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そんな会話をしてキッチンに引っ込んだ途端、トワに腕を引かれた。驚いてそちらを見ると何故か狭いキッチンにトワ、セターレ、そしてルチルが居る。
「駄目だよ、ヒマリ。君の婚約者は僕なんだからね?」
「分かってるってば! 新しい男が出てくる度に念を押さなくてもちゃんとするよ!」
お金を貰ったからには! そんな言葉を飲み込んだ私を見てトワは安心したように頷く。
「で、あんた達は何で隠れてるの?」
キッチンの隅っこでしゃがみこんで隠れているルチルに問いかけると、ルチルはちらりとこちらを見て言った。
「そりゃ私達がここに居る事は秘密だからよ! ナユタは信頼出来る人だけど、私はあんまり交流がないの」
「そうなの? セターレさんは?」
「私は馴染み深いですよ。何せ彼は賢者ですから。ですが、いかんせんソリが合わないのです」
「なるほど」
実に単純明快なセターレの言葉に頷きつつ私はセターレの手に冷蔵庫に貼ってあった買い物リストを握らせた。
「それじゃ丁度良いや。三人で買い物行ってきてくれない? 私、今から缶詰の試食するから」
「え!? ズル——じゃなかった! 私あんまり出歩いちゃいけないのに!」
「大丈夫よ。だってもう散々出歩いてるでしょ? はい、行ってらっしゃい!」
私は知っている。ルチルがここへ来てからしょっちゅうテニスに勤しんでいたり、町を歩き回ってはそこらへんで買い食いしたりしているのを。
笑顔で詰め寄った私を見てとうとうルチルは頷いて三人で裏口から出ていった。
「お待たせ~」
三人を見送った私がお茶とお皿を持って戻ると、クリスとナユタが何やら和気あいあいと談笑している。
「マジかよ! あの魔王討伐の時、裏ではそんな事が起こってたのかよ!」
「そうなんです。トワはあの通り自分に向けられる好意に疎いので、行き着く町行き着く町で繰り広げられる露骨な求愛を全て無視していました。だから余計に絶対零度なんて言う二つ名が有名になってしまったんですよ」
「それじゃあそれまでトワってただの戦場の悪魔だけだったのかよ?」
「はい。まぁ、それでも十分な二つ名ですけどね」
それを聞いてクリスはお腹を抱えて笑い、そんなクリスを見てナユタも楽しそうに目を細めている。
「なになに、何の話?」
私はそんな二人の前にお茶を出して取り皿とスプーンを置いた。そんな私にナユタは礼儀正しく頭を下げて爽やかな口調でお礼を言う。そんな彼を見て私は思わず尋ねてしまった。
「ねぇあなた、モテるでしょ?」
突然の私の問いかけにナユタは驚いたように目を丸くして私を凝視してくる。
「え? いや、そんな事はないよ」
「嘘ばっか。トワを隠れ蓑にして女避けしてるわよね?」
私はこういう男子ははっきり言って少しだけ苦手だ。策士というか世渡り上手というか、何ていうか溢れ出る良い人感に絶対的な裏を感じてしまう。
私の問いかけにナユタは肩を竦めた。
「女の人苦手なの?」
「苦手という訳ではないんだけど、僕はまだまだやりたい事が山程あってそんな時間が無いっていうのが正しいかも。適齢期がくればそういう事も考えるかもね」
私はそれを聞いて机をドン! と叩いた。
「その考えは危険よ、ナユタさん!」
「そうかな?」
「そうよ! 適齢期って言うのは一瞬でやってきて一瞬で駆け抜けていくのよ! 私のようにね! 一生独身で居たいならそれでも良いけど、チラっとでも子ども欲しい~とか、新婚生活憧れる~とか思うなら、今のうちからキープだけはしておいた方がいいわよ。絶対に!」
「社畜の至言だな。だけどお前、キープって……最低だな!」
「何よ。選択肢は多いほうが良いじゃないの。それにナユタさん何かトワと違って要領良さそうだし、10股ぐらいかけてもバレないんじゃない?」
「お前、それはナユタへの風評被害だろ。ほら、さっさと謝れ」
クリスに言われて私はすぐさま頭を下げた。
「ごめんなさい、言い過ぎました」
そんな私達のやりとりを見て、ナユタが突然吹き出す。
「いや、大丈夫だよ! でもなるほど、そういう考え方もあるのか。誠実では無い事は極力したくないけど、女性はそれをされても構わないの?」
「構わないわよ。だって、女の方もしてるからね! 目ぼしい男子はもうとっくに皆の手垢がベッタベタよ!」
「なるほど! それを聞いて安心したよ! トワから聞いていた通り、君は面白いね! そう言えばずっと聞きたかったんだけど、遠い土地って言うのは具体的にどこなの? こんなの作ってる国なんてこの世界にあったかなぁ?」
「ていうかさっきも思ったんだけど、どうしてあなたが缶詰の発案者が私って知ってるの?」
にっこりと微笑んだ私の言葉にクリスがハッとした顔をして警戒したように眉を釣り上げた。




