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「ちょっと言い方! バカね、クリス。よく考えてみなさいよ。お金よりも大事な物、それを私は今回手に入れる事が出来たのよ」
「何だよ」
「コネよ。ほら、前に私、腰やったじゃない? あの時に思ったのよ。今までみたいに化粧品とかオイルの原料とか自分で取りに行ってたらキリないなって。マリアンヌ様に頼んでも良かったんだけど、あの子嫁ぐじゃない? そうなったらマリアンヌ様の一存で動かせるものなんて知れてるわよね? その点マリアンヌ様から事前に聞いていた情報によると、スカーレット様は商家の一人娘なのよ。だから次の当主は彼女なの。てことは?」
「……自由に動かせる金が出来る?」
「そういう事! 何よりもあれだけの大金をポンと出しちゃうような資産家の娘って事でしょ? これはもう! ねぇ!? おまけに商家よ!?」
「おまえって奴はどこまでもブレねぇな! まぁでもヒマリの言う通りだな。全部自分でしようってのは無理があるし、コネはともかく信頼は金じゃ買えねぇもんな。目先の金貨をよく我慢したな! それでこそ社畜の鏡だぞ!」
「まぁね。もっと褒めていいわよ」
手を叩いてそんな事を言うクリスに私が調子に乗って言うと、クリスはすぐさま真顔になって言った。
「いや、褒めてはねぇよ。どこまでも社畜人生歩むんだなっていっそ感心しただけ。あんだけの金貨がありゃ、一生とまでは言わなくてもそこそこ遊んで暮らせんぞ?」
「そうね、それは私も一瞬目が眩みかけたわ。でもね、クリス。人生ってね、何が起こるか分からないの。大事な事だからもう一度言うわよ? 人生ってね、ほんっとうに何が起こるか分からないのよ。つまりね、人生の基盤はしっかりしていないと、後々足元を掬われかねないの。分かる?」
「わかんね。僕は人生イージーモードだから」
「でしょうね。でも私はあなたと違って超がつくほどの凡人な訳。だからね、若いうちに成功して年取って自分の首を締めるような事はしたくないの。堅実に。それが私のモットーよ」
言い切った私を見てクリスが半眼になって私をジトっと見てくる。
「……本当に見上げた社畜根性だよ。まぁでもいっか! 何かそっちの方が楽しそうだしな。お前は仕事辞めたら毎日毎日何をするでもなくビール飲んでグータラしてそうだし」
「悪かったわね! ド庶民で! ふん。あんたの晩ごはん、しばらくもやし炒めね」
「な、何でだよ! 肉食わせろよ!」
「肉なんて贅沢品、あんたにはまだ早いわよ!」
「何だと!? 言っとくけど今日の仕事は僕も一役買ってるんだからな!」
「はあ!? あんたは審判して私のボールから逃げ回ってただけでしょうが!」
顔を突き合わせて通りの真ん中でいがみ合っている私達の間に、突然長い影が割り込んできた。
「こんな通りで大声で肉だの贅沢品だの叫んでどうしたんですか?」
聞き覚えのある声にハッとして顔を上げると、そこにはおかしそうに笑いを堪えているトワがいる。
「トワ!」
「なんだよ、今日は早いじゃん」
「ええ。ヒマリの言う通り、未来の妻が寂しがっているので、と言ったら即帰してもらえました。まぁ、何だか皆に生暖かい目をされましたが」
「そうなの? まぁ婚約者っていう設定だしね。皆しばらくは気を使ってくれるわよ、きっと。おかえりなさい、トワ」
私の言葉にトワは一瞬だけ頬を染めて頷く。
「おかえり、お疲れさん」
「ええ、ただいま。で、さっきの話に戻りますが、こんな所で二人して何を喧嘩していたんですか? 通りの向こうまで噂になってましたよ? 『あっちでまた奥さんとクリス様が喧嘩してますよ』って」
おかしそうに肩を揺らしながらそんな事を言うトワに私とクリスはいっぺんに話しだした。
そして——。
「それは……どっちもどっちでは? それにしても、ソール家の娘さんと縁が出来たのですか。あそこは一代で財を築き上げた商家で、その功績を讃えられて貴族の仲間入りを果たした家なんですよ。スカーレットさんからしても、きっとあなたとの縁は大事にしたいでしょうね」
「何でだよ?」
「言ったでしょう? ソール家は新興貴族なんですよ。だから長い歴史を持つ貴族からすれば、財があればあるほど鼻につくわけです」
困ったものだ、と言いたげにため息を落としたトワを見る限り、きっと社交界やら何やらで色々見てきたのだろう。
「面倒よね、その価値観。別に貴族制度にどうこう言うつもりもないけど、歴史が長いだけで没落しかかってる家なんて吐いて捨てるほどあるでしょうに。一代で財を成したということは、それだけ優れた人間が庶民の中に居たってだけなのに」
「全くです。うちもその部類の家柄だしね」
「そうなの?」




