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褒めてるのか貶してるのかよく分からない事を言いながらクリスはナスビのぬか漬けを手にとって齧りつく。一瞬何とも言えない顔をしたものの、しばらく噛んで美味しい事に気づいたのか、気づいたら無言で食べ始めてしまった。
「そんなに美味しいのですか? 俺にもどれかください」
「いいわよ。人参が甘くて美味しいわ」
「では人参を——うっ!」
「あー、トワは駄目だったか~」
一口食べるなり慌てて人参のぬか漬けを水で流し込んだトワを見て私は笑って言った。
「トワ、ほら残り貸して」
「え? は、はい」
そう言ってトワが残した人参を受け取り何の躊躇いもなくパクリと食べた私を見てクリスが指さして喜んだ。
「そう! こういうとこだよ! コイツのこういう大雑把さが僕には合ってる!」
「ちょっとどういう意味よ!?」
思わず立ち上がった私の斜め向かいでトワが完全にフリーズしている。
「……」
「トワ? トワ! 大丈夫? 顔真っ赤よ?」
そんなトワを見てルチルが声をかけるが、トワは小刻みに震えてまだ固まっていた。
「あーあー、どこ行ってもモテモテの騎士団長様はビックリするぐらい女慣れしてないな~」
「そうなの? こんな恋に関しては百戦錬磨! みたいな顔してるのに?」
私の言葉に何故かルチルがコクリと頷いた。
「トワは私の記憶の限りでは浮いた話は今まで一切無かったの。そういう意味ではクリス様の言う通りだと思うわ」
真顔でそんな事を言うルチルに私は深く反省した。
(あれか。トワは今、自分が食べ残した人参を私が食べたから間接チューだ! みたいな感じになっているのか……って、小学生か! それでよく私に偽物の婚約者になってくれなどと頼んできたな!)
どう考えてもそちらの方が大胆である。
「へぇ……人は見かけによらないものねぇ」
トワの食べ残しの人参を齧りながらトワを見ると、スッと視線を逸らされてしまう。
「し、仕方ないじゃないですか。物心ついた頃からずっと剣一色の家だったんですから。女兄弟も居ないし女性とその、お付き合いする暇も無かったんですよ」
「あら、それは災難。まぁでも別にいいじゃん。そんな気にすることでもないでしょ」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。女慣れしてようがしてなかろうが大事なのは愛よ! 一般的には」
適当に言った私を見て途端にトワとクリスが半眼になる。
「一般的ってお前……お前の本音は?」
「俺もそれが聞きたいですね、是非とも」
「え? もちろん経済力でしょ。愛だけじゃこの世は生きていけませんから! ざんね~ん!」
ビールとぬか漬け片手に言った私にルチルが嬉しそうに手をたたく。
「それはほんっとそう! うちの母さまみたいに散財癖があったら大変よ!」
「ま、その時はどっちも働けばいいんだろうけどさ~。子供とか出来たらそうはいかないじゃん? 愛だけでは……ねぇ?」
言い切った私を見てクリスが肩を落として大きなため息を落とす。
「……なんつぅか、夢がねぇ。だけどこれこそヒマリだって気もする」
「……同感です。相変わらずハッキリした性格で良いと思います……」
「お前はいいじゃん。腐っても伯爵様だろ?」
「いえ、うちも別にそんな資産のある家ではないので……」
二人は無言でビールを飲むと、カレイの煮付けを食べている。
「まぁトワの女性関係は今はどうでもいいのよ。そんな事よりも聖女様! ルチル、なんか物凄い悪態つきながら入って来なかった?」
私の言葉にルチルはハッとして握りしめていた人参を置いて、机にダン! と両手をつく。
「そうだった! 思い出した! あんの陰険聖女! 私の事を出しゃばり女って呼んだのよ!? しかも誰にも聞こえないようにすれ違いざまに! 何なの!? あの女!」
ルチルはそれだけ言ってまた人参を握りしめて怒りに任せて食べ始める。
「そんな事を言われたのですか? 姫」
「そうよ! そりゃ私は全っ然おしとやかじゃないし? あちこちからじゃじゃ馬の末の姫って言われてるわよ! でもね! 初対面の奴にそんな事言う!? 私の事知りもしないくせに!」
「あー……それに関しては私は何も言えないかもー……」
何せ初対面でルチルを見るなり「その化粧、正気か?」と聞いた女だ。
これはもしかしたら根に持っているのか? そんな事を考えながらチラリとルチルを見ると、ルチルは何故かにこやかだ。
「何言ってるのよ! 確かにヒマリは本当の事を正直に私に言ったけど、その後ちゃんと手直しまでしてくれたじゃない。面と向かって真っ向勝負してくるのと、こちらが反撃出来ないと分かっていて陰険な事してくるのは全然違うわ」
「そ、そう? ならいいけど。で、ルチルはそれで怒ってここに来た、と。パーティーほっぽりだして」
「うん」




