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「あーもう、うるさいうるさい! じゃあ今日はロールキャベツに決まり! それでいい?」
「はい。あ、さっきの向日葵の種のケーキも」
「マドレーヌね。はいはい。それじゃ、次行くわよ」
「うん。ご主人、ありがとうございました」
私の掛け声にトワは八百屋の主人に深々と頭を下げる。そんなトワを見て店主はゴクリと息を呑んで慌てて両手を振った。
「いいですいいです! 頭上げてください!」
天下の騎士団長に頭を下げられた店主は耳まで真っ赤にしてアワアワしていて何だか面白いが、この後どの店へ行っても皆同じ反応だったので、トワはやっぱり凄いのかもしれない。
ようやく家に戻ってきた私はさっそく夕飯の準備に取り掛かった。まずはボールにひき肉と他の具を入れておいて、次にキャベツを丁寧に剥いてサッと茹でる。
「一度茹でるの?」
「うん、柔らかい方が包みやすいからね。って料理してるとこ見てないでもうちょっと寝てたら?」
「もう大丈夫。何か手伝う事ある?」
「そうねぇ……ああ、じゃあこれこねておいてくれる?」
「こねるの?」
「うん。それをこのキャベツで包むから」
「包む!」
「……いちいち反応が大きいわね。ところで味は何がいい? コンソメ? トマト? 和風?」
「和風のが好きかな。鰹節美味しいよね」
「トワのお気に入りは煮っころがしだもんね。分かった、それじゃあ今日のは和風にするね」
言いながら鍋にお湯を沸かし始めた私の隣でトワが一生懸命具材をこねている。そんな私達の間にクリスが無理やり割り込んできた。
「お前ら新婚みたいなオーラ醸し出すなよ! 僕も居るんだぞ!」
「あ、クリスちょうど良かった。ちょっとこの鍋見てて」
「え? ちょ、」
「さて、マドレーヌマドレーヌっと!」
何か言いかけたクリスをキッチンに残して私はダイニングでマドレーヌを作り始めた。背中でクリスとトワの喧嘩を聞きながら。
「おい! 狭いんだからもっとそっち寄れよ」
「……」
「無視かよ!」
「はぁ……せっかくヒマリと楽しく料理してたのに……何なんですか、ちょっとは空気読めません?」
「読んだからあえて来たんだよ! お前ばっか良い思いなんかさせねぇからな! 大体兎汁しか作れない奴がいっちょ前に料理に手出しすんな!」
「失礼な。この間も言いましたが、野草のスープも作れます! それに俺はヒマリの婚約者だから」
「あーはいはい。仕事上の婚約者な。まぁやらされてる事は大抵召使いだけどな?」
「それはあなたもですよね?」
「……言っとくけど、お前もこれからそうなるんだからな。朝から晩まで働かされるからな」
「そんな事もうとっくに覚悟の上ですよ。それよりそれ、良い匂いですね」
「あ、そ。ああ、出汁な。これは天才だよな。鰹節なんか猫の餌だと思ってたわ。実際ペットショップにしか売ってねぇしな」
「俺はここに来て初めて見ましたよ。へぇ……俺たち猫の餌食べてるんですね……」
「言うな! 考えるな! 美味いもんは美味い! それでいいだろ!」
「……そうですね。止めましょう。ところでこれ、いつまでこねればいいんだろう?」
「さあ? もういいんじゃね? なぁヒマリー、これどんだけこねんの?」
「んー? あ、もういいよ。ありがと。それじゃあ次はこれをこうやって丸めてここにドボン!」
「あっつ!」
「あっちい!」
ロールキャベツを入れた拍子に沸騰した鍋から熱湯が飛び出して二人にかかった。とは言ってもちょびっとだ。それをこの二人はいつも大げさに騒ぎ立てる。
「お前はどうしてそんなに雑いんだよ!」
「そうですよ、ヒマリ。俺とクリスだからいいものの、あなたが火傷したらどうするんですか」
「僕でも良くねぇ! こうやってお玉でそっと入れるとか出来んだろうが! ったく。トワ、さっさと丸めろ。僕が入れる」
「ええ。上手く出来るかな……こうやって……こう?」
トワが丸めた拍子にキャベツが破れて中身が飛び出した。
「破れてる! 中身出てる! お前も雑い……っていうか不器用だな。あーもう! 僕に代われ」
「じゃあ俺は入れる係をやりますね」
嬉々としてクリスからお玉を受け取ったトワはニコニコしながら鍋にロールキャベツを放り込んで行くのだが、その光景はあまりにも楽しげだ。
「ねぇあんた達さ、そうやってるとあんた達が新婚みたいだね」
思わず思った事をぽろりと言うと、二人して鬼のような形相で振り返った。
「何てこと言うんですか! 縁起でもない!」
「何てこと言うんだ! 縁起でもない!」
全く同じセリフを言う二人に私が思わず吹き出すと、二人はバツが悪そうに顔を見合わせて咳払いをしてその後は無言で作業をしていた。仲が良いのは良い事である。




