
「いいえ? ですが、王家に批判的な組織は早いうちに潰しておくのが吉です。でなければ内戦が起こりかねませんから」
「な、なるほど。大変なのね、政治って」
ドがつくほどの庶民だった私が政治について知ってる事と言えば選挙ぐらいだった。もう何だか本当に申し訳ないが、それほど私生活が忙しかったのだ。しかもここは王政だ。はっきり言ってシステムがさっぱり分からない。
「謀反を起こしそうな芽はしっかり摘んでおかなければ」
「正に出る杭は打たれるって奴ね」
腕を組んで頷いた私を見てクリスが訝しげに尋ねてきた。
「なんだよ。まるで一度でも打たれた事があるみたいに。ん? もしかしてあんのか? 実はお前、あっちでは優秀だったりした?」
「いいえ、全く。私は平々凡々な社畜だったもの。もちろん打たれた事なんてないわよ。そもそも地表に出た事も無い杭よ。でも仲の良かった優秀なセイシャインは打たれてたわね。そういうのを見ると心が痛むし腹が立って仕方なかったわ」




