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「そうよ! あの女が変な機械を持ってきて、私のあられもない恰好の絵姿を父さまに見せたのよ!」

「あられもない恰好の絵姿? 変な機械?」

「そう! 何て言ってたかしら……すま……すま……も?」

「すまも? なに、それ」

「分かんない。でも私にそっくりだった。私にそっくりの絵姿で男の人とその……とにかく! そういう絵姿を見せたのよ! 父さまに!」


 ルチルは鼻息を荒くして机を叩いて立ち上がると、おもむろに揚げたてのコロッケを一つ摘んで豪快に齧った。


「あ、美味しい!」

「ちょっと! コロッケなんて食べてる場合じゃないでしょ! それとあんたがずぶ濡れになったのとどう繋がるのよ?」


 訳が分からない私に、それまで無言で眉をしかめていたトワがポツリと言った。


「もしかして姫、それが原因で追放処分を受けました?」

「はあ!?」

「おい、マジかよ」

「……」


 トワの質問にルチルはコロッケを齧りながら頷く。その目はまだ涙で潤んでいた。


「ちょっと待って、ただの絵でしょ? どうしてそれが勘当の理由になるの?」

「そういう絵を描かれたという事が問題なんだよ、ヒマリ。姫は高潔で清純でなければならない。そんな絵を誰かに描かれるという事は、性に奔放な人物だと捉えられても仕方ないって事なんだ」

「本人は至って純粋でも?」

「至って純粋でも。もちろん描いた人の罪が一番重いよ。何せ完全に不敬だから。最悪首が飛ぶだろうね。でも描かれた方にも問題がある。そういう私生活を送ってるんじゃないか? って誰かに思わせたって事だから」

「そんな! それは酷くない!? ルチル、本当なの!? 理由は本当にそれだけ!?」

「どうなのかしら……あまりにも私に似てたのも悪かったんだと思うわ。あれはまるで私だった。それが……良く無かったのかも」

「似すぎてるから悪いなんてどういう理屈だよ。意味わからん」

「絵姿を描く時、ある程度は想像の部分が多いんですよ。何故なら絵を描いている間ずっとその人を拘束しないといけない訳ですから。だからどんな優秀な絵描きでも普通はある程度下書きだけして仕上げます。そのせいで絵描きによって個性が出るし、最悪言われなきゃ分からないほど似てない絵もあります。でも今回の姫の絵は姫に似すぎていた。ということは、長時間姫がその場に留まって似すぎた絵姿を描かせたと考えるのが普通です」

「……マジか。ルチルはもちろんそんなの頼んでないんだろ?」

「当たり前です! というか、男性の前でドレスを脱いだ事なんてありません!」

「だよな。でも聖女はその絵姿を持ってた。それはどんな絵だったんだ?」


 腑に落ちないとでも言いたげにクリスが言うと、途端にルチルは顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。それを見て何となく察する。相当ヤバい絵だったんだろう、と。


「要は人様にお見せする事が出来ないような絵だった、と?」

「そうなの! もう母さまなんて失神しちゃったんだから!」

「それは災難ね。でもどうしてそんな絵を聖女が持ってたのかしら? それが変な機械に入ってたの?」

「すまも、でしたか? それはどんな物だったんです? この世界の物ですか?」

「いいえ、違うと思うわ。何か薄っぺらい長方形でこれぐらいの大きさなの。それを聖女はこうして操作してた」


 そう言ってルチルは私達の目の前で何かを操作する動作をしてみせた。その動きはまるっきりスワイプだ。


「ルチル、それ分かったかもしれないわ……」

「え!?」

「ええ!?」

「おい、マジか!」

「うん……それ、スマホって言ってなかった?」


 私の言葉にルチルはぽろりと持っていたコロッケを机の上に落とした。目を見開き、私を凝視してくる。


「それ! それだわ! 聖女だけに許された叡智の結晶だって言ってた! ヒマリ、もしかしてあなたも持ってるの!?」

「持ってる、ううん、正しくは持ってたわ。生憎こっちに来た時は不携帯だったのよね……スマホか。もしかして聖女はそれを探しに山に行ったのかな?」

「かもしれませんね。ノーマンに手紙を出しましょう」


 言うなりトワは神妙な顔をして立ち上がると、そのまま部屋へ戻っていく。


「なぁヒマリ、そのスマホとやらは何が出来るんだ? 叡智の結晶って本当か?」

「そうね。叡智の結晶は言い得て妙ね。スマホは電波って言うのを利用して世界中と繋がる事が出来たの。インターネットって言って、そこに繋げばほとんどの問題事は解決したわね」


 そう、例えば今日の晩ごはんだとか。明日の晩ごはんだとか。


 私がそう付け加えると、途端にクリスとルチルが半眼で私を睨んでくる。


「それはお前、別に切羽詰まった問題ではないよな?」

「ヒマリ? それは果たして叡智なの?」

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