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「そうですね……残念ながら。でも姫はうちの騎士団の連中には一番人気なんですよ。ほら、あの方は誰にでも気さくで親しみやすいから」
そう言ってトワはクッキーを齧って目を細め、ホットチョコレートを飲んで安堵の息を漏らしている。先程の騎士団の人たちに見せていた顔とは大違いだ。ちょっと気を抜き過ぎではなかろうか?
「確かにルチルは親しみやすいわよね。まぁ大体の話は分かったわ。それで? ここに来たらもう大丈夫なの?」
「多分、大丈夫かと。婚約者の元にクリスを連れて行くと言ったら王も賛成していましたし」
「へぇ、王は婚前の男女が一緒に住むのを許せる派か」
感心したようにクリスが言うと、何故かトワが視線を泳がせた。
「なに? 何か怪しいわね。トワ、何か隠し事してない?」
「え!? いや、それについてはその、ちょっと嘘をついたと言いますかその、あの」
「なに? 怒らないからはっきり言ってみて?」
にっこり笑った私を見てトワが引きつった。私の隣では既にクリスが眉を吊り上げて怒る気満々だ。
「あー……その、もしかしたらヒマリのお腹に自分の子供がいるかもしれないので、と……その……ごめんなさいっ!!」
「はあ!? 何でそんなすぐバレるような嘘つくのよ!?」
「そうでも言わないと聖女と結婚させられそうだったんですよ!」
「それこそ何でよ!?」
涙目で立ち上がって頭を下げたトワに私が言うと、クリスが呆れたようにため息を落とした。
「そりゃお前、聖女は僕たちの次の次に貴重だからな。その聖女が見初めたとか何とか言ったら、王は簡単に独身の騎士団長を生贄にするだろ。それで聖女をこの国に縛り付けようって事だよ」
「全く同じことを姫も仰っていました。俺もそう思います。なのでヒマリ! ほとぼりが冷めるまではそういう事にしておいてください!」
「いやいやいや、しておいてくださいったって具体的にどうすんのよ?」
そんな嘘をつこうにも医者の診断書やらを見せろと言われたらそれでお終いだし、そもそもどこの医者がそんな茶番に乗ってくれると言うのだ。
私の質問にトワは頭を抱えて座り込んだ。
「やっぱりダメか……どうしよう、本気で聖女と結婚させられるのか……」
まるで床にめり込んで行くんじゃないかと思うほど落ち込むトワを見て私とクリスは顔を見合わせてため息をついた。
「分かったわよ。でもそれが出来るのも数ヶ月の話よ? それまでには何とかして聖女を諦めさせなさいよ?」
「そうだぞ。絶対バレないようにしないとな。癪だけどトワが買い物行くと良い肉入れてくれる率高いんだよな」
「そうそう。その他にも色々食材くれるのよね、これ団長に~って。よし、まずは協力してくれそうな医者探そっか!」
私とクリスが立ち上がると、トワはようやく顔を上げて目を輝かせる。
「お二人とも、ありがとうございます! このご恩は一生忘れません! あと、俺の事を二人がどういう目で見ているかもよく分かりました。そちらも一生忘れません……はぁ……何も伝わってない……」
トワは完全に自分が買い物要員だと言うことに気づいたのか、しょんぼりしながら何やら独り言を言っているが、生憎私には聞こえなかった。
それからさらに2日後、事態は良くなるどころか悪くなる一方だった。
まずトワがこの2日、城から戻って来ない。マリアンヌを介したルチルからの情報によると、どうやら聖女がトワを城に引き止めているらしい。そのせいで騎士団の鍛錬に遅れが生じているという。
「わたくし、それを聞いた時もう腹が立って腹が立って! ヒマリはこんなにも素晴らしい方なのに、どうしてあの方はあんな事を言うのかしら!? それにしてもこのお茶美味しいわ。どこのお茶なの?」
ルチルからの伝言を伝えに来てくれたマリアンヌは、自家製ハーブティーに舌鼓を打ちながらようやく笑顔になった。
「庭でハーブを育ててるんです。良かったら少し持って帰りますか?」
「まぁ! ハーブを自分で? ヒマリは本当に何でも出来るのね! とても嬉しいわ! ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。ちなみにこのお茶にはリラックス効果があるんですよ。ついでに言うとビタミンがとても沢山含まれているのでお肌にもとっても良いんです! 他にも便秘に効くと言われているものや、胃の調子が良くなるお茶なんかもあるので、気になる事があったら何でも仰ってくださいね」
ここぞとばかりにハーブのお茶の効能を語る私をクリスが白い目をして見つめてきた。
バレている。クリスにはしっかりとバレている。これを機に私がハーブティーを商品にしてしまおうと思っている事が。
案の定私の説明を聞いてマリアンヌは瞳を輝かせてこう言った。
「これも商品なの?」
と。ヨシキタ!




