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「それはもう本当にそう。呑気に生きてきた私には良い勉強になったわ。そういう意味ではあのサギ男にも感謝してる」
「それは良い事です。自身に起こった幸も不幸も全て糧に変える事が出来るのは、得難い才能ですよ」
そう言ってセターレは先程よりも幾分優しく微笑む。
「す、凄い……セターレが人を褒めたわ……」
「俺もびっくりしています……はっ! ダメですよ!? ヒマリは俺の婚約者ですからね!」
「おや? 本当に? それは何かしらの契約だと出ていますよ?」
「い、今はただの契約かもしれませんが——」
「では未来は分かりませんね」
そう言ってセターレが胸元から取り出したのは薄汚れた鏡だ。そこには到底何も映りそうにはないのだが、それでもセターレは鏡を覗き込んで微笑むと、そんなセターレを見てトワが苦々しい顔をしている。
「おお! すげぇじゃん、当たってんぞ!」
「本当に凄い占星術師なんだ! 私、本物の占星術師って初めて会ったかも!」
「占星術の能力は星を読み解く事に限りません。そういう血筋なのです。もちろん普通の占星術も出来ますよ。ヒマリさん、あなたも占ってさしあげましょうか?」
「ぜひ! やっぱ何だかんだ言っても占いは好きなのよね~」
思わず手を組んでそんな事を言う私の肩をトワが掴み、徐に私を背中に追いやった。
「セターレ様、あなたは姫の監視役としてここへいらしたのでしょう? それとも占いをしに来たのですか?」
「おや、王の騎士がこの僕にそんな事を言うとは。これは面白いことになってきました。ですが、あなたの言う事は一理あります。姫、王からの伝言です。「あの絵の出どころが分かるまでは城に戻る事は許さない。だが、私はお前を信じている。しばらくお前にセターレとトワをつける。安全な所に身を潜めていろ」だ、そうですよ」
「え……? お父様、怒っていないの?」
「あの絵を聖女が持ってくる直前、ノーマンから僕の所に手紙が届いたのです。そこにはこう書かれていました。聖女がブランシェ山で変な物を見つけた。狙いはルチル様だ。気をつけろ、とね。それから僕はすぐに鏡で確認しました。すると鏡には先程起こった悲劇が描かれたのです。僕はすぐさまそれを王に進言しました。もちろん、王妃にもです」
「で、でもお母様は倒れたわ……」
「あれは絵を見て倒れたのではなく、予言が当たったから倒れたのですよ。でなければ僕を監視役になど指名しません」
「それはそうだよな。国一番の占星術師を監視役という名の護衛につけるなんて、追放した娘にする事じゃないよな」
「クリスの言う通りです。それに王は俺も姫につけると言ったのですよね? 自分の騎士団の団長を姫につけるだなんて、それこそありえません」
トワの言葉にセターレはゆっくりと頷いた。
「ええ。王はあの絵は怪しいと疑っておられる。問題は、聖女がどこからあの絵を持ってきたのかということです」
「それなら私、分かるわよ?」
「え?」
「だって、聖女が持ってる物は多分スマホだから。それは私や聖女が居た世界にあったとっても便利な通信装置なの」
「ちょ! ヒマリ、セターレにはあなたが異世界から来たって事は言ってないのよ!」
サラリとネタバレした私の腕を青ざめた様子でルチルが掴む。それを聞いてトワも青ざめているので、これは少し早まってしまったかもしれない。
けれど肝心のセターレは特に驚いた様子もなく頷いただけだ。
「そうでしたか。であればあなたがこの鏡に映らない理由も頷けます。それで、あなたはあの絵がどこから持ち込まれたかを知っているのですか?」
「ええ。聖女はあちらの世界で得たルチルの絵をスマホに保存していただけ。もしくは何かチートな能力があるのなら、聖女のスマホは今もあちらの世界と繋がってるのかもね。だからこちらの世界でその絵を描いた人を探しても一生見つからないわよ」
「チート、とは?」
「う~ん、本来の意味はイカサマとか不正行為の事なんだけど、まぁ今回の場合はこの世界ではありえないような能力を持ってるって言えばいいのかな?」
「社畜の経典のタイトルだろ?」
「そうそう。大体転生する勇者や聖女はその世界には無いような能力を持ってるもんなのよ」
そう、そのはずなのよ。でも私はいかんせん自らこちらの世界にやってきてしまった。誰に召喚されるでもなく! 自らの足で! ノコノコと!
そんな私の心の内を読んだようにクリスがヨヨヨ、と泣く振りをして見せる。
「それに比べてお前というやつは! こっちに来ても社畜町道まっしぐら。なんて不憫な奴なんだ! 大丈夫、僕がちゃんと幸せにしてやるからな!」
「それには及びませんよ、クリス。ヒマリの老後は俺がきっちり引き受けるので」
大きく出たクリスにすかさずトワが言い返すが、今はそれどころではない。




