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「俺もありませんね。でもそれがヒマリの良い所です。ところでノーマンに手紙を出して確認しておきました。それから姫、たとえ追放されたとしてもあなたは一国の姫です。監視役はどうしたんですか?」
いつの間にか戻ってきていたトワが床に崩れ落ちた私を抱き起こしながら言うと、ルチルは戸惑ったような顔をして右往左往している。
「ありがと、トワ。でもあんた達が私の事をどう思っているかは一生忘れないから」
慰めてくれているつもりだったのかもしれないが、完全に逆効果である。そしてルチルはどうやらまだ何か隠し事をしているようだ。
ちらりとルチルを見ると、ルチルは引きつった笑顔を浮かべて言った。
「え、えへ! まいてきちゃった!」
「……あなたと言う人は。どうして自ら状況を悪い方へ持っていくのがそんなにも得意なのですか?」
「だ、だって! 監視役が誰だと思ってるの! あいつよ!? 占星術師のセターレよ!?」
「!」
ルチルが叫ぶと、名前を聞いてトワが珍しく目を見開いて言葉を失った。
「ねぇそのセターレさんってどんな人なの? 占星術師って事は、占いとかが得意な人?」
「占星術師か~。いいじゃん、面白そうじゃん。何で逃げてきたんだよ、ルチル」
固まる二人とは裏腹に私達は興味津々なのだが、そんな私達をルチルとトワは怖い顔をして一気に話しだした。
「セターレ様が面白い!? とんでもない! あの人ほど厄介な人はいませんよ!」
「そうよ! 二人はセターレに実際会ったことないからそんな呑気な事が言えるのよ! いつも薄気味悪い笑顔で何考えてるのか全く分からないし、話す言葉は全て呪詛なの? と思うほど当たる! 彼に予言をされて不幸になった人間が五万といるんだから!」
トワとルチルのあまりの勢いに私とクリスが思わずゴクリと息を呑んだその時だ。
突然リビングのドアの方から聞いたことの無い声が聞こえてきた。
「おやおや、姫は僕の事をそんな風に思っていらしたんですねぇ?」
「だ、誰!?」
思わず振り返った私の目に飛び込んできたのは、泣きぼくろが印象的な肩ほどまでの黒髪を無造作に一つにまとめた男性だ。理知的な眼鏡の奥では鮮やかな赤色の瞳が妖しげに微笑んでいる。
なかなかの美青年だが、何よりも気になるのは目の下の隈だ。その隈が怪しげな雰囲気をさらに怪しげにしていた。
「セターレ!」
「え!? この人が!?」
「はじめまして、名付け役兼王の騎士団長の婚約者さん」
「わ、私の事知ってるの?」
「もちろんです。この星に起こる大抵の事を僕は知っていますよ。それにあなたは大変有名人ですので」
「こわ……」
それを聞いて思わず後ずさった私を見てセターレはにっこりと微笑んだ。
「お褒めに預かり光栄ですね。さて姫、これはどういう事でしょう? どうして僕を置いて逃げたりしたのです? それからトワ、あなた先程僕を厄介だと言いましたか?」
「い、言った……かもしれません。申し訳ありません」
「素直でよろしい。まぁあなたの星の巡りは困難ばかり待ち構えていますからね。その事を思えばあなたの僕に対する暴言など些細な事です」
そう言って、ふふふ、と美しく笑うセターレという人物は、確かにトワやルチルの言うように厄介そうだ。
「クリス様、お初にお目にかかります。城の占星術師、セターレと申します。まさかここで第5王子にお会いする事が叶うとは思いませんでした」
深々とクリスに頭を下げるセターレを見てクリスが首を傾げた。
「ん? お前はこの星に起こる事を何でも知ってるんだろ? だったら僕が来ることも知ってたんじゃないのかよ?」
「知ってはいました。ですが、時期が違うのです。あなたがここへやってくるのは本来であればもっと早かったはずなのです。なので僕は珍しく外れたのだと思い込んでいました。ですから王が高位妖精が我が国にやってきたという発表も、他国に向けての情報操作だと思い信じてはいませんでした」
「ちょっと! セターレ、それは王に対して不敬よ! そもそも私はいつもクリス様のお話をしていたのだけれど!?」
「そうですね。ですから王族がこぞってグルなのだろうと思っていたのですよ。まぁ、敵を欺くにはまず味方からと言いますし、それはそれで僕としては別にどちらでも構わないのですが」
「あ、あんたってほんと……どうしてそう捻くれた性格をしているの?」
飄々としたセターレにルチルはわなわなと震えている。うん、確かにルチルとはとても相性が悪そうである。
「これは僕の性分ですから仕方ありません。そんな事よりも僕が驚いたのは彼女の存在です。僕の占星術にはただの一枚も彼女は描かれなかった。何よりも実際にこうやってお会いしてみても彼女の未来は何一つ見えません。こんな事は初めてなので少し……そう、楽しいです」




