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今、目の前で二人の男が睨みあっている……。
片一方は高位妖精。もう片一方は騎士団長。お互い睨みあって、どちらも引こうとはしない。立場的に上なのは妖精、クリスだ。
しかし戦ったら勝つのは恐らくトワではなかろうか。
「あのさ、一体いつまでそうやってんの?」
私は思わず二人に声を掛けた。そんな私を二人して睨みつけてくる。
「ヒマリ、いけませんよ。妖精とは言え男です。姫に聞いて慌てて来てみたら、本当にこの妖精と二人で暮らしているなんて!」
「言っとくけど、僕の方がヒマリの事詳しいから! てかお前、この世界の人間のくせに僕を敬おうとかない訳? ルチルでさえ頭下げたぞ?」
「生憎、俺が信じるのは妖精ではないので」
そう言ってトワは冷たい顔を歪ませた。表情を歪めても美しいって凄いな!
トワはここ1ヶ月ほど戦争に行っていた。だから昨日初めてルチルに私の家に高位妖精が住み着いていると聞いてこうやってわざわざ訪ねて来てくれたそうなのだが——来た途端、これである。
「これだから信仰心が無い奴は嫌になるよな。ヒマリ、こいつ追い出してよ」
「そうはいかないでしょ? この国を支えてくれる大事な騎士様なんだから。ほら、お茶の準備するから手伝って」
「えー……ほんっとに人使いが荒いなぁ!」
そう言いつつ珍しくクリスは素直に手伝ってくれた。そんな様子をトワが鋭い視線で睨みつけている。
「俺だって手伝えます。やかんはこちらですよ、高位妖精様」
「知ってるよ! 客は黙って座ってな!」
一体何の言い合いなのか。私はうんざりしながら全員分のお茶の準備をする。
「はい、どうぞ。クリスも座んなよ」
「おう。あ、ヒマリちょっと詰めてよ」
「は? あんたいつもあっちに座るじゃない」
「今日はこっちがいい」
そう言って無理やり私の隣に腰を下ろしたクリスにトワは咳払いを一つする。
「高位妖精様、女性にそのような態度はあまり感心できないのでは?」
「女性って言うよりヒマリは僕の相棒だから。どっかのたまにフラっと来る奴とはち・が・う・の」
「戦争に行ってたんですから仕方ないでしょう? それに、それまではほぼ毎日一緒に食事をしていましたけど? というよりもヒマリは俺の婚約者なんで」
フフンと珍しく鼻で笑うトワに私は目を瞬いた。
(そんな顔出来るのか!)
表情筋が死んでいるトワにしては上出来だ。
ところがそれを聞いて今度はクリスが羽をブルブルと震わせた。
「はぁ? ヒマリ本気? こいつと婚約してんの⁉」
「ん? ああ、お直し屋さんのお仕事の一環でね。婚約者の振りをしてるの」
「ああ、な~んだ。振りね。お芝居かぁ~ふぅ~ん」
クリスの小馬鹿にしたような口調に何か言いたげなトワがこちらに視線を送ってくるが、私としては今気になるのはオーブンに入れたキッシュである。
「ヒマリ、先ほども言いましたが、妖精とは言え男です。一緒に住むのは感心しません」
「とは言ってもね、私だって追い出そうとしたのよこれでも。それなのに全然出て行こうとしないからさ、仕方なく今や相棒よ。でもクリスのおかげで客は増えたよね~?」
「ね~? どっかの誰かさんと違って僕は役に立つからな!」
そう言ってクリスはふんぞり返る。そんな態度がトワには気に入らないらしい。
「たとえ振りでもヒマリは俺の婚約者です。あなたが居る事でヒマリに変な噂が立つのは困るんですよ」
「妖精が相手でも変な噂ってたつの?」
首を傾げた私にクリスがニヤリと笑って言った。
「まぁ高位妖精は人間とも子供を作れるからな。珍しいけど妖精とのハーフっているにはいるぞ」
「へぇ! 絶対可愛い子生まれそう。自分の子供に羽生えてるとか、ちょっと夢あっていいね」
何の気なしに言った言葉にトワが固まり、クリスが羽を輝かせた。
「ヒマリ! あなたは俺の婚約者だよね?」
「ああ、まぁ、今はねぇ」
「ははは! ヒマリ、羽のある子供が欲しかったらいつでも言えよ」
「いや、私年下はちょっと……」
チラリとクリスを見て言うと、クリスは愕然とした顔をして今度はトワが意地悪に微笑んでいる。
「残念ですね。いくらあなたがヒマリの倍生きていても、見た目は子供ですもんね?」
「ヒマリ! そういうのは食わず嫌いって言うんだぞ!」




