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手間がかかるが料理をしている間は何も考えなくて済むのでいい。無心になってお弁当を作っていると、玄関が開く音がした。どうやらトワが帰ってきてそのままシャワーを浴びに行ったようだ。
その後すぐにクリスがリビングに戻ってくる。
「トワ帰ってきたみたいだぞ~」
「うん、聞こえた」
「朝っぱらからシャワーとか元気だよな。顔洗ってたら追い出されたわ。うわ、めっちゃ美味そう!」
すっかり着替えたクリスはテーブルの上を見て目を輝かせる。そこへトワが戻ってきた。
「ただいま。遅くなってすみません。良い匂いですね」
「おかえり。先に渡しとくわね。はい、これお弁当。こっちにスープが入ってるからこぼさないようにね」
そう言ってお弁当と水筒を渡すと、トワは分かりやすく顔を輝かせた。
「ありがとうございます! 今から昼が楽しみです!」
「そう? でもまずは朝ごはん食べてね」
「はい! うわ、豪華ですね!」
そうしてトワもクリスと同じように朝食を見てゴクリと喉を鳴らしている。
「それじゃあいっただっきま~す!」
クリスの掛け声に私達もそれぞれ挨拶をして仲良く朝食を取った。心の中ではまだ昨夜の事で頭が一杯な訳だが、それは表には一切出さない。
「ふぃ~食った食った! 美味かった!」
後片付けを終えたクリスはおもむろにコタツに入って寝転がる。そんなクリスに苦笑いしながらトワが騎士団の服を整えながら言う。
「美味しかったですね。はぁ……朝からこんなにも幸せでいいんでしょうか……」
「幸せは疑わない方がいいぞ。逃げるからな。胸張って喜んどけ」
「ええ。そうします。っと、もうこんな時間なんですね。それじゃあそろそろ俺は行きます」
言いながらトワは立ち上がるとお弁当が入った袋をしっかり持ってリビングを出た。何気にここからトワを送り出すのは初めてである。
「それじゃあ行ってきます。出来るだけ早く帰ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
何気ない私の言葉にトワは口元を押さえて顔を真っ赤にしてコクリと頷く。そんなトワを見て思った。うん、やっぱりこの人、女慣れしてないなって。
トワを送り出して予約の時間まで私は少しだけ寝ることにした。目覚まし時計なんて物はこの世界には無いので、仕方なく枕元に壁掛け時計を置いておく。
「クリスのお弁当作っておいて正解だったかも……ふぁ……」
自分のお弁当を見てクリスはめちゃくちゃ喜んでいた。奴のお昼はあれで大丈夫だろう。
それから数時間。私は掛け時計が鳴る一分前にパチリと目を覚ました。これは社畜の頃の癖だ。時間直前になると自動で目が覚めるように設計されているのだ。
「やっぱちょっと寝ると大分楽だわ~」
大きく伸びをした私はシャワーを浴びて仕事場の支度をしていると、先に起きていたクリスの歓喜の声がリビングから聞こえてくる。どうやらお弁当がとても嬉しかったようだ。
準備を終えてリビングに行くと、そこにはクリスが犬のように弁当を貪っている。
「あんた高位妖精でしょ? マナーはどうしたのよ」
「マナー? そんなもんここで使う必要ないだろ? てかヒマリ! これめっちゃ美味い! 米を肉で巻くの天才だな!」
「ああ、お肉余ってたの。肉巻きおにぎりって言うのよ」
私の言葉にクリスは感心したように器用にお箸を使って肉巻きおにぎりを頬張る。そんなクリスを横目に私も昼ごはんを食べようとした所に今日の客がやってきた。タイミングの悪い事である。
「ごきげんよう、ヒマリ」
「お待ちしておりました、スカーレット様。どうぞ、こちらです」
今日の客はスカーレット・ソール。マリアンヌの刺繍仲間だそうだ。
マリアンヌから聞いた情報によると、家柄は男爵家らしいが、商家の一人娘で伯爵家ほどの資産があるらしい。とにかくお金持ちだ。
スカーレットは私を上から下まで眺めて小さく笑った。そんなスカーレットの反応に思わず私は身構えたのだが、私の思いとは裏腹にスカーレットはたっぷりとしたドレスの裾を摘んで言う。
「あなたのドレス、動きやすそうでいいわね。見てちょうだい、このドレス! 何にも出来やしないのよ!」
「あ、そっち……?」
どうやらスカーレットは私を品定めしようとした訳ではなくて、私の仕事着を見ていたようだ。
「そっち、とは?」
「いえ、すみません! ですがよくお似合いですよ?」
「いくら似合っていても私は本来こういうドレスは好きではないの。けれど世の正しい淑女はこういう恰好をしなければならないっていつの間にか決まっていたのよね」
「スカーレット様は本当はどんなドレスが良いのですか?」




