48
ここでそれを持ち出すとは! 思わず私が声を詰まらせると、いつまでも帰って来ない私を心配したのか、クリスがフワフワとやってきた。
「おいヒマリ、おせぇぞ! 何その荷物!? お前、散財しすぎだろ! しかも何か囲まれて……はっ! お前……とうとう盗んだのか?」
「ちがっ! てか、そこまで落ちぶれてないわよ! これは皆の善意よ!」
眉を吊り上げてジリジリと近寄ってくるクリスに私が言うと、それを聞いた途端クリスがパッと顔を輝かせた。
「おいおいマジかよ! しばらくご馳走じゃん! よし、お前らには僕が加護つけてやるよ! ヒマリ、魔法使っていいか?」
「魔法? 構わな——」
私が返事をするよりも先にクリスはさっさと両手を上げて何かブツブツと話しだした。はっきり言って怖い。
やがて独り言を終えたクリスが手を下ろすと、まるで雪のように金粉が降ってくる。その途端、その場に居た人たちが歓声を上げた。
「ちょっと、何か皆異様に喜んでるけど、あんた何したの?」
「何って加護つけたんだよ。この粉浴びると運気が超アップすんぞ。お前も浴びとけよ。最近悪口ばっか書かれて運気だだ下がりだろ?」
「あ、ありがと」
何となく癪に触るし加護という物がそもそもよく分らないが、降ってくる金粉はとても綺麗なので私も皆と一緒になって浴びた。中には金粉をドレスの裾に溜めている人もいる。持って帰って家族にもかけるそうだ。
「さ! 帰るぞ! トワが死にそうだ」
「え、そんな酷くなってるの!?」
「どうだろ。とりあえずやべぇぐらい震えてんな」
「マジで!? えっと、皆ありがとう! 今度お礼するからね!」
そう言って私は皆にお礼を言って大量の荷物をクリスと半分こして家路を急いだ。
家に戻ると玄関先でルチルが私達の帰りをまだかまだかと待っていて、私は青ざめた。そんなに酷いのか、と。
ところが。
「……ちょっと、あんた達これは一体どういう事?」
トワが寝ている部屋に急ぐと、トワの上半身が何故かぐっしょり濡れていたのだ。顔だけじゃない。何ならベッドまで水浸しだ。
「ご、ごめんなさい」
「わりぃ。とりあえず冷ませばいいんだろ? って思って水ぶっかけたらこうなったんだ」
「……バカなの?」
とりあえず私はトワの濡れた上着を無理やり剥ぎ取って、さっき服屋さんから貰ったシャツを早速トワに着せた。問題はベッドだ。完全に水浸しになってしまっている。
「はぁ、クリス、私の部屋に運ぶわよ」
「え!? なんで!」
「なんでじゃないわよ! 本当はあんたの寝室に運びたいぐらいよ!」
「嫌に決まってんだろ!」
「そう言うと思ったから私の部屋に運ぶのよ! 手伝って!」
「むー……しゃあねぇな」
クリスはどうやら自分に非があると思ったのか、唇を尖らせながらもトワを運ぶのを手伝ってくれた。
トワを私の部屋に運んでおでこに氷嚢を置いて毛布をかけてやると、トワはすぐさま毛布を手繰り寄せて安堵の息をついている。可哀想に。寒かったのだな。
「はぁ~。これで良し、と」
「ねぇ、こんなのでいいの? もっとこう冷たくしなくても大丈夫なの?」
「ルチルさん? あなた今まで風邪を引いて寝込んだ事は?」
「もちろんあるわ」
「そうよね? その時どうしてた? 水ぶっかけられた?」
「いいえ。むしろ暖かくして眠らされたわ」
「そうでしょ? トワも人間よ。風邪の時に水なんてかけたら余計に酷くなるに決まってんでしょうが!」
「ごめんなさいっ!」
「よろしい。じゃ、ご飯作ろ! あんた達キッチン行って野菜とか選別して仕舞ってきて」
「りょうか~い」
「それなら私も出来るわ!」
二人は嬉々として部屋から飛び出して行く。そんな二人を見送って私はトワの顔を覗き込んだ。
「トワ聞こえる? 意識はある?」
顔をしかめて毛布に包まっているトワに尋ねると、トワはコクリと頷いた。どうやら意識はしっかりしているようだ。
「何か食べられそう?」
「無理……です……」
「あ、そう。じゃあスープとかなら飲める?」
コクリ。もう一度頷いたトワを見て私も頷き、トワの頭を撫でて言った。
「分かった。それじゃあ作ってくるから少し寝てて。出来たら持ってくるわね」
「……あり……がと……」
トワは私が撫でた所を恥ずかしそうに自分で触ってポツリと言った。何だかそれが小さい子のようで思わず笑ってしまう。
「どういたしまして」
部屋を出た私はキッチンに向かい、いつものように腕まくりをした。トワには野菜とお肉で出汁を取って卵を溶かしたコンソメスープを作る。
社畜時代、私の唯一の趣味が料理だった。今思えばやっておいて良かった、節約自炊である。
「ここにパセリ散らして、はい、かんせ~い」
「美味しそう!」
「良い匂いだな~」




