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「ま、まぁそうね。でもだからって塔の賢者がそんなホイホイ引っ越しなんて——」
「でもね姫、僕がここと王都を行ったり来たりする方が怪しまれると思いませんか?」
「それはそう……なの?」
「私に聞かれても分かんないわよ。この人がどれだけ凄いのかも分からないのに」
「そっか、そうよね。城には知恵の塔っていうのがあるの。ナユタはそこの大賢者なのよ。言わば塔の一番偉い人なんだけど、一部の、本当にごく一部の人しか彼の顔を知らないの」
「この男は学生時代から常に薄気味悪い仮面をつけていましたからね。同期の僕でも久しぶりに素顔を見ました。人間嫌いもここまでくれば大したものですよ」
「別に嫌いじゃないよ。ただ研究を余計な事で邪魔されたくないんだ。それにそういう君だって城の中ではずっとフードを被って少しも顔を見せないじゃないか」
「僕は陽の光が苦手なんです」
「吸血鬼か! まぁいいや。つまりナユタさんはとりあえず物凄く偉い人で普段から仮面つけてるから影武者も立てやすいって事?」
「そういう事だね。まぁ実際結構その手を使って僕は城下町に下りてるよ。あの仮面は城にいる間だけ」
にこやかにそんな事を言うナユタにトワが白い目を向ける。
「よく言う。城下町どころか、騎士団寮にまで泊まりに来るじゃないですか」
「煮詰まった時とかはね、あのガチャガチャした雰囲気が良いんだよ」
そんな二人を見て私は思わずポンと手を打つ。
「あんた達そうやって並んでると絵になるわね。う~ん、惜しいなぁ。やっぱホストクラブやって荒稼ぎしたいなぁ~」
それを聞いてギョッとしたような顔をしてトワが詰め寄ってくる。
「させないよ!? 絶対にそんないかがわしいクラブはさせないから! あと、俺を男と並べて絵になるとか言うの本当に止めて!」
「お! とうとう僕はトワの相手卒業か!? 良いぞヒマリ、どんどんやれ。この二人なら僕は応援するぞ」
「クリス!」
トワとクリスのそんなやり取りをニコニコしながら聞いていたナユタだったが、ふとこちらに向き直って言う。
「ところでヒマリさん」
「はい?」
「あなたは本当はどこから来たの?」
「えっ!? きゅ、急だね!?」
そう言えばだいぶ前にうっすらこんな事を聞かれた気がしたけれど、私は華麗にスルーした。それなのに流石賢者だ。どうやら忘れていなかったらしい。
「まぁいいんじゃないですか。この男はどのみちもう気づいていますよ」
「そうだね。でも一応確認は取っておきたいね」
ナユタはそう言って肩を竦めるが、私はまだこの男を信用していない。何せトワを罠に掛けるような奴だ。
「教えてもいいけど、私からも一つ聞きたい事があるの。構わない?」
「もちろん。僕で答えられる事なら何でも答えるよ」
「そか。それじゃあ単刀直入に聞くわね。あなた、聖女から何か訳のわからない事、言われてない?」
「訳の分からない事?」
「そう。例えば初対面で何も話していないのにブロッコリーが嫌いだろう? とか、本当は口が悪いだろう? とかそういう事。もしくは、あなたは敵側だから近づかないでちょうだい、とか、その逆で私の側に居なさい、とかそういうのよ」
私の言葉にナユタは一瞬真顔に戻り、警戒するかのように目を眇める。
「どうして知っているの?」
ナユタの答えに私ではなくルチルとクリスが身を乗り出す。
「何か言われたの!?」
「おい、何言われたんだよ!?」
詰め寄る二人の勢いに気圧されたのか、ナユタの不審げな表情が困惑の表情に変わる。
「もしかしてお二人も何か言われたのですか?」
「そうよ! 私はすれ違いざまに初対面で出しゃばり姫なんて言われたんだから!」
「僕は口悪いのがバレてたのと、こいつとデキてるって思われてる! お前は!?」
「確か、裏切り者の賢者じゃない。だったと思います」
「裏切るの?」
それを聞いてキョトンとした顔をした私を見てナユタもまた首を傾げる。
「そもそも僕は別に塔の賢者と言う名前を継いだだけで、どこにも属してないから。確かにこの腕に関して王族を恨んでいると言えば恨んでるけど——」
「そ、そうなの!?」
ナユタの言葉に顔色を悪くしたルチルを見てナユタは小さく首を振る。
「別にあなたの事ではありませんよ、ルチル姫。それにそれは個人的な恨みで裏切り者と呼ばれる程ではないと思うんだけど」
「おい、決まりだな。こいつはそのうち魔王側に落ちる予定だった奴みたいだぞ。セターレ、そこんとこどうなんだ?」
クリスが言うと、セターレは先程から真剣に鏡を覗き込んでいる。そしてひとしきり会話が終わった後、珍しくにんまりと笑う。
「面白くなってきましたよ。確かにクリス様の言う通り、ナユタは魔王側でした。ですが、フレッドさんの時と同じで今しがた絵が変わりました」




