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「いやいや、ていうかね、そもそも私もう懲りたの。あっちの世界で散々婚活して駄目だった女がね、異世界に来たぐらいでどうにもなんないわよ。それならば私は! 心機一転、ここで一人で強く生きるって決めたの!」
その為に今は荒稼ぎをしなければならないのだ。色恋沙汰に現を抜かしている場合ではない。
この一言に二人は顔を見合わせて黙り込んだ。そこにオーブンから焼けた合図が聞こえてくる。
「焼けた焼けた! トワは食べて行くの?」
「もちろん! その為に今日はパーティーを早目に切り上げて帰ってきたんです。あとお土産を一刻も早く渡したくて」
そう言ってトワはテーブルの上に地ビールを置いた。それを見てもちろん私の目は輝く。
「そうなんだ。そんな気を遣わなくても良かったのに」
ビールをちゃっかり受け取りながら言うと、テーブルの上にキッシュを置いてきっちり三人分取り分けた。
「ああもう、美味しそう! 私、天才じゃない⁉」
思わず自画自賛した私に男二人が頷く。
「ヒマリは料理上手ですよね。だからつい俺もここに来てしまう」
「そこだけは同意だね。お直しじゃなくてさ、料理屋すれば良かったのに」
二人はこんな風に持て囃してくれるが、料理屋はダメだ。絶対に駄目!
だから私はにっこり笑って言った。
「ううん、いいの。私はあなた達二人に褒めてもらえたらそれで!」
にこやかに言った私の台詞にトワとクリスが分かりやすく半眼になる。
「本心は?」
「本音は?」
「いやだって考えてもみてよ。もしよ? もし料理屋なんてやって常連なんて出来たら辞めにくくない? 私はさっさと隠居したいのにさー」
「……」
「……」
無言の二人に私はいつものようにビールを注ぐ。
「ヒマリ、ずっと思ってたんですが、あなた裏表激しすぎませんか? 異世界に来たからにはこう、何かしようとかないんですか?」
「言えてる。この料理にしてもさ、ここに無いもんじゃん。それ使ってどうにかしようとかない訳?」
真顔のトワとクリスに私は、うふふ、と笑った。
「あのねぇ言っとくけど、異世界に来たから私は選ばれた人間なんだわ! とかね、私には何か使命があるのよ! とかさ、ないから。そういうのはそういう人達に任せておけばいいの。そもそもね、突然やってきた新参者がさ、何言ってんだって話じゃない? 識字率を上げる? 飢饉を救う? 知るか! そんなもんこの国の人に任せとけ! それに元居た世界の知識を使って~とかさ。ないない。そんなチートな力ないから! 私は記憶力もそこそこの至ってふっつーの人間だから。場所が変わっただけで私は別に何もしない。今まで通り生きるよ。異世界に来たからって寿命が延びる訳でもなし、ちょっと大それた引っ越しみたいなもんよ」
元々物事を深く考えない質だ。郷に入ったら郷に従え。これに尽きる。
でもだからこそ物怖じすることなくこの世界にもすぐに馴染めたと思っているのだが、どうやらこの二人にはそうは映らなかったようだ。
「……ハッキリした性格で大変良いと思います」
「……だな。僕、何でこんなのと居るんだろう……」
あまりにもハッキリと断言しすぎたせいで、二人は諦めたように首を振る。
「ま、そんな訳だから料理屋は絶対にやらない! さっさと隠居する!」
「まぁでもヒマリの言う事にも一理ありますよね。確かに召喚された訳でもない突然現れた異世界人がここには無い技術や考えを持ち込んだりしたら、崇められるか処刑されるかの二択ですもんね」
「それはそうだな。異質な者って思われたらその時点で人生詰むもんな。よしヒマリ、これからも小狡く稼げ。お前にはそれが向いてる」
「言い方! ちょっと一回しっかり話し合いしましょうか?」
キッシュを切り分けたナイフを手にした私を見て、クリスが短く呻いて羽を震わせる。
「まぁまぁヒマリ。これでも高位妖精ですから」
「そうだそうだ! 高位妖精脅すとか聞いた事ないぞ!」
「私の世界には居なかったからね。私はあんたを羽の生えた人間だと思ってるよ。だから崇めないし祀らない」
きっぱり言い切った私にトワはクスリと笑い、クリスは羽を下げた。
「そんな事言うの、ほんとお前ぐらいだよ」
そう言って席に座りなおしたクリスは大人しくキッシュを食べ、目を輝かせる。
「うっま! おいトワ、これめちゃくちゃ美味いぞ」
「んん! ほんとですね! 美味しい……ここしばらく兎汁しか食べて無かったから余計に美味しい……」
「兎汁ってあれだろ? 兎を塩だけで茹でたやつ」
「それです。まぁ戦争なんでね、仕方ないんですけどね。食べられるだけマシです」
そう言って戦争の最中に食べる料理について語り合う二人に私はポツリと言った。
「缶詰作ればいいのに」
「何です? それ」




