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「た、楽しい……? そこは普通、戸惑うとかではないの?」


 何だか本当に楽しそうに眼鏡を押し上げるセターレに僕が思わず問いかけると、後からトワがコソコソと耳打ちしてきた。


「シッ! ヒマリ、セターレ様はこういう人なんです。状況が不可解であればあるほど楽しい人なんです」


 すかさず私に耳打ちしてきたトワに私が納得していると、ふと笑顔のセターレがこちらを向いた。


「聞こえていますよ、トワ」

「っ!」

「……こわ」


 相当な小声であったとしてもセターレの耳にはしっかりと届くようだ。確かにルチルとトワの言うようにセターレは変わり者かもしれない。


 けれど、ここで一つ私はさっきからずっと気になっている事があった。


「えっとー……ところでセターレさん? あなたはどうやって私のお家を見つけて入って来られたのでしょう? あと……ここは土足禁止! 分かったらすぐに玄関で靴脱いできてちょうだい!」


 例え変な人でも私には関係の無いこと。ここは私の家で、私がルールだ。


「おや、これは失礼しました。ちなみに鍵は開いていましたよ」


 まだニコニコしているセターレをグイグイと押して無理やりリビングから放り出すと、セターレは特に気にした様子もなくそのまま玄関に向かって歩いて行く。


 そんなセターレを見て私はにこやかに言った。


「なんだ、良い人じゃん」


 あっさりとうちのルールに従ってくれたセターレを見て私が言うと、そんな私をルチルが青ざめて見つめてくる。


「ヒ、ヒマリ……あなたには怖いものは無いの……? そりゃヒマリは城に勤めている人達の事なんて知らなくて当然だけれど……それにしても怖いもの知らずすぎない?」

「怖いもの? そんなのいっぱいあるわよ。金欠とかレジのミスとか残業とか確定申告とか」

「うん、それは社畜の名残だな。なぁ、町で噂の占星術師ってもしかしてあいつの事か?」

「そうですよ! ほら! 町でも噂になってるんじゃないの!」

「あー……興味無くて聞き流してたのかも。で、どうして皆あの人の事そんなに怖がる訳?」


 不思議に思って訪ねてみると、トワが言いにくそうに眉を下げた。


「あまりこんな事は言いたくないのですが、セターレ様に歯向かうと呪われると有名なんです。だから皆怖がるんですよ。実際セターレ様の予言は本当に良く当たります。そして彼はあまり良い予言はしてくれません」


 そこまで言ってトワは先程言われたセターレの言葉を気にしているかのように視線を伏せた。


 でも、それは少し違うと思う。


「そうかなぁ? むしろ優しい人なんじゃないの?」

「え?」

「だって、悪い予言が凄く当たるんでしょ? だったら気をつければいいじゃん。別にセターレさんが悪い予言をしたから当たるんじゃなくて、あの人には見えてるからそれを伝えるだけって事だよね? クリスの何とか書みたいにさ」

「予言書な」

「そう、それみたいにさ。あんた達が言ってる事って、起こった事とこれから起こる事が逆さになってない?」

「その通りですよ、お嬢さん。あなたはなかなか人を見る目がありますね。僕が優しい人間かどうかはさておき、僕は見えた事しか予言しません。ですからどう受け取るかはあなた達次第です」

「ほら、本人もこう言ってる。むしろ良い事しか言わない奴の方がヤバいよ。そうやってね、相手を有頂天にさせて信じ込ませてある日くっそ高い壺を売りつけてきたり、お金を貸してくれとか言ってきたりすんのよ。まぁ悪い予言ばっかする奴もそうやって騙す手口あるけどさ」

「お前、どうやったらそんなヤバい奴に出会うんだよ。それは完全に詐欺師だろ」

「そうよ。言ったでしょ? 私は婚活中だったの。まんまと結婚詐欺に引っかかりそうになった事があるのよ。でもね、私はしがない社畜。私に本当にお金が無いって分かったらさっさと離れていったわよ! あいっつ、いつかどっかで会ったら絶対にギャフンって言わせてやる!」


 思わず握り拳を作った私をトワとルチル、そしてまさかのセターレまでもが憐れみの視線を向けてきたので思わず私が半眼になると、こんな会話にはもうすっかり慣れきってしまったクリスがお腹を抱えながら笑う。


「……何よ?」

「つまりそういう情報がお前のスマホとやらには残ってたんだな? そりゃ死んでも死にきれねぇな! あ、死んでないか! いって!」


 大爆笑するクリスにゲンコツを落とした私は、クルリとセターレに向き直ってそっと足元にモコモコスリッパを置いてやる。


「足寒いでしょ? はい、部屋の中ではこれ履いておいて」

「これはこれはご親切に。すみません、何か見えたらあなたにも予言をしたいのですが、生憎何も見えなくて。ですが、良からぬ輩に引っかからなくて良かったですね」

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