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「いや、例えばだってば。そういう些細な問題から国を揺るがすような情報も時たま流れたりとかしてね、あれは怖い機械よ。上手く使いこなさないと人は見る見る間に堕落していくの」
スマホを使いだした事で一番困った弊害が、漢字がすっかり書けなくなってしまったり、大抵の事はスマホが教えてくれるので自分で調べなくなってしまったことだ。辞書の引き方などとうに忘れてしまったと言っても過言ではない。
私がスマホの恐ろしさを滔々と語ると、それを聞いていたクリスとルチルは青ざめた。
「なんて恐ろしい機械なの……」
「全くだな。そりゃ皆社畜になるわ……ヒマリ! 良かったな、お前! スマホ置いてきて!」
「まぁね。ていうかそもそもこっちではスマホ使えないでしょ。どっかに電波塔立ってる訳じゃあるまいし。だから私が思うに、ルチルのあられもない絵っていうのは聖女がこっちに来る前にどっかから拾ってきた絵をスマホに保存してたんだと思うよ」
この世界でスマホが使える訳もないので、聖女が王に見せた絵とやらは間違いなく聖女の趣味だ。しかもその趣味というのがどうやら成人向けのイラストだと言うから何とも言えない。
「でも変ね。聖女はルチルの事を出しゃばり姫だなんて言うぐらいだから好きではないわよね? 明らかに」
「だと思うわ。だって、でなければあんな絵を持ち歩いたりしないわよ……あんな……私に相当恨みを持ってるに決まってる」
「聖女の持ってた絵っていうのは、ルチルが思わず恨まれてると思うような絵だったってこと?」
「ええ……」
そこまで言ってルチルはコロッケを一齧りしながら涙をこぼした。どうやら泣くほど酷い絵だったようだ。しかもそれをルチルが自ら絵描きに頼んで描いたと思われているらしい。
「なるほど。つまりあなたは今、とんだド変態扱いをされているという事?」
「……そう」
「災難ね。でも一つだけ言っておくわね。ド変態なのはあんたじゃなくて、間違いなくその聖女の方だから。そんなイラストをスマホに保存してた時点でその聖女の趣味がヤバいってだけの話だから」
どんな絵なのかは知らないが、ルチルが泣くほどの絵だった事は確かだ。そもそもそういうイラストをスマホにいちいち保存しているのはいかがなものか。
「にしても聖女は運がいいわね」
「何でだよ?」
「だってさ、そんな絵をスマホに保存しててよ? 今回の私みたいにたまたまスマホ持ってない時にこっちに来ちゃったらって思ったらゾッとするわ! それはつまり、社会的な死を意味するのよ!?」
もしも家族や同僚にそのスマホを見られたら、そう考えるだけでも滝汗状態である。
鼻息を荒くして一気に言った私の剣幕にクリスが一歩下がって頷いた。
「お、おう。何かお前もヤベーの保存してたのか?」
「私? 私はそんなの無かったわ。ただその……閲覧履歴が地獄だったかも……ね」
フッと鼻で笑った私を見てクリスとルチルがゴクリと息を呑んだ。
「どんな履歴だったんだ? 社畜の反逆の仕方でも調べたりしてたのか?」
「そんな事はしてないわ。私は清く正しい従順な社畜だったもの。ただその……婚活の真っ最中だったから理想の男性とか、性格か収入か、とか結婚適齢期とか、あまつさえ恋愛相談とかそういう履歴ばっかり残ってたと思うのよ! 恥ずかしすぎるでしょ!?」
「それは……恥ずかしい……のか?」
「普段なら別に恥ずかしくないわよ! ただ私、異世界に来てるのよ! それってさ、もしかして結婚出来なさすぎて蒸発したって思われてない!?」
「あー……なるほど。それはそう思われてるかもだな。今頃お前に結婚をせっついてた奴らは顔面蒼白もんだろ」
「そいつらが顔面蒼白になってるのは面白いからいいけど、困るのは凄く哀れに思われてんじゃないかなって事よ! そんなの……そんなの悔しすぎるじゃないの!」
たとえ社畜だったとしても人生を悠々自適に謳歌していた私だ。最終的にはお一人様バンザイ! だなんて言ってた私だと言うのに! スマホの履歴で何かを察せられて可哀想な子扱いされるのだけは我慢ならない。
私は半眼になってクリスを見た。
「ねぇクリス、あなた高位妖精よね? あっちの世界から私のスマホを取ってこられないの? 人間を送るのは無理でも、手の平サイズの物ぐらい取れるんじゃないの?」
「無茶苦茶言うなよ! おいルチル! こいつなんとかしてくれよ!」
「え! えっと、ヒマリ、落ち着いてちょうだい。ヒマリがここへやってきてから既に大分時間も経ってるし、多分もう色々と遅いと思うの!」
「慰めるの下手くそか! うぅ……私、こんなにも人生を楽しんでるのに……」
床に崩れ落ちた私を見てクリスが上から声をかけてきた。
「それはそうだな。僕はお前ほど自由に振る舞っている人間を見たことが無い」




