28
「うん、じゃなくて。そういう事すると余計に後から何か言われるんじゃないの?」
「かもね。でもいいの。どうせ? 私は出しゃばり女ですし!? ふんっ!」
そう言ってそっぽを向いたルチルを見てトワとクリスが呆れたような顔をしている。
「まぁとにかくとんでもない聖女だって事だけは分かったわ。で、クリス、あんたは結局どうすんの?」
「え? ここに居るけど? 当然じゃん! 何にもピンと来ないどころかあれは絶対に聖女じゃない、むしろ魔女だ!」
「魔女ってあんたね。でも不思議。どうしてあんた達の事そんなズバズバ言い当てられたんだろうね?」
「それがさっぱり分からないんですよ。聖女はこちらにやってきてから王と王妃以外とはまだ話をしていないはずですし、何よりもクリスさまの事なんて知るはずもない。それなのに彼のコンプレックスまで言い当てるなんて……謎です」
「そうなんだよな。お前だってブロッコリー嫌いとか誰にも教えてないだろ?」
「もちろん。騎士たるもの弱みはそう簡単には人には見せません」
「そう? ブロッコリー残そうとしてたじゃないの。案外気づいてないだけで周りにはバレてんじゃないの?」
「あ、あれは! 気を抜いていたからで! ヒマリの前以外でブロッコリーを残そうとしたことなんてありませんよ! むしろいつも最初に食べるのでブロッコリーが好きだと思われている疑惑があるぐらいです!」
「ああ、そう。嫌いなもの先に食べるタイプなんだね」
「あ、うん、そうかも。最後は好きなもので締めたいから」
「それは分かる。僕もそう」
「私は逆~。いっちばんお腹減ってる時に好きな物たべた~い。ヒマリは?」
「私? 私もルチルタイプかも。って、そんな事はどうでもいいのよ! とりあえずクリスはこれからもここに居る。聖女はガチでヤバい奴って事でいい?」
「いいと思うわ」
「ああ」
「そうですね」
三人は同時に返事をしてハーブティーを飲んだ。それを聞いた私は、聖女には絶対に関わらないようにしようと心に決めたのは言うまでもない。
ところが、この聖女事件は思わぬ方に向かって進んでいく事になる。
聖女がやってきて一週間。町はまだお祭り騒ぎで賑わっていた。城下町には沢山の屋台が並び、あちこちで今も大バーゲンをしている。
だというのに私はと言えば。
「ひぃ、ふぅ! もういっぱ~つ! よっこいしょ~!」
ツルハシを担いで一生懸命、眼の前の鉱石に向かって振り下ろしていた。
「ほらヒマリ! もうちょっとだ頑張れ~!」
「ちょっと! あんたも! 手伝い! なさいよ!」
ガツガツと鉱石をツルハシで叩きながら怒鳴ると、クリスはおかしそうに空中でケタケタと笑いながら言う。
「え~嫌だ~。汚れるし~疲れるし~汗くさ~い」
「あんたの頭ごとかち割るわよ!?」
「こっわ~い!」
私の周りをさっきからそんな事を言ってフワフワ飛び回るクリスを睨みつけ、私は一心不乱に鉱石を殴っている。何故かと言うと。
『ヒマリ! お友達がね、近々行ってもいいかって! 12人ほどなんだけどいいかしら?』
そんなとんでもない手紙が2日ほど前にマリアンヌから届いたのだ。そして全員が全員、マリアンヌが使っている化粧品一式を所望しているなどと言うではないか。
すぐさま私は在庫チェックをして——ここに居る。
そう、足りなかった。圧倒的にファンデーションが足りなかったのだ。
「はぁ、はぁ、これ、後どんぐらい割ったらいいの?」
私の質問に精製担当のクリスが近寄ってきて私の足元に転がっている鉱石を見て笑顔で言った。
「これの3倍ぐらいかな!」
と。
それを聞いて私は膝から崩れ落ちた。早朝からやってきて鉱夫のおっちゃん達に事情を説明してどうにかここを紹介してもらえたものの、夕方までかかってこれっぽっちしか取れなかった。
(だというのに! これの3倍だと!? クリスは私に砕けろと言っているのか!? そうなのか!?)
「あっれ~? もう終わりですか~? あんだけ息巻いといてだらしな~い」
「ちょっとあんた! その妙にイラッとする後輩OLみたいな喋り方止めなさいよ!」
「なんだよそれ。どういう意味? オーエル?」
「社畜仲間よ。他にもリーマンとかハケンとかバイトとか色々いんの」
「へー……変な世界。もっと皆自由に生きりゃいいのに」
腕を組んで腑に落ちないとでも言いたげなクリスに私は大いに頷いた。全くもってその通りである。
「それはほんとそう。生きるために仕事してるはずが、気がついたら仕事する為に生きてんのよ。あそこは怖い世界よ」
「ふーん。ご愁傷さま。ほらヒマリ! 手が止まってんぞ!」
「ぐぬぅ! 結局ここに来ても汗みどろになって働くのか……いつ終わるのだ、私の社畜生活は……」




