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「そんな事をこの僕に言うのはお前ぐらいだって言ってんだよ!」


 文句を言いながらもクリスはそれでも荷物を抱え直してフラフラと飛び続けている。そんなクリスを見てセターレは眼鏡を押し上げて言う。


「何だかんだ言いながら高位妖精様は働き者ですね」

「本当に……私達も見習わなくちゃね……」


 文句を言いつつもきっちり自分の分を運ぶクリスにルチルとセターレはようやくやる気を出したようだが、もう遅い。


「皆さん、お疲れ様でした。ヒマリ、荷物貸して」

「うん、ありがとう」


 誰よりも沢山荷物を運んでいたトワが先に行って馬を連れてきてくれたのだ。そして私の荷物から順番に荷馬車に積み込んでくれる。


「来た時はこんな荷馬車仕様じゃなかったのに、どんな魔法なの?」

「うん? ああ、これは昨日のうちに伝令を出しておいたんだ。それを受け取ったこの町の白か黒の騎士団の誰かが荷車をつけてくれたんだよ」

「なるほど。騎士団の連携は素晴らしいわね」

「全くだな。たださ、どうしてお前、ヒマリの荷物を最初に積むんだよ! ここは僕のだろ!?」

「何を言うかと思えば。あなたは最後ですよ。俺は今休暇中なのでヒマリが一番に決まっています。次が姫でその次がセターレ様。そしてあなたですよ、クリス」

「なんでだよ!」

「……何かしら。少しだけムカッとするわ」

「姫、最初から分かっていた事です。トワは誰よりも正直者なのですから」

「その一言にも何だか悪意がある気がしてならないわ」

「まぁまぁ! どう見ても私がこの中では荷物一番持ってるからだってば。深い意味は無いわよ。ほら、早くそれ貸しなさい、ルチル」


 そう言って私はルチルの手からビールをもぎ取ると、丁寧に、これでもかと言うぐらい慎重にビールを荷馬車に積み込んだ。


 そんな私を横目に何故かクリスとトワが言い合いを始めるが、私はそれを無視して緩衝材代わりの皆のリュックを隙間に詰めていく。


「ざまぁ! 何にも伝わってないんだもんな~! ウケる!」

「うるさいですよ。あなただってずっと一方通行じゃないですか!」

「一緒にしてくれんなよ。前も言ったけど、僕はパートナーだから。もう一生切っても切れない縁でがっつり繋がってるから!」

「ですがそこから恋愛ごとに発展する確率は極めて低いですもんね? だって、見た目が子どもですし」

「何だと!? やんのか、こら!」

「構いませんよ?」 

「あんた達! そんなとこで喧嘩してないで! さっさと帰るわよ!」


 男子二人は手伝いもせずに喧嘩などしていて、結局残りのビールは私が全て積み込んだ。本当に肝心な時にいつも喧嘩ばかりしている二人である。


「さ! 偽装書類も貰ったし、一件落着! 帰るわよ、皆」


 私の言葉にそれぞれ荷馬車の空いた所に乗り込んでいく。トワはもちろん御者台だ。来た時とは違って帰りはのんびり帰るのも悪くない。私はそんな事を考えながら、一番手近にあったビールの瓶を引っ掴んだ。


「はぁ~快適快適!」


 言いながらおもむろに瓶ビールを開けると、皆が物凄い顔をして凝視してくる。


「お、お前まさか直飲みする気かよ?」

「うん。だって、グラス無いもん」

「だからってお前……いや、いい。好きにしろ。僕はもうお前のやることにいちいち驚かない」

「ヒマリ、俺が飲めないのを分かっていてそんな……いえ、そうですね。今回の事の原因は全て俺です。甘んじて受け入れます。でも酔わないように気をつけてね」

「大丈夫。それに帰ったらちゃんと美味しい物作ったげるから! それじゃあ、出発しんこ~う!」


 私はビール瓶を掲げて声高らかに叫んだのだった。

 


 あの一件から二週間ほどが過ぎた頃、巷では聖女がとうとう国の識字率や計算能力の向上に着手を始めたという話題で持ち切りだった。


 そんな話題で世間が湧いている中、私達の目の前には一つの瓶が置いてある。それを持ってきたのは清潔感漂う柔和な青年だ。実に貴族らしくきっちりとはめられた白い手袋が眩しい。


「これが……缶詰……? そしてあなたがナユタさん?」


 私がぽつりと言うと、青年はコクリと頷いた。


「そう。あ、自己紹介が遅れちゃったね。はじめまして、ナユタです。君の言う缶詰なんだけど、やっぱり缶の加工が難しくてね。ここの技術ではこれが限界だった。それでもこれは中身を詰めてから既に半月は経ってる」

「マジかよ! すげぇな! で、これは食えんのか?」


 クリスが羽を虹色に輝かせながら言うと、ナユタは笑顔でコクリと頷いた。何だか想像していたよりもずっと大人しそうな、いや、優しそうな正統派イケメンだ。


「もちろんです。開けてみますか?」

「おう! ヒマリ、皿!」

「はいはい。あ、お茶飲む? ナユタさん」

「ありがとう。頂こうかな」

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