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「ちょちょちょ! 誰だよ!? てか入っていいなんて言ってな——」
クリスの声が途切れたかと思うと、玄関が賑やかになった。一旦火を止めて玄関に向かうと、騎士団の制服を着た数人の男たちが家具を担いでどドカドカと家に上がり込んでくる。
「ちょっとあんた達、壁に傷とかつけないでよ? クリス、案内してやってちょうだい」
「はぁ……りょうか~い。ほら、こっちだ」
クリスとトワのやりとりを聞いていた私が低い声で言うと、騎士たちは突然背筋をシャンと伸ばして威勢の良い返事をしてキビキビと動き出したのだが、何故か皆顔が引きつっている。
怪訝な顔をしていた私の元にようやく大きな箱を担いだトワがやってきた。
「ヒマリ、すみません、何の連絡もしないで」
「本当よ。一体どういう事? クリスじゃないけど、来週からって言ってたわよね?」
「そうなんですが……ちょっと寮に居づらくて」
「寮に居づらいって何でまた——あいつら! 壁にぶつけたわね!?」
最後まで言い終えないうちにトワが住む予定の部屋から大きな音が聞こえてきて私が眉を吊り上げると、それよりも先にトワが動いた。
「お前たち! 慎重に運べと言っただろう!」
「も、申し訳ありません! 隊長の家具が——」
「家具などどうでもいい! 家を傷つけるなとヒマリが言っている! 従え!」
「はいっ!!」
それだけ怒鳴ってトワはくるりとこちらを向いた。
「えっと、で、何の話をしてたっけ?」
「いや、だからあんた寮に居づらいってどういう事よ? って」
「それは彼らが帰ったら話します。あ、これお詫びのビールです」
そう言ってトワが差し出してきたのは私が美味しいとべた褒めしたビールだ。私はそれを嬉々として受け取ってそのままクリスに手渡す。
「夜まで冷やして晩ごはんの時に飲も! これめっちゃ美味しいから」
「へぇ、楽しみ。で、これは冷やして来いって事?」
「そう。よろしく」
「へいへい」
すんなり従うクリスを見て騎士たちが唖然とした顔をしてこちらを見ているが、そんな騎士たちを無視して私はトワに詰め寄った。
「ねぇトワさん? ビールを貰っておいて言うのも何だけど、あなたの事情がどうであれ、こちらにも都合ってものがあるのよね。せめて先に馬で手紙届けるとかそういう事は出来なかったの?」
「いやその、出そうとは思ったんですよ? でも聖女に掴まりそうになったので着の身着のまま最低限の家具だけ馬車に詰めて飛び出してきたんです」
「聖女に捕まりそうになった? まだ追いかけられてんの?」
「はい……もう俺に婚約者が居ようが居まいがお構いなしと言いますか、むしろ自分の屋敷にクリスと来たらいいとか言い出す始末で……」
そう言って大きなため息を落としたトワを見て私は思わず憐れみの目を向ける。
「災難だったね。まぁもう来ちゃったもんはしょうがないけど、荷物運び終わったら晩ごはんの買い物してきてくれる?」
「ええ! お安い御用です」
笑顔を浮かべて頷いたトワを見て騎士たちがその場で持っていた家具を落とした。それを見てトワはまた怒鳴りつけた。私が怒るから! と言って。
しばらくしてようやく全ての家具を運び終えた騎士たちにクリスに頼んでチョコレートを配ってもらった。
「はいよ、ごくろうさん」
「あ、ありがとうございます!」
「ほら、お前もな。おつかれさん」
「一生大事にします!」
「いや痛む前に食えよ。ヒマリー、配り終わったぞ~」
「ありがとね、クリス。あんた達もお疲れ様。はい、これタンドリーチキン。帰り道にでも食べなさい」
作り置きしてあったチキンを騎士に渡していると、そこへトワがやってきた。
「お前たち、今日は休みの所すまなかったな。聖女にもし俺の事を尋ねられたら、もう婚約者の家に行ったから気遣いは無用だと伝えてくれ」
「とんでもありません! 隊長の御役に立てた事、嬉しく思います! 聖女様にもそのようにお伝え致します! ヒマリ様、本日はお騒がせして申し訳ありませんでした! お菓子とチキンもありがとうございます!」
「いいのよ。気をつけて帰んのよ」
「はい!」
騎士たちはそう言ってビシリと敬礼をして馬車に次々に乗り込んで行く。
そのまま馬車が見えなくなるまで手を振っていると、隣でクリスとトワが怪訝な顔をして私を覗き込んでくる。
「やけに愛想を振りまきますね」
「当然でしょ。こういう印象操作って大事なんだからね! トワの婚約者は愛想が無くて傍若無人だったなんて言われたら、今度こそ私ヘコむわ」
「ははは、なるほど。俺の婚約者どのは流石ですね」
「全くだ。どんな時でもブレない上辺だけの愛想を振りまく女、それがヒマリだもんな」
「あんたは一言多い! さて、それじゃあホットチョコレートの続き作ろ~っと。ついでにトワ、詳しい話聞かせてよ」




