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 突然だが、妖精を見た事がある人は日本にどれぐらい居るだろう? 私はない。絵本や映画の中でならあるが、現実の世界では無い。妖精と言えばイメージでは小さくて羽が生えていて、可愛らしい……そう、可愛らしいはず……なのだが。


 皆さんは『朝に向かう闇』という絵を知っているだろうか? それはもう儚げで天使かと思うほど人間離れした美しい少年の絵なのだが、正にそれが今、目の前に落ちている。ドロドロで。しかも羽つきで。


 その汚れ方は凄まじく、辛うじて金髪だと分かる程の汚れ具合だ。これは酷い。大きさもイメージしていたサイズとは随分違う。結構デカイ。多分中学一年生男子ぐらいの背丈はある。物理的にその羽では飛べないだろ、と疑う程度にはデカイ。



 事の起こりは数時間前。私は今日も仕事を終えて意気揚々と買い物に来ていた。


 この世界にやってきて4ヶ月。遠い国から来たお直し屋さんというルチルの触れ込みのおかげで、もうすっかり馴染んでいる私である。やはりどこの世界に行っても愛想は大事だ。


 ちなみに私が異世界からやってきたという事は一部の人たちを除いて伏せられていた。そんな事を言おうものなら、下手したら解剖されて研究に回されるかも! とルチルが脅してきたからである。


「おっちゃ~ん、今日のお野菜は何がある~?」

「お! ヒマリ、今日はもう上がりか? 今日はカブが美味いぞ! あとタケノコだな!」

「おお! どっちもちょうだい!」

「よっしゃ、どんだけいる? また何か美味いもん作って持ってきてくれよ! あとこれはトワ様が来たら食べてもらってくれ」

「了~解! じゃあカブが3っつと~タケノコが~——」


 こんな感じであちこちで買い物を済ませた私は、大きな買い物袋を下げて家に帰った。


 ここの食べ物自体は地球と何も変わらない。これが私にはとてもありがたかった。


 ただ調理方法が絶妙に違う。基本は何でも素材を生かした精進料理のような物ばかりで、あまり調味料の足し算や引き算はしないようなのだ。だから味付けはとても単調な物が多い。決して調味料が無い訳ではないのに!


 だからルチルもしょっちゅう食べにくるのだろう、きっと。そうに違いない。


 あれから結構な頻度で食事に来ていたトワだが、今はぱったりと来ない。 


 と言うのも最近のトワは次に始まる戦争の会議で夕食を食べる時間すらないほど忙しいらしく、今は仕方ないのでルチルに頼んでトワにたまに婚約者から愛するダーリンへと言ってお弁当を渡してもらっている次第だ。


 引き受けた仕事はきっちりと! 金額に見合った仕事をする! これが派遣社畜の信条である。


 そんな訳で私は今日も食材をおつまみにするべくルンルンで家に戻り、下ごしらえをしたタケノコをコトコト煮込んでいると、庭先で突然ドサリと大きな音がした。


 私はビックリして火を止めて玄関に立てかけてあった箒を持って庭に出ると、まず目に入ったのは大きな梅の木。そして今はその下に何かが落ちている。


 ここで冒頭に戻る。


 私は恐る恐るそれに近寄って箒の先で突いてみたが、ピクリともしない。


(死んでるのか?)


 もう少しだけ近寄ってみてさらに強めに箒で突いてみた。


 すると——。


「……か……た」

「ん?」


 私が何か聞き返すよりも先に、その何かのお腹から地響きかと思う程の大きな音が聞こえてきたではないか!


「えっと……お腹、減ってるの?」

「……」


 コクリ。妖精は辛うじて頷いた。


 しかしこんなドロドロの状態で触りたくないし家に上げたくないのだが。


 私がそんな事を考えていたのがバレたのか、妖精は目だけを動かしてギロリと睨んできた。


「妖精……だぞ……助けろよ……」

「……」

(いや、おかしくない? 妖精ってこんなだった? もっと小っちゃくて可愛いんじゃないの? てか、妖精なんてこんな地べたに落ちてるもんなの?)

「はや……く……きえ……る……」

「えぇ⁉」


 その言葉に私は慌ててボロ雑巾のような妖精を引きずって家の中に放り込み、三日前から仕込んでいるシチューを温めなおして差し出した。


 すると、ドロドロの妖精はシチューを見るなり目を輝かせてスプーンを持ち、ガツガツと物凄い勢いで食べだしたではないか。


 しばらく夢中でシチューを食べていた妖精は、三回目のおかわりをしたところでふとスプーンを止めた。


「……肉は?」

「は?」

「肉は入ってないの? 僕、育ち盛りなんだけど」

「知るか! 食べたら出てけ!」

(肉など私だって大分食べてないわ! コイツ、絶対妖精じゃない!こんな厚かましい妖精など、この世に存在していてはいけない! はずだ!)


 私の言葉に妖精もどきは、ちぇっと呟いてまたシチューを食べ始める。


 でも食べるのか。


 五杯目のおかわりに差し掛かった頃、私はとうとう鍋ごと彼に渡した。


「せめて皿に入れてよ」

「いちいち取りに行くの面倒なの! 皿で食べたかったら自分でよそいなさい」

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