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「そうね……私、体を動かすことがとても好きなの。最近庶民の間で流行っているというボールを打ち合う遊びがあるでしょう? あれなんてとても楽しそうだわ」

「ああ、テニスですか?」


 それを聞いて思わず私は苦笑いをしてしまった。


 テニスは私とクリスが喧嘩ついでに庭でやっていたのを見た近所の人が勝手に真似をして流行らせたのだ。


 ちなみに喧嘩の原因は庭の草むしりをクリスがサボったからである。


「テニスと言うの? もしかしてもあれもあなたが流行らせた?」

「流行らせたと言いますか、クリスと喧嘩をしていた所を見られたと言いますか……」

「どういう事?」


 不思議そうなスカーレットに、私がクリスと大喧嘩をして互いにフライパンを持ってボールの打ち合いを始めた事を伝えると、スカーレットが一瞬目をまん丸にして次の瞬間、物凄く豪快に笑い出した。


「ス、スカーレット様?」


 そんなに笑う? ていうか、淑女ってこんな大口開けて体折りたたんで笑うの?


 思わずそんな事を考えた私とは裏腹に、ようやく笑い終えたスカーレットは目尻の涙を拭いながら言った。


「はぁ、久しぶりに大笑いしたわ。私ね、秘密なのだけれど本当は凄く笑い上戸なの。普段は頑張って抑えているのだけど、ここでは気にしなくても良いのよね?」

「もちろんです。笑いたい時に笑って泣きたい時に泣いて怒りたい時に怒ってください」


 客の懐に潜り込む。それこそ接客の極意だ。むしろそれをして始めて顧客の心を鷲掴み出来るのだ。


 スカーレットは私の言葉に安心したように微笑んでゆったりと座り直した。


「本当はね、ここに来るまで迷っていたの。マリーからあなたの噂や評判は聞いていたけれど、私達貴族は色んなしがらみのせいで自由に振る舞う事が出来ない。そう教育されてきたのよ。でもね、そういう生活はやはり心に支障をきたすのね。最近刺繍をしていてもため息ばかりつく私にマリーがここを勧めてくれたのよ」

「そうだったんですか! マリアンヌ様からスカーレット様に合う化粧品を選んであげて欲しいとお聞きしていたので、てっきり化粧品を見に来たのだと思い込んでいました」

「ええ、もちろん化粧品も見に来たわ。そのついでにあなたの事を信じられるかどうか見て来たら? と言われたの。ごめんなさいね、何だか品定めをしに来たみたいになってしまって」

「とんでもありません。化粧品にしても悩み相談でも、信頼出来る相手でなければ不安になるものです。だから今日は思う存分私を品定めして行ってくださいね」


 そう言ってにっこり笑った私を見て、スカーレットはまた大笑いしだした。どうやら本当にこの人は笑い上戸のようだ。


 けれど、何かに思い詰めたような暗い客よりはずっといい。私はスカーレットの向かい側に座ってお茶を入れた。


「お茶を飲んだらテニス、やってみますか?」

「え?」


 あまりにも唐突な私の質問に、スカーレットがポカンと口を開けた。流石のスカーレットも、まさかテニスに誘われるとは思ってもいなかったようだ。


「私とクリスはそれこそフライパンでやりあいましたが、町の人達がテニス専用のラケットを作ってくれたんです。それどころか今は専用のコートまで作ってしまったんですよ!」


 そう、私とクリスの喧嘩は大層話題になった。庭で暴言を吐きながらボールを打ち合う様を見て、気づけば庭の外には観客が沢山居た。その人達が新たな娯楽として昇華させたのがテニスだ。


 どうすればもっと楽しめるかという会議に無理やり引っ張り出されて、私は地球にはこんなスポーツなど無かったという体でバレないようにちょこちょことアイデアを出した。


 そうして出来上がったのがテニスコートとラケットである。思い切りあちらの世界の産物である。


 私の提案にスカーレットは目を細めて頷いたが、すぐにハッとして自分のドレスを見下ろした。


「でも、これでは動けないわ」

「大丈夫です! 私の作業着で良ければお貸ししますよ」

「まぁ! いいの!? ぜひやってみたいわ!」

「では早速着替えて行きましょう! クリスー! 作業着一着とラケットとボール出して~!」


 私が恥じらうこともなく店舗の奥に声をかけると、クリスが面倒そうに顔を出した。そんなクリスを見てスカーレットは慌てて立ち上がって美しすぎるカーテシーを披露する。


「自分で出せよな~って、何だ、客もう来てんのか。何? 今からテニスすんの?」

「そうなの。テニスコート空いてるかな?」

「どうだろな。最近テニスめっちゃ人気だからな。空いてなかったら庭にネット張れば?」

「そうだね。スカーレット様もその方が安心だもんね。それじゃあクリス、私は作業着とラケットの用意するからあんたは——」

「はいはい、ネットの準備だろ」

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