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「そうですよ。純粋に財だけで言えばうちはソール家の足元にも及ばない。まぁ騎士家系だから守らなければならない領地が無いのがせめてもの救いだね」
「あー……確かにトワはあんまり領地の管理とかは向いてなさそう」
「だな。僕もそう思う」
カラリと笑ったトワに私とクリスが思わず言うと、トワは悔しそうにこちらを睨んできた。自分で言うのはいいが、人から言われると腹が立つというやつだろう。
「ごめんごめん! 別にトワにそういう能力が無いって言ってる訳じゃなくて、あなた真面目だから領地の人たちの事ばっか考えて自分の生活疎かにしそうだなって」
「そうそう。トワは沢山の人間をいっぺんに面倒見るタイプじゃねぇよ。お前は少人数をしっかり守りゃそれでいいんだよ。だから騎士は天職だろ」
「そうですか? ありがとう」
私達のフォローを聞いてトワは恥ずかしそうに頭をかいた。
別に褒めてもいないし、はっきりと「あんた、マルチタスク苦手でしょ?」とは流石の私も言えなかった。人に言われた事を素直にそのまま受け取るのはトワの良い所だ。と、思う。
「それで、今日は何か面白い話あった?」
私の問にトワは何かを思い出すかのように視線を彷徨わせていたけれど、ポンと手を打って言った。
「そう言えば、今日は一度も聖女とは会いませんでした。何でもブランシェ山に大事な物を忘れてきたとかで朝からノーマンが駆り出されていたようです」
「ブランシェ山って何だっけ?」
「あれだろ? 聖女が落ちてた山」
「ああ、そう言えばそんな山だったっけ。忘れ物っていうか、こっちに来た時に落としたとかなんじゃないの?」
「かもしれません。何にしても今日は良い日でした。ところで、今日の夕飯はなんですか?」
どうやらトワにとっては今や聖女に会わない事が良い日という基準になっているらしい。聖女はトワが推しだというから、聖女には可哀想な事である。
「今日の夕飯はまだな~んにも考えてないのよね~。何か食べたい物ある?」
「カレーがいい! 今日は朝からずっとカレーの口なんだ!」
「俺は和風パスタが良いです。あのキノコが沢山入ったやつ」
私の問に二人は顔を見合わせて全くバラバラの注文をつけてくる。
「えー……じゃあ間とってカレーうどんにする?」
「……全然、間じゃねぇ。カレーとうどん混ぜるとか正気かよ?」
「カレー……うどん?」
うどんを食べた事がないトワに横からクリスがうどんについて詳しく説明してやっている。何だかんだ言いながらクリスは面倒見がとても良い。
「カレーうどん舐めないでよね。案外手間がかかる料理なんだから。よし、今日の晩ごはんは決まりっと!」
毎日の夕食を考えるのは大変だ。あちらに居た時はそれこそネットを使って毎日の献立を考えていたが、こちらにはそんな物が無いので一から全部決めなければならない。こういう時には地球が恋しくなるが、まぁそれを嘆いても仕方ない。
カレーうどんにすると決めて副菜を考えながら歩いていると、後からクリスとトワがお行儀よくついてくる。こんな光景はもうこの町ではすっかりお馴染みになっていた。
「おばちゃ~ん! 牛すじちょうだ~い。あとね細切れも欲しい!」
「はいは~い、ちょっと待ってくださいよ~……あら、ヒマリちゃんじゃないの」
「どうも~」
「そうそう! ちょどいいわ、ヒマリちゃん。これね、仕入れの時に発注間違えちゃって困ってるのよ。少し持って帰ってくれないかしら?」
そう言って肉屋のおばちゃんが持ってきたのはミンチ肉だ。それを見てトワとクリスが顔を輝かせた。
「ヒマリ、ヒマリ、僕ハンバーグでもいいぞ!」
「俺もハンバーグ好きです。美味しいですよね!」
「あんた達こんな時だけ意見一致するのね。でも残念。これだけじゃハンバーグは無理。そうだな……ああ! じゃあ今日の副菜はコロッケにしよ! おばちゃん、そのミンチも合わせてお会計して」
「ミンチのお代はいいわよ。細切れはどれぐらいいるの?」
「ダメダメ! 商売なんだから安くしてでもちゃんとお金は取って!」
身を乗り出して言うと、おばちゃんは笑って「はいはい」と計算をし始めた。
「ヒマリちゃんはガメついのか何なのかたまによく分かんなくなるわねぇ」
「おばちゃんまで! 別にガメつくないってば!」
「ふふふ! でもあなたのそういう所が好感を持てるのよ~。はい、これ。ちょっとオマケしといたわ。今度そのコロッケというのも教えてね」
「もちろん! やっぱレシピ集とか出そっかなぁ~。こっちの印刷業ってどうなってるの? トワ」
「印刷業ですか? あまり発展しているとは言い難いですね。まだまだ印刷技術は高価なので」
「そっか~。偽名使って本にしたら印税ボロいかなと思ったんだけどな」
「お前というやつは本当に……」
「あなたという人は……」




