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「ええ! でも今回は無料でお譲りします。姫からの伝言、本当にありがとうございました」
「いいの!? ありがとう! 試してみて良かったらまた買いに来るわね!」
「はい! ありがとうございます!」
「ふぅ、でも本当にこのお茶にはリラックス効果があるのかも! あれだけ腹が立っていたのに、もうすっかり忘れちゃったわ!」
「……嘘つけ。んな早くに効果出るかよ。イテッ!」
マリアンヌに聞こえないようにボソリとそんな事を言うクリスの脇腹を抓ってニコニコしながらマリアンヌを見ると、すっかりリラックスした様子でお菓子を食べ始めた。完全にプラセボ効果である。
「でも不思議ですね。私は聖女とお会いした事なんてないんですけど」
マリアンヌの話では、今まではルチルと高位妖精の名付け役の悪評(?)を広めていた聖女だが、ここに来て突然トワの婚約者についても吹聴し始めたというのだ。
「そうなの! 酷いのよ。トワ様の婚約者の方はそれはもう横暴で、いつもトワ様を虐げている、だなんて! あの絶対零度の戦場の悪魔とも呼ばれる美貌の騎士様をヒマリが虐げている訳ないじゃない! 婚約も本当の所は愛などではなく、トワにある事情があったからで愛し合っている訳ではないだなんて、どうしてヒマリと会った事もないのにそんな事を言えるのかしら!」
鼻息を荒くしてクッキーを貪ったマリアンヌはハッとして慌ててリラックス茶を飲んでホゥと息を吐く。そんなマリアンヌを横目に私は思わずクリスを見た。
「私ね」
「お前だな」
聖女、怖い。一体どこで見てるんだ。何か魔術でも使えるのか?
「酷いでしょ!? もう私頭に来てしまって。でも安心して。そんなのだ~れも信じてないから!」
「そうなんですか?」
「ええ! だってそもそも私のお友達は皆ヒマリ贔屓ですもの。ここの化粧品の最早信者よ! 何よりも一人一人に合わせた化粧品を配合してくれる人なんてこの世界には居なかったもの。家の愚痴や家族の愚痴なんかも聞いてくれて悩みもズバっと解決してくれるし、そういうのがほんと……とてもありがたいのよ。だから私達は今回の事でヒマリの事を勝手に守る事にしたの!」
そう言ってマリアンヌは拳を握りしめて立ち上がった。そんなマリアンヌに私もクリスもキョトンである。何だ、守るって。
「勝手な事してごめんなさい、ヒマリ。でも許してほしいの。私はどんなに偉い人にでもお友達の事を悪く言われるのは嫌なのよ。私のお友達もよ。だからそういう話が舞踏会やお茶会で出たら私達、全て否定して回っているの」
鼻息を荒くしてそんな事を言うマリアンヌに私は思わず笑ってしまった。まさかお嬢様達が率先して草の根活動をしてくれているとは思ってもいなかったからだ。
「そ、そうなんですか……ありがとうございます。でもご自分の立場は皆さんちゃんと守ってくださいね。ただ……お気持ちは素直に嬉しいです、ありがとう」
「いいのよ! ヒマリはもう私の大事な大事なお友達なんだから! あ、ちなみにこの会の取りまとめ役はルチル様なの!」
「あ、ルチ、姫が……それはそれは、身に余る光栄です」
まさかの大ボスがルチルだと聞いて私は妙に納得してしまった。なるほど、ルチルならやりかねない。
何かに納得したように頷く私に、突然マリアンヌがズイっと顔を寄せてきた。その頬は何故か赤らんでいる。
「あのね、その、このお話をしてもいいかどうか分らないんだけど、ヒマリのお腹にはもしかしたら騎士様の赤ん坊が居るかもしれないって……ほんとう?」
「ひえっ! ど、どうしてそれを!?」
トワは確か言っていたはずだ。この話は王にしかしていない、と。ところがどうだ! マリアンヌが知っているではないか! という事は、ほとんどの貴族の女子たちが知っているかもしれないと言うことだ。
「姫が口を滑らせたの。内緒よって言われたから誓って誰にも言ってないわ。でもその……どうしても聞きたくて。きゃっ!」
恥ずかしい! と両手で顔を覆ったマリアンヌは耳まで真っ赤だ。どうやら今日わざわざここまで伝言を伝えにきてくれたのは、それが聞きたかったらしい。
しかしトワと約束をした手前(これからはトワとクリスに買い物に行って欲しいというのが本音だが)、ここはきちんと嘘をつかなければなるまい。
私は両頬を手で抑えて出来るだけ恥ずかしそうに見えるようにコクリと頷いた。
「お恥ずかしいお話なんですが、そうなんです……まだ分からないんですけど、この世界でははしたない事ですよね……だから聖女にもそんな風に言われてしまうのかもしれませんね……」
そう言って涙を浮かべた私を見てマリアンヌが息を呑んだ。




