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ポツリと本音を漏らした私を見ておばちゃんは大笑いしてクリスとトワは呆れたような顔をしているが、楽しい老後を送るためにはとても大事な事だと思う。寝ていてもお金が入る印税生活など、夢のようではないか!
「でも正直な所ヒマリちゃんのレシピ集が出たら私買っちゃうわね~。どれも美味しいもの」
「それだけがヒマリの取り柄だからな。でもレシピ本か……案外いいんじゃね? だってお前、料理屋とかやる予定ないんだろ?」
「ナイナイ。それだけは絶対にしない」
「じゃ、いいじゃん。皆が作れるようになったら食の水準はバカみたいに跳ね上がると思うぞ」
クリスの言葉に私が頷くと、トワだけは首をひねる。
「でもそれをしたら、下手したらヒマリは聖女扱いになってしまいませんか? いくら偽名を使ってもすぐにバレると思うけど」
「それは困る! やっぱレシピは今まで通り口伝で伝えていくわ!」
目立たないようにお金儲けをするという目標がある以上、決して目立ちたくは無い私だ。お話で言う所のモブが性に合っている。
すぐさま夢の印税生活を捨てた私を見ておばちゃんがとうとう声を出して笑った。
「私はどちらでも構わないけど、あなたは本当に欲があるのか無いのか分からないわねぇ」
それから私は早速コロッケのレシピを書いておばちゃんに渡し、店を後にして夕食の買い物をあちこちで済ませて帰路についた。
「ヒマリはそんなにも目立ちたくないの?」
「うん、目立ちたくない。目立って良い事なんて万に一つも無いってよく知ってるから」
道中、ふとトワがそんな事を私に聞いてきたので私はすぐさま返事をする。
「お前ずっと言ってるもんな。目立ちたくない。堅実に資産を増やして豊かで静かな老後生活を送るんだって」
「それは何度も聞きましたが、本当にそれだけが理由なのかな、と思いまして」
そう言ってトワが私の顔を隣から覗き込んできた。目立ちたくない理由。それは確かに他にもある。あるけれど、立ってるだけで相当目立つこの二人に話しても分からないのではなかろうか。
私はそんな事を考えながらも口を開いた。
「一言で言うと目立つってさ、面倒なのよ。例えば私の学生時代のお話なんだけど、クラスで一番目立つグループって言うのがあった訳。その人達はカースト・ジョーイっていう私とは真逆の生き物なんだけど、そういう人たちに目をつけられるとね、それはもう厄介な事に巻き込まれるの。で、こっちは根っからのカースト・チューキュー、もしくは下っ端だから変にそのジョーイに絡まれるとクラスのボスのキョーシからも目をつけられやすくなるのよ。言ってる意味分かる?」
「さっぱり分からん」
「すみません、分かりません」
「でしょうね。例えばトワがカースト・ジョーイだとしましょう。もちろんクリスもそのグループよ。で、あなた達が私と暮らしてる。それだけで私は周りから勝手にジョーイの仲間に入れられる訳よ」
「ふんふん」
「なるほど」
「普段はいいわよ? ジョーイからの恩恵もあるもの。でもね、ここで私が勘違いして身の丈に合わないジョーイの真似をしだしたとしましょう」
「うん」
「うん?」
「そうしたらどうなると思う? 正に虎の威を借る狐! そういう事してるとね、本来は仲間だったはずのチューキューと下っ端が敵に回るのよ。で、結局どちらにも行けず孤軍になるの。でも側だけはジョーイだから、もっともっと権威のある人たちからそのうち色んなお願いごとをされるようになってしまうの。それこそ無理難題をね!」
「なるほど。要は能力が低いのに、そのジョーイの振りをしたばっかりに自分の首を締めるのは嫌だ、って事だな? でもそれは調子に乗らなきゃ済む話だろ?」
「ノンノン。調子に乗っても乗らなくても一度貼られたレッテルは失墜するまで剥がれないものなのよ。そして失墜した時には時既に遅し。周りは敵だらけになってしまうの。社畜時代はそういう事を頼まれないように上手に己の自我を殺して周りのモブに溶け込んで生きてきたのよ。ていうか、社畜なんてほとんどそうよ。野心なんて持った時点で潰されるか叩き出されるかの世界だったからね!」
「こ、怖い所ですね……では、どうやって名声を上げればいいんです?」
「そんなの決まってるじゃない。コネよ。結局ジョーイだけで世界は回るように出来てんの。そこらへんはこの世界にも通じるものがあると思うわ」
「……確かに」




