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「そうですね。はぁ、もう何から話したら良いのやら」


 言いながらトワは私達の後をついてきた。

 

 ホットチョコレートとボックスクッキーを食べながら私はトワの身に起こった話を聞いて、涙を拭う振りをすると、そんな私をトワが恨めしげに見つめてきた。


「不憫だねぇ」

「生まれて初めて騎士になどなるんじゃなかったって心の底から思いましたよ」


 トワはそう言って大きなため息を落とす。


 トワの話によると、あの訂正新聞が出た直後、突然聖女が寮を訪ねてきたらしい。そして何を思ったか、突然自分もその寮に住むと言い出したそうなのだ。


「そんな急に来て住むって言い出すって凄いな。しかも男所帯にだろ? 聖女の倫理観もなかなかヤバいな。むしろヒマリ以上だな」

「そうなんですよ。聖女の言い分としては自分が騎士団寮に住めば、わざわざ騎士が聖女を四六時中護衛しなくても済むだろう? という事なんですが、こちらとしては男だけの寮に女性がやってくるのは問題事が起こる予感しか無いわけです」

「それはそうよね。狼の群れに羊一匹放り込むようなもんよね」


 それは何と言うか、さぁ食ってくださいと言わんばかりである。私がコクコクと頷くと、トワはクッキーを齧って目を輝かせた後、また暗い顔に戻る。


「騎士団寮には規約があって、揉め事が起こった時には寮に住んでいる人間で解決しなければいけません。事と次第によっては最悪除隊させられるんですが、俺は揉め事の匂いしかしないな、と思って」

「で、さっさと荷物まとめて出てきたって訳か」

「はい。一応、直属の部下にも伝えてきました。逃げるなら早いうちがいいぞ、と」

「直属の部下、って、騎士団全員がトワの部下じゃないの?」

「違いますよ。俺は王専属騎士団の団長なんです。騎士団寮にはうちの他に3つの騎士団がそれぞれの区画に住んでいるんです。それぞれの騎士団寮にはそれぞれに古くからルールがあり、それはたとえ団長であっても守らなければなりません。例えばどこの寮にも共通するのが女性を連れ込むのは禁止、とかそういうのなんだけど……」

「まず大前提に引っかかってるじゃない」

「そうなんです。だからもちろん各団長は俺も含めて反対しましたが、王は特例としてさっさと承認してしまったんですよ。唯一反対してくれたのは姫だけでした……」

「ルチルな。あいつは案外常識人だからなぁ。女一人が騎士団寮なんかに入ったら何が起こるかなんて分かってんだろ」

「だと思います。そのせいで姫の株が下がってしまったのは大変申し訳ないなと思うわけですが……」

「そうなの?」

「はい。聖女が姫をどんな風に思っているのかは城に居る間に散々聞かされていたので、まぁ今回の件も明日から色々言われるんでしょうね」


 そう言ってトワは辟易した様子で項垂れた。


「あ~聖女がルチルのネガキャンしてくるんだ。仲いい人の陰口って嫌よね」

「そうなんですよ。俺と姫は役職以上の付き合いはさほどありませんでしたが、ここへ来るようになってから姫の人となりを以前よりも知るようになって少なからず信頼に値する人だと思えるようになったのに、そこに来て延々聞かされる愚痴にそろそろ俺もうんざりしていると言いますか」

「そういうのは聞き流すのが一番って分かっててもイライラするのよ。でも何でそんな必死になってルチルのネガキャンするんだろ」

「分かりません。ただ彼女が巧妙だなと思うのは、まず自分はそうは思わないけれど、と断りを入れるんですよ。それから特定の人の愚痴を誰かが言ってた体で漏らすので、最初は謙虚に聞こえるんですよね。それが怖い所です」


 それを聞いて私は深く頷いた。


「いるわ。いや、いたわ、そういうヤツ。味方の振りしてガンガン背中から撃ってくんのよ。でさ、言い返したら急に私は撃ってないって顔すんの。さりげな~く他の人のせいにすんのが異様に巧いのよ」

「そう! まさにそうなんだよ! だから最初は俺も聖女の言い分も聞いてたけど、何かおかしいなって。流石ヒマリ!」


 分かってくれるのか! と言わんばかりに顔を輝かせたトワにクリスが鼻で笑いながら言った。


「そこは流石社畜! の間違いだろ。しっかし嫌な女だな。そんで? その感じで王様を頷かせたって訳か」

「その通りです。王は聖女を端から疑ってはいませんし、何なら姫の方が自由気まま過ぎてあちこちで苦言を言われていた訳です。だから余計に信じ込んでしまってるんですよね」

「え、父親でしょ? そこは信じてやんなよって思うんだけど?」

「俺もそう思う。でも王には娘だけで5人もいるからさ、その一番の跳ねっ返りというか、やんちゃなのが姫なので」

「……ルチルが自分でまいた種でもあるって事ね」

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