111
「え? あら、ごめんなさい。ほほほ」
クリスに言われてナユタに視線を移すと、ナユタはポカンとして私を見ている。
「凄いな。この手をそんなに喜んでくれるご令嬢は初めてだ。さっきの話じゃないけど、思わず君をキープしたくなるよ」
まだ義手を凝視している私の頭の上でナユタが言うと、すぐさまクリスが言い返す。
「させるわけねぇだろ! こいつのパートナーはもう決まってるの! 僕なの!」
「いいえ、違います。ヒマリの婚約者は俺です! ナユタ、缶詰が出来上がったからどうしても彼女に見せたいと言っていましたが、まさかヒマリを口説く為に来たのですか?」
突然二人の声に混じってトワの声がしたので振り向くと、そこには怖い顔をしたトワと何故かキラキラした目をしているルチルと、呆れたような顔をしたセターレが居た。
「あれ? おかえりなさい、あんた達。もう隠れないの?」
「隠れないわ! だって何か面白そうな事になっているんですもの!」
「僕はあのまま隠れていたかったのですが。お久しぶりですね、ナユタさん」
冷めた口調で言うセターレにナユタは人の良さそうな笑みを浮かべて肩を竦める。
「久しぶりだね、セターレ。最近は会議にも全く出てこないと思ったら、姫の護衛をしていたんだ。姫もご無沙汰しています」
「ええ、久しぶり」
ナユタはあまり面識が無いと言いながらもちゃんと笑顔を浮かべるルチルはやはり一国の姫だ。その点セターレは相変わらずである。
「本当に迷惑な話ですよ。それにしても珍しいですね、それをお見せしてるのは」
「うん。彼女がすごく喜んでくれるからね。ほら、こんな事も出来るよ」
そう言ってナユタはまた義手を操作して指先をフォークに変えた。それを見て私のテンションはまた上がる。
「ふぁーーーーー!」
「だから落ち着け! おいナユタ! お前それもう仕舞え!」
「ヒマリ! ヒマリはそんなに義手が好きなの!? それとも便利機能が好きなの!?」
何かズレたトワの質問に私はようやく正気を取り戻してナユタに向き直った。
「はぁ、取り乱してごめんなさい。さて、それじゃあ皆さん、気を取り直して試食してみましょう」
私はキッチンからさらに人数分の皿とスプーンを持ってきた。そして煮込まれた食材を人数分に取り分けて手を合わせて一口食べてみたのだが——。
「これいはいけますね」
「そうでしょ? これは成功と言っても良いんじゃないかな」
「ええ、大成功ですよ。明日、俺はこれを騎士団に持ち込みます。ナユタ、量産をお願い出来ますか?」
「もちろん。既に瓶と蓋の手配は——あれ? 皆、どうしたの?」
トワとナユタはどんどん話を進めるが、それ以外の人たちは無言だ。その上誰も二口目に手をつけない。
「? もしかして傷んでた……かな?」
「いや、俺も大丈夫だと思うけど……ヒマリ? 大丈夫? 震えてるけど」
トワの言葉に私は立ち上がって瓶をすぐさま洗うと、中に昨日作ったハンバーグを詰めて瓶を蓋してそれを茹でた。
「ヒ、ヒマリ?」
「あんた達、ちょっとそこに座りなさい」
私はそう言ってトワとナユタを畳の上に座らせると、腰に手を当てて言った。
「これは! 食材への! 冒涜! どうやったらこんな事になるのよ!? 料理が出来ないにも程があるでしょ! クリスでももっとまともな物作るわよ!」
「そうだそうだ! って、おい! どういう意味だよ!」
「そのまんまの意味よ! せっかく日持ちする道具作ったんだから、せめてもうちょっと中に詰める物工夫してよ!」
「は、はい」
「ご、ごめんなさい」
「はは! あの戦場の悪魔と知恵の塔の賢者が揃って正座させられるなんて! ざまぁありませんね!」
「駄目よ! セターレ!」
高笑いするセターレの脇腹を肘で小突きながらルチルもまた肩を震わせているが、そんな二人を叱られている二人が悔しそうに睨みつけている。
「今、新しいの詰めてるからナユタさんはそれ持って帰ってもう一回検証してきて。2週間後にここにもう一度集合ね! ついでにその時に何かまた新しい便利機能つけてきてよ!」
「お前、何ついでにシレっと新しいガジェット頼んでんだよ! ナユタ、気にしなくていいからな」
「はは、うん、何か思いついたらまたつけるよ。それにしても誰かに叱られたのは久しぶりだな」
「俺はもう慣れてしまいましたよ……」
「しょっちゅうなんだ?」
「ええ、まぁ」
「それは大変だ。でも王都とここを行ったり来たりするのは不便だな。僕もここへ引っ越そうか」
「はあ!?」
突然のナユタの言葉に私以外の全員が驚いたようにナユタを見つめるが、とうの本人は口元に手を当てて何かを考えている。
「だってさ、彼女はどこから来たのか知らないけど僕たちの知らない技術を、恐らく山程知っているよね?」




