52
夕食がそろそろ出来上がろうかという時、玄関が突然騒がしくなった。
「なんだろ?」
「一人じゃないですね……何かあったのかな」
トワはお玉を持ったまま玄関に視線を向けてすっかり騎士の顔をしている。
「私ちょっと見てくるわ」
「俺が行きましょうか?」
「あなたはまだ休んでないと駄目。クリス、トワ見張ってて」
「あいよ~。ほら、溜まってきてんぞ。さっさと入れろよ」
「あ、はい」
クリスに言われてトワはすぐさま鍋に向き直ると、せっせと鍋にロールキャベツを投入しだした。
そんな二人を置いて私が玄関に辿り着いた途端に激しいノック音が辺りに響く。
「ちょっと! どこの誰だか知らないけどドア壊す気!?」
思いの外早くドアが開いた事に驚いたのか、ドアの前には3人のイケメンが驚いた顔をして立ち尽くしている。
「あ、申し訳ありません。こちらにトワが居ると聞いたもので」
3人のうちの長い髪を一つに束ねた男が言う。それを聞いて私は眉を吊り上げた。またか、と。
「居るけど……トワは病み上がりなの! また連れ戻しに来たの?」
「まぁまぁお嬢さん、そんな怒らんでやってくださいよ。ちょっと寮で問題が起こったんでトワに知恵を借りに来ただけですから」
3人のうちの渋いイケオジの言葉に私はフンと鼻を鳴らした。割とタイプだ。
「そんな訳だからちょーっと家、上げてくんない?」
3人の中で一番チャラそうな男がそんな事を言いながら無理やり家に上がり込んで来ようとしたので、私は思い切りそいつの足を踏んづけた。
「あんた達がトワの知り合いって保証も無いのに家に上げる訳ないでしょ? バカなの?」
言いながら私は後ろ手に玄関に防犯用に置いてあるフライパンを握りしめる。これはトワが防犯用にここに置いたものだ。フライパンはいい。盾にも武器にもなる、と言って。
「あー……ま、そりゃそっか。おーい、トワー! ちょっとこのお転婆ちゃんどうにかしてくんねー?」
男その3が私の頭越しに家の中に呼びかけると、トワがお玉を持ったままやってきた。
「三人揃って何なんですか。これから夕食なんですよ、うちは」
「あれ? ほんとにトワの知り合い?」
「ええ。すみません、他の騎士団の団長ですよ。右の長髪が白騎士隊の隊長、ヒュー・アーサー・ハリス。真ん中が黒騎士隊の隊長、レイモンド・アトキン・マケナリー、左のが聖騎士隊の隊長、ノーマン・S・ファース」
「……三人とも長ったらしい名前ね。で、何の用? うちの夕食の邪魔するぐらいだから急用なんでしょうね!? 時は金なり! しょうもない事だったらぶっ叩くわよ!?」
そう言って隠し持っていたフライパンを見せると、三人は苦笑いを浮かべてトワを見る。
「聖女様の言ってた事は本当なんですね」
「トワ思い切ったなぁ! まさかお前の好みがこういうタイプだったとは」
「顔はめっちゃ可愛いのに。でも気の強い女は好きだな~」
三人は好き勝手言って不躾に私を上から下まで舐めるように見つめてくる。大変不愉快である。
そんな私の気配を察したのか、トワがそっと私を自分の背中に隠してくれた。
「あまりジロジロ見ないでください。それで? 何の用ですか?」
「それが、玄関先で話せるような短い話じゃないんですよ」
「ていうか、さっきからめちゃくちゃ良い匂いがしてんだけど!」
「外まで良い匂いしてたな。こりゃ何の匂いだ?」
ヒューを除いた二人がそんな事を言いながら鼻を引くつかせていると、奥からクリスが現れた。
「おい、まだかよ。とっとと追い出せよ。飯の時間に来る奴らなんかロクな奴らじゃねぇだろ」
「こ、高位妖精様! ほ、本当にこちらにいらっしゃったんですね!」
クリスを見るなり三人は顔を強張らせてその場に膝をついて頭を下げた。そんな三人を見てクリスはまんざらでも無さそうに微笑む。
「おいヒマリ、トワ、見ろよ。普通はこうなんだよ」
フフンと鼻を鳴らしたクリスを見てトワが鼻で笑った。
「そうですか。でも、俺は俺なので」
「そうそう。髪も自分で乾かせないヒヨッコの癖に。あ! マドレーヌ!」
「ん? ああ、オーブン入れといたぞ」
「ありがと~! ほんと助かるわ~」
クリスにオーブンの使い方を叩き込んでおいて本当に良かった。髪は自分で乾かせなくてもオーブンが使えるのなら言う事などない。
「まぁな。俺はヒマリのパートナーだからな!」
「ヒマリは俺の婚約者です!」
トワが怒鳴った所でヒューが咳払いを1つした。ふと見ると彼らは分かりやすく震えている。季節は冬だ。玄関先はそりゃ寒い。
私は大きなため息をついて言った。
「仕方ないわね。ここで靴脱いで上がってちょうだい。クリス、スリッパ三人分持ってきて」
「りょうか~い」
スタスタと部屋の奥に消えたクリスを見て、3人は目をまんまるにして私を凝視してくる。
「あ、あなたは一体……?」




