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「スカーレット様、今日のこの時間はスカーレット様にとって何かを思い出すきっかけになったに過ぎません。この先どんな風にあなたが自分の道を切り開いていくのか、それを決めるのは家ではなくてあなた自身だと思うんです。その為に本当のあなたを決して忘れないでくださいね。だって、本当のあなたはこんなにも笑顔が素敵な女性なんですから。笑わないなんてもったいないですよ!」
「……ヒマリ……」
「それに、もしこの先また迷ったり悩んだり疲れたりしたら、ここへ来て今日みたいに遊んで行けばいいんですよ。私たちはずっとここに居ますから。ね?」
お得意の営業スマイルを浮かべてそっとスカーレットの手に触れると、スカーレットは嬉しそうに頷いて微笑む。
「ええ、そうね……そうするわ。マリーから話を聞いた時、本当は半信半疑だったの。でも……来て良かった。何か胸のつかえが取れた気がする。人生を直してくれるという触れ込みは本当だったのね。私の心は今とても晴れやかだわ」
スカーレットはまた目の端に浮かんだ涙を隠すように指で払い除けると言った。
「私、次来るまでにはもっとテニスの練習をしておくわ! このネットとラケットとボール、そして作業着はどちらで買えるの?」
「えぇ!? えっと、ど、どこで……? ど、どこだろう? クリス」
「え、僕に聞くなよ、分かんねぇよ。とりあえず作ってもらって後で配達してもらえば?」
「そうだね! そうしよう! あ、ちなみに作業着なら私の手作りなので簡単なもので良ければお作りしますよ、スカーレット様専用のものを」
「まあ! あなたドレスまで作れるの!?」
「あ、いや今着てらっしゃる物程度のものが限界ですが……」
「十分よ! とても動きやすかったしメイドが居なくても着やすくて、何よりも軽かったわ! お化粧品も作れてドレスまで作れるなんて、あなた本当に何でも出来るのね!」
「いや~、それほどでも」
手放しに褒めてくれるスカーレットに気を良くして思わず照れた仕草をすると、隣からクリスが小声で茶々を入れてくる。
「器用貧乏なだけなんですぅ~、だろ?」
「うっさい!」
とは言え、まぁ実際はクリスの言う通りである。服飾関係の裏方の仕事をしていた事もあるので、裁縫やら型作りなどは一通り知っている。それを使って自分の服をいそいそと拵えていたのは秘密だ。部屋着など誰に見せるでもないのでそれで十分だったのだ。
「はぁ、私今日は本当に感動したわ! 私のお友達にも沢山宣伝しておくわね!」
それを聞いて私はパァっと顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」
「それじゃあ今日はこれで失礼するわ! テニス用品も届くのを楽しみにしているわね!」
そう言ってスカーレットは何を思ったかバッグから金貨が詰まった袋を取り出して私の膝の上に置いた。
「こ、こんなにはいただけません!」
小心者の私は思わず金貨を突き返すと、スカーレットはそれを受け取ってくれようとはしない。
「ダメよ。私にはこれぐらいの価値のある一日だったの。受け取ってちょうだい。それに、あらかじめ値段設定をしていないあなたが悪いのよ?」
スカーレットはそんな事を言って茶目っ気たっぷりに笑ってウィンクをして見せてくる。こんなにも重たい金貨袋をポンと渡してくる金持ち、怖い……。
絶対に返させないぞ、というスカーレットの強い意志を感じて、渋々大金を受け取ろうとして私はふと思いついた。そしてすぐさまそれを実行に移す。
「ではスカーレット様、こうしませんか? 今日のお代はこれだけにして、うちの商品の仕入れの相談に乗ってもらうというのはどうでしょうか?」
そう言って私は袋の中から金貨を数枚受け取って残りをスカーレットに返すと、スカーレットは驚いたように目を丸くした。そして次の瞬間また大笑いしだす。
「あなたって人は! もちろんよ! そんなのいくらでも相談に乗るわ! 本当にそれでいいの?」
「ええ! 今の私にはその方が金貨よりもはるかに価値がある物なので!」
「分かったわ。それじゃあ、商品の事で困った事があったら何でも言って頂戴。必ず役に立つとお約束するわ」
「はい! ありがとうございます」
気前の良いスカーレットに深々とお辞儀をした私は、テニス用品一式を近々送ると約束をして今日の仕事は無事に終わった。
改めて振り返ると、今日の仕事はただ単にお嬢様とキャッキャウフフ言いながら、なんちゃってテニスをしただけである。何と楽な仕事か!
ご機嫌で帰って行くスカーレットを通りまでクリスと見送って、帰りがてらに今日の夕飯の買い物に向かう途中、クリスが不審げに私を見てきた。
「金第一のお前が珍しいじゃん。あんな金貨目の前にして飛びつかないなんてさ」




