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 トワの決めた覚悟とやらが何なのかは分からないが、とりあえず明日も早い。私達は豪華なスイートルームを後にして、階層すらも違うせっまい部屋に戻った。


 部屋に戻るなり私は洗面所でパジャマに着替えて顔を洗い、いそいそと鏡台の前に腰を下ろす。それと入れ違いにトワが洗面所に消える。


「あれ? まだ寝ないの?」


 かなりラフな恰好に着替えてきたトワがコットンで肌をペチペチ叩いている私を見て首を傾げた。


「ん? ああ、スキンケアはしっかりしとかないとね。365日いつだってこれだけは怠らないようにしてるの」

「へぇ、偉いね」

「まぁね。だって一応美容に携わってるのに、そんな人の肌がボロボロだったら目も当てられないでしょ?」

「そういうもの?」

「そういうものよ。印象大事!」


 言いながら私はコットンに美容液を染み込ませて顔中に貼り付けた。そんな私をベッドの端に腰掛けたトワが興味深そうに見つめてくる。


「それは何をしてるの?」

「これ? 美容液染み込ませてるの。これね、凄いのよ。ローズマリーとオリーブオイルだけで出来てるんだけど、もうピッカピカになるの」

「へえ! ハーブと油でそんな物も出来るんだね」


 感心したように言うトワに私は無表情で頷いた。しばらくしてコットンを剥がした私は、更に化粧水でパックをする。


「次はそれなに? ていうかさっきからずっと無表情だけど、もしかして怒ってる?」

「怒ってないわ。パック中は変な所に皺いかないようにあんまり笑えないし話せないの」

「そうなんだ……女の人は大変なんだね……」


 言いながらトワは何だかしょんぼりしながら自分のリュックから分厚い文庫本を取り出してベッドの上で足を投げ出して読み始めた。静かだ。そして絵になる……。


 私はパックを貼り付けたままトワの隣に移動すると、横から本を覗き込んだ。


「それ何読んでるの? 騎士団の心得的な奴?」

「これ? これは小説。子犬が主人公の冒険奇譚だよ」

「へぇ! ここにもそういう娯楽あるのね」

「そりゃあるよ。識字率がまだ低いからどうしても本はあまり売れないけどね」


 言いながらトワはページをめくる。


「私、邪魔してる?」


 あまりにもトワは真剣に本を呼んでいるので思わず問いかけると、トワは本から視線も上げずに少しだけ微笑んで首を振る。


「いいや、大丈夫。普段は寝る前に一人で読むからむしろ新鮮かな」

「トワは本好きなんだ? なんか意外だね」


 騎士団の団長が寝る前に娯楽小説を読んでいるなんて何だか意外性があってとても良い。私の言葉にトワはまた少しだけ微笑む。


「うちの家って騎士家系でさ、小さい頃こういうの読ませてもらえなかったんだ。それこそ本と言えば騎士の本とか戦い方ばっかりだったんだけど、両親が亡くなって遺品整理した時にね、こういう本が沢山出てきたんだ。父さん達は俺に隠れてこういう本を好んで読んでいたんだってその時初めて知ったんだよね」

「……そうだったんだ」


 懐かしそうにそんな話をするトワに、私はパックがカピカピになっているのにも気づかず相槌を打つ。


「うん。だから俺は両親が置いていった本をずっと読んでるんだよ。そうしたらあの二人がどんな気持ちで俺を育てたのかが少しは分かるかなって思ってさ」

「ご両親は厳しかった?」

「うん。凄く厳しかった。それこそ恋愛なんてする暇が無かったのも、あの二人を見返す為に早く強くならないとって思ってたからだから」

「見返すって……ご両親、苦手だったの?」

「苦手……そうだね。苦手だったのかもしれないね。今はもうあんまり覚えてないけど」


 そう言って苦笑いを浮かべたトワは何だかとても幼い子のように見えて思わず私はトワの頭をよしよしと撫でた。


 すると、トワは驚いたような顔をしてようやく本から顔を上げる。


「……びっくりした」

「ごめん、つい。そうだ! トワにもパックしてあげようか!」

「なに? 急に」


 突然の私の言葉にトワはおかしそうに笑う。最初に出会った時はあんなにも貼り付けたような笑顔しか見せてはくれなかったのに、今ではこんな風に笑ってくれる。


 何だかそれが嬉しくて私はトワの手から本を取り上げた。


「そういう気持ちで本なんて読んだってロクに話入って来ないでしょ? ご両親を理解したいのなら、ちゃんと楽しく娯楽に現を抜かしなさいよ」

「……それもそうだ。ありがとう、ヒマリ」

「まぁ私もあんまり人のことは言えないんだけどさ! はい、それじゃあトワさんもスキンケアしましょう!」

「ええ? それは本当にやるの?」

「もちろん。それから顔のマッサージとー、化粧水染み込ませてー—」

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