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 クリスはそう言ってさっさと自分の分をテーブルに持って行く。その後にルチルもホクホクした顔をしてついて行った。私はと言えば。


「これトワに持って行ってくるわね。先に食べてて」


 特製風邪スープを持って部屋に戻ると、トワはぐっすり眠っていた。来た時よりは随分顔色も良くなっているが、体を触るとまだ熱い。


「トワ、寝てる所悪いんだけど、これだけ飲んでクスリ飲も」

「ん……? あぁ……」


 うっすらと目を開けたトワが私を見て眩しそうに目を細め、何故か私に向かって手を伸ばしてきた。その仕草が無駄に色気があって眼福だ。


「どうしたの? 起きる?」

「ん……可愛い……ほんと……なんでそんな可愛い……はっ!?」

「は!?」


 もしかして寝ぼけてんのか!? 思わず声を上げた私にトワはようやく完全に覚醒したようで、顔を真っ赤にして飛び起きた。いや、赤いのは熱のせいかもしれないが。


「お、俺、今なにを……」

「完全に寝ぼけてたわよね? 何の夢見てたの?」

「いや、夢って言うか、その境目に居たって言うか……あ、良い匂い」

「鼻もちゃんと効くのね? 体はダルくない?」

「怠いですけど、大分マシ……です」


 一体何の夢を見ていたのか、トワは私からスッと視線を逸して俯いた。


「はい、これ。これ飲んでクスリ飲んで、今日はもうゆっくり寝てちょうだい。食べ終わったら食器はそのままでいいからね。また様子見に来るから」

「ヒマリが……無条件に優しい……」

「そりゃ病人だもの。病人にもいつもの態度だったら、本当に私鬼みたいじゃない」


 あまりの言い草に一周して笑ってしまった私を見てトワも柔らかく微笑んだ。


「ありがとう、ヒマリ。風邪の時に誰かに優しくしてもらうなんて久しぶりすぎて恥ずかしいね」

「そうなの? あ、そっか……ご両親もう……」

「ええ。大分小さい頃の事なのでそれは別にいいんですけど、何ていうか……うん、凄く嬉しい」

「そう? それは良かったわ。でも早く良くなってね。でないと町の人達が皆押しかけてきちゃうかも」


 そう言って私はもう一度子供にするようにトワの頭を撫でてスープをトワの膝の上に置いてニヤリと笑った。


「フーフーしてアーンしてあげようか?」

「い、いいです! 流石にそれは恥ずかしすぎます!」

「ふふ。それじゃあちゃんとクスリも飲んで寝てね」

「はい、ありがとうございます」


 そう言ってトワはスープをうっとりした顔で飲み始めた。それを見届けた私は部屋から出てダイニングに戻ると、そこではクリスとルチルが美味い美味い言いながら夕食を食べている。そんな光景を見てふと思った。


「私……結婚もしてないのに、何か三人のママになったみたい……」


 と。


 トワ発熱事件から二日後、ようやくトワの熱が完全に下がった。今はすっかり見違えるように元気になったトワはいつものように食卓で食後のお茶を飲んでいる。昼間にトワがここに居るのが何だか変な感じだ。


「はぁ……一月分ぐらい休んだ気分です」

「そんな大げさな。騎士団ちょっと働きすぎなんじゃないの?」


 私の言葉にトワは苦笑いを浮かべて頷いた。


「警護の仕事に休みなんてほぼありませんから」

「嘘つけ。騎士団の連中、結構休んでんだろ? お前だけが働きすぎなんだよ」

「まぁそれは否定出来ませんね。騎士団の団長なんてやってると、休みの日でも仕事が舞い込んでくるんですよ」

「それはそうね。たったの2日で何回追い返したか」


 トワが寝込んでいるというのに騎士団の下っ端共は何度もやってきては、無理やりトワを連れて行こうとした。主に聖女関連で。その度に私は猫を被るのも忘れて怒鳴りつけ、追い返していたのだ。クリスと共に。


「本当に助かりました。おかげで久しぶりにぐっすり眠れた」

「トワの今回の急な発熱は間違いなくそれだからね? 過度なストレスと栄養失調と睡眠不足! 忙しいからってどうせロクな物食べてなかったんでしょ? 戦争で食べないのに慣れてるからってそういう無茶は寿命縮めるわよ?」

「はい、すみません」


 説教する私を何故かトワはニコニコした顔で見てくる。コイツ全く懲りてない!


「もう! トワにはこれからは毎日お弁当作ろうかな」

「え!? ほ、本当に!?」


 お弁当にそんなに食いつくか? と思うほどトワは顔を輝かせているが、それを聞いてクリスは羽根を広げて立ち上がった。


「え!? 弁当? こいつだけ!?」

「あんたは家で私と食べるでしょうが! だってトワが今回みたいに倒れたら、結局忙しいの私じゃない。それならトワが倒れないように栄養管理してた方が全然楽だもん」

「あ、そういう……」

「なるほどね~やっぱヒマリだな~! 超がつくほどの鈍チン♪」


 私の本音を聞いてトワは何故かガックリ肩を落とし、今度はクリスが喜んでいる。

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