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 それだけ言って部屋を後にしたクリスを見て、スカーレットが両手で顔を抑えて椅子に崩れ落ちた。


「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫……はぁ……美しすぎない? クリス様……」

「う、美しい……?」


 毎日憎まれ口を叩かれているおかげでクリスの事を美しいなどと思った事もない私がポカンとしていると、スカーレットはガバリと顔を上げて早口で話し始めた。


「ええ、とても! 高位妖精様はどの方も人間離れした美しさだと言われているけれど、その中でも第五王子は飛び抜けて美しいと言われているの! まさか生きている間にご尊顔を拝める日がくるなんて!」

「え? 第五王子? クリスって第五王子なんですか?」

「知らなかったの!? そうよ、あの方は高位妖精第五王子よ。高位妖精の文献はとても多いんだけど、第五王子に関してだけはとても少ないのよ。というのも、第五王子はそのあまりの美しさ故に王妃があまり人間界へやりたがらないんですって」

「へぇ……美しさ故……」


 そんな事あるか? にわかには信じがたい話に私は曖昧に頷いて、テニスの準備を始める。

 

「おー、いいじゃん。ヒマリのは見慣れたけど、あんたも似合ってるよ」


 早速作業着に着替えて庭に出た私達を見てクリスが笑顔で言うと、それだけでスカーレットは頬を染め、まるで乙女のような反応をする。


「あ、ありがとうございます」

「おう。で、僕は審判でもやればいいか?」

「手伝ってくれるの? ありがとう。それじゃあスカーレット様、テニスのルールを説明しますね!」


 そう言って私は詳しくは知らない、あくまでもテレビやなんかで見ていただけの大雑把なルールを説明すると、スカーレットは真剣に頷いてメモまで取り出した。


「あ、あの! まだテニスはあくまでも新しい娯楽なので、きっとこれからどんどんルールも変わって遊びやすくなると思うので、そんなメモを取るほどでは……」


 何だかそんなスカーレットを見て良心が傷んで流石にメモを止めようとすると、スカーレットはキリリと凛々しい顔をして言う。


「その時はまたメモを書き直すわ! 私、こういうのはきちんとしていたいの」

「は、はぁ。ではルールが変わったらすぐにお知らせしますね……」


 仕方なくそう言うと、こちらの意に反してスカーレットは花のように笑った。


 そんなスカーレットを見てあまりにも申し訳なさすぎて思わず胸を抑えると、そんな私をクリスが何か言いたげに見つめてくる。


 が、何も言ってくれるな。私も分かっている。こんなトンチンカンなルールしか伝えられなくてごめん、と。


「そろそろ始めるぞ~。ほら、散れ散れ」

「あんたね、ご令嬢に何て口の効き方すんのよ」

「あ、いいの! クリス様は私よりもずっとずっと高貴で尊いお方なので!」

「だ、そうだ。ほら、さっさと持ち場に行けって。サーブどっちから?」

「それじゃあスカーレット様からどうぞ! 練習も兼ねて」

「いいの? ではいくわよ、ヒマリ!」

「どんとこいです!」


 それからどれぐらいテニスをしていただろうか。しばらくして私たちは冷たいハーブティーを飲みながら、梅の木の下で足を投げ出して大笑いしていた。


「もう止めてちょうだい! そんな事言ったらヒマリのラケットがスッポ抜けた時も相当だったわ!」

「いえいえ、スカーレット様の盛大なサーブが隣の家まで飛んで行ったのは忘れられませんよ~」

「僕はヒマリが打ったボールが僕めがけて飛んできたのが一番ヒヤッとしたけどな。あまりにも的確だから狙われてんのかと思ったわ」

「いや~ごめんごめん。な~んかあんたの所行っちゃうのよ」

「やめろよな、怖いから。ん? どした? スカーレット……っておい、泣いてんのか!?」


 それまで私とクリスの話をそれまで楽しそうに聞いていたスカーレットの目から、突然涙が溢れ出したのだ。ヤバい、機嫌損ねたか!?


「えぇ!? ど、どこか痛めました!? ちょっと横になりますか!? ま、枕は私の膝しかないですけど!」


 そう言って咄嗟に自分の膝を叩くと、それを見てスカーレットが今度は笑い出した。


「いいえ、違うの! こんなにも楽しかった時間、もう随分忘れてたなって……子供みたいにはしゃいで笑ってムキになって、足投げ出して草の上に座ってお茶飲んでまた笑って……どうして忘れてたのかしら……私は、本来の私はこんな風に過ごすのが大好きだったのに」


 そう言って涙を拭いながら困ったように笑うスカーレットを見て、思わず私とクリスは顔を見合わせて頷く。クリスの顔が「トドメを刺せ」と物語っている。

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