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 大の男を一国の姫が担いでくるのは無理があるだろう。私のそんな疑問にルチルはお姫様とは思えないような般若のような顔をする。


「私だって好きで担いで来たわけじゃないわよ! でもこうでもしないとお城を出られなかったのよ! 私もトワも!」

「何だお前ら、城に監禁でもされてたのか?」

「それに近いです……トワは聖女に捕まって四六時中付きまとわれていて疲弊しきってたんです。私は私でお見合いばかりさせられていて……」

「お見合い? 何でまたこのタイミングで? 最近はずっと無かったのに」

「それがね! 聞いてくれる!?」


 何か思う所があるのだろう。ルチルはグイっと私に近寄ってきたが、その足元ではトワが今にも死んでしまいそうな声で唸っている。


「あー……とりあえずトワが先ね。ルチルも手伝って」

「分かったわ。全く、生真面目に相手なんてしてるからこんな事になるのよ」


 ため息をつきながらルチルはトワのブーツを脱がしていく。うちは完全日本スタイルなので室内は土足厳禁である。


「騎士の靴を姫が脱がすってなんか面白いな! 斬新!」

「クリス様!? 私だってしたくてしてる訳じゃ——もう! どうしてこんな脱ぎにくい靴履いてんのよ!」


 乱暴に、最終的には無理やり引っ張ってトワのブーツを脱がしたルチル。それを見てクリスはまだ笑っている。


「ほら運ぶわよ! クリス、手伝って!」

「おう」


 珍しく良い返事をしたクリスが私とは反対側からトワを支えてどうにか二人でトワの部屋に運び込むと、それから二人に熱が出た人にする簡単な対処法を教えて買い物に出た。


「おじさ~ん! 生姜ちょうだ~い」

「おう! 強欲な名付け役様じゃねぇか!」

「ちょっと! 言い方!」

「ははは! あの記事読んで皆で笑ってたんだ。確かに文章にしたらヒマリはな~ってな」

「……クリスと同じ事言う……」

「そりゃしゃあねぇな! しかも騎士様の婚約者の方でも同じ事言われててもう大爆笑よ! いや~聖女様分かってるね~って」

「酷くない!? もう愚痴聞いてやんないからね!」

「わりぃわりぃ! で、生姜だったか。どんぐらいいる? 次は何作るんだ?」


 店主は私をからかいつつ生姜を色々な角度から吟味して、綺麗なのを選んでくれている。


「それがねぇ、トワが熱出しちゃって。震えてたから何か温かいスープでも作ろうかと思ったの。あ、ネギも欲しい!」

「騎士様が? そりゃいけねぇ! 栄養のつく野菜セット作ってやるからちょっと待ってな!」


 そう言っておじさんは血相を変えて店の奥に引っ込んでいく。なかなか出てこないおじさんを店先で待っていると、あちこちから通りすがりに声をかけられた。


「よ! 強欲花嫁!」と。


 あの新聞のおかげで本当に言われたい放題だし、これは完全に誹謗中傷ではないのか! 名誉毀損で聖女を訴える事も出来るのではないか! 


「あらあらヒマリちゃん、こんな所で途方にくれてどうしたの」

「あ、肉屋のおばちゃん! それがね、トワが熱出したから生姜ちょうだいって言ったら、栄養満点野菜セット作ってくるから待ってろって言われて待ってるんだよね~」


 肉屋のおばちゃんは大のトワファンなので、心配させてしまわないように出来るだけ深刻にならないように告げたのだが、どんなに明るく伝えても無駄だった。


「熱!? 高いの? 風邪!? 騎士様が風邪を引くなんてよっぽどよ! ちょっと待っててちょうだいね!」


 それだけ言って今度は肉屋のおばちゃんも姿を消してしまう。トワは国民から本当に愛されているのだなぁ、なんて呑気に考えていると、ようやく八百屋の店主が出てきた。


「おう! これはうちからサービスだ! 持ってけ!」

「え、多っ! こ、これは流石に多いよ!」

「いい! 気にすんな! トワ様は戦場では悪魔だなんて呼ばれてるしいっつも無表情だけど、あの人はずっとこの国を第一線で守ってくれてんだ! 感謝してもしきれねぇんだ!」

「はあ」


 トワってそんなに凄いのか。そんな事を考えていると、今度は後ろから呼ばれた。振り返るとそこには肉屋のおばちゃんを始め、商店の人たちが何やら手に色んな食材やら雑貨を持って集まってきていた。


「こ、これは……何事!?」

「ヒマリ! これ、元気が出るお肉セットよ!」

「私は風邪も裸足で逃げ出す薬草セット!」

「うちは溺れるほど寝汗かいても安心セットだ」

「これも使って。もう二度と目覚められない至高の安眠枕」

「それは何ていうか怖すぎる枕ですね……えっと皆さん、お気持ちは嬉しいけど、こんなには持てないっていうか、流石に全部いただくわけには……」

「何いってんだ! 強欲が売りだろ!? ラッキー! ぐらいに思っとけ!」

「そうよ! タダより美味いものはない! っていっつも言ってるじゃないの!」

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