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「それを早く言いなさいよぉ! もう! ちょっと待ってて、おつまみ作る! 晩御飯はもう出来てるから勝手に食べて!」

「……」


 トワの呆れたような視線も気にせず私はモヤシを塩と胡椒だけで炒めたおつまみを作り、いそいそと食卓についた私達は今日もまた夕食を一緒にとった。


「ヒマリは本当にビールが好きですね」

「まぁね。一日の終わりはいつもビールだったからね。これ! 美味しいね! 飲みやすい」

「そう? 気に入ったみたいで良かった。あ、これ美味しい。何で出来てるの?」

「それはね、煮っころがしって言って——ねぇ、何かあなたどんどん馴染んでない?」

「え?」

(あまりにもナチュラルにこの人ここに帰って来てご飯食べてるけど、もしかしてこれも作戦の為?) 

「いや、これも婚約者ごっこの作戦の内なの?」

「いや? 俺が普通に食事したいからだけど、いけなかった?」


 そう言って首を傾げるトワに私も首を傾げる。


「ねぇ、この世界って恋人とか婚約者の所にこんな頻繁に通うものなの?」

「どうだろう。恋人なんて居た事ないから分からないけど、少なくとも俺は友人の家に食事をしに来てる感覚かな」


 シレっとそんな事を言うトワだが、何となく私には察しがついていた。


「なるほど。でもそれは建前で、城から寮までの帰り道にここがあるからって解釈でいい?」


 騎士団の寮に住んでいるトワは、仕事が終わって帰り道に一杯引っ掛ける感覚でここへ来ているのではないか。


 私の問いかけにトワは少しだけ動揺する様子を見せる。


「……友人だと思ってるのは本当だから」

「うん、そこは疑ってないよ。でも本当の理由はここが帰り道の途中にあるからだよね?」

「……まぁ、そう」

「全く! 伯爵さまでしょ? ちょっとは町にお金落としなさいよ!」

「そうしたいけど、どこで食事をしてても知らない人が勝手に座ってくるの、嫌じゃない?」


 それを聞いて私は納得した。どうやらトワはどこかへ行くと必ず誰かしらに声を掛けられ、無理やりご一緒されるようだ。


(それは……うん、嫌だな)


 芸能人みたいなものなのか。それでここぞとばかりにここに来るのか。


「ていうかトワって伯爵なのに寮住まいなの? 実家から通えばいいじゃん。あ、遠いとか?」


 私の問いにトワは明らかに顔を引きつらせた。


「……実家は寮より城に近いですが、極力帰りたくないので」


 その顔を見て私は瞬時に察してしまった。多分、私が実家に近寄らなかったのと同じ理由に違いない。


「あー……あれか、結婚か」


 私の言葉にトワがハッとして顔を上げた。


「も、もしかしてあなたも?」

「まぁねぇ。私たちの世界ではどっちかって言うと女子の方がせっつかれてたのよねぇ。もうそんな時代じゃないっていくら言っても聞きゃーしない」


 両親にはとても感謝しているし、もちろん大好きだ。


 けれど結婚や彼氏の話になった途端に、何か見えないバリアのような物で言葉を遮られているのかと思うほど会話が通じなくなる。あれは一体何なのだろうか。


「そう! 本当にそうなんです! 俺の場合はもう両親は居ないので身内や使用人達にせっつかれるんですが、だったら代わってくれと何度言いそうになった事か……はぁ……帰りたくない……」

「嫌だよね~。両親はそこまでじゃないけど、親戚とか周りの連中って何であんな思い通りにしたがるんだろ。しかもさ、こぞってあんたの幸せの為とか言うのよ。でもね、あんた私じゃないよね? ていうか余計なお世話よね? はぁ~あ。湿っぽい話はもうおしまい! 飲も飲も!」


 私の言葉にトワが力強く頷いた。恐らくトワなど跡継ぎの為だけに結婚をせっつかれるのだろう。それはどれほどのストレスだろうか。不憫でならない。


 そう言って私はトワの空いたグラスになみなみビールを注いだ。


「ありがとうございます。はぁ……でも、俺も考え無しでした。ヒマリの迷惑になるなら、これからは週3ぐらいに減らします」

「いやそれ、減ってなくない? まぁもう今更いいわよ。それにこの町ではトワの恋人って肩書が出来たおかげで見て! 冷蔵庫が潤うの! 皆おまけしてくれるのよぉ~」


 ホクホクと冷蔵庫を指さした私にトワが小さな笑い声を漏らす。驚いて視線をそちらに移すと、珍しくトワがちゃんと笑っていた。


「はは。何だ、ヒマリもちゃっかり得してるじゃないですか。じゃ、問題ないよね?」

「……まぁ、そうね」


 びっくりした私は、それ以上もう何も言えなかった——。




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