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ずり落ちたメガネを直しながらセターレがそんな事を言う。その隣ではルチルがビクビクしながらも頷いている。だから私は丁寧に説明してやった。
「合同コンパ。通称合コンは、私達社畜にとって数少ない狩り場だったの。特に私みたいに女ばっかりの職場なんかに居ると、本当に出会いなんて無いのよ。それこそ積極的にそういうのに参加して自ら獲物を捕らえにいかないとね!」
「か、狩り場……一体何を狩るの?」
「人生において最も重要な狩り。結婚の為の狩りよ! 合コンは優れた狩人だけが生き残れるとってもシビアな集まりだったの」
自分を押し殺し、愛想笑いを貼り付けて初対面の印象をマックスまで底上げしつつ、さりげなく相手の年収やら趣味を聞き出し、帰ったら友人と来ていた相手について話し合い吟味する。そこまでがセットだ。
合コンについて説明すると、ルチルは共感したかのように感慨深げに頷き、男性陣は分かりやすく青ざめている。
「なるほど……こちらで言う社交界ね。確かに狩り場よ、あれは。トワにも経験あるでしょう?」
「……思い出したくも無いです」
「今の話を聞く限りお前は恰好の獲物だもんな。セターレはそういうの出た事あるのか?」
「僕ですか? 何度か強制的に参加させられましたが、そもそも僕が出席しても誰も近寄ってきませんね」
「ああ、お前不気味だから。顔立ちは良いのにクマ凄いし……」
「お褒めに預かり光栄です。なんだ、ヒマリさんはそんな物に情熱を燃やしていたのですか」
「まぁね。でもそれも途中までだけどね、何だか馬鹿らしくなっちゃってさ」
結局は仕事でも無いのに自我を殺せるのは最初だけなのだ。それに気づいた時点で合コンも婚活アプリも無駄だと言う事に気づいてしまった。
それでもなかなか止められなかったのは、家族への後ろめたさだ。
「しょうもない事に時間を費やしたなって今ようやく思えるわ。結婚なんて本当にこの人としたいって思わないうちはするべきじゃないのよ」
「しゃ、社畜の呪いが解けかかってんじゃねぇか! いいぞヒマリ、その調子だ!」
「そうですよヒマリ! 結婚なんて急がなくてもいいんです。ましてや今のあなたはもうそんな狩りに参加しなくても、周りにゴロゴロ獲物がいるでしょう!?」
「そうだそうだ!」
何故か満面の笑みでそんな事を言う二人に私は思わず首を傾げた。
「そんなの居る? まぁ何にしてもさっきみたいにあざとい態度で迫ってきても、私には効かないからね。で、あんたはどうして人間界に降りてこないの?」
「忘れて無かったかぁ~。いや、まぁそんな驚くような話じゃねぇよ。僕は選定の時期にいっつも反省部屋にいたってだけの話。終わり!」
「反省部屋?」
あっけらかんというクリスに私も含めて皆がポカンと口を開いた。一体なんだ? 反省部屋って。
「まぁここで言う牢屋みたいなもん?」
「は、犯罪者なの!? あんた!」
「犯罪者とか大層なもんじゃねぇよ! 遊んでて城壁壊したとか、ふざけてて森燃やしたとかぐらいだわ!」
「一大事でしょうが! このお馬鹿!」
「まぁまぁヒマリ、落ち着いて。クリスはまだ高位妖精の中でも年若いんですよ。誰にだって言いたくない過去の一つや二つはあるでしょう?」
「そりゃそうだけど……遊びで壁壊したりふざけて何か燃やすのはもしかしてヤンキーなんじゃないの? あんた」
「ヤンキー? なんだよ、それ」
「若気の至りで悪いことに憧れる子たちよ。でも徒党を組むと厄介なだけで、単独だと素直な子が多かったわね、あの子達」
接客業などをしていると、実に色んな人がやってくる。中には怖い職業の人たちも。その中でもヤンキーは案外人懐っこい子が多く、一度仲良くなるといつでも私目当てに店にやってきてくれていた。決して高価な物は買わないが、少しでも貢献したいと言って安い商品を2つ3つ買っていってくれる優秀な顧客だったのだ。
そういう意味ではクリスもそうなのかもしれない。口は悪いし最初は居直り強盗よろしくうちにやってきたが、なんだかんだ言いながら優しいしよく気がつく。むしろ素直で純粋だからこそ、社畜の世界に染まれなかったのかもしれない。
「ほら、多少悪いことに憧れる時期って誰にでもあるじゃん? ルールは破る為にあるんだ! みたいなさ」
「ないわよ。そんな事したら見つかった時ヤバいもん」
「俺もないですね。そんな性根で騎士団長は務まりません」
「僕も無いですね。そもそも外に出ないので」
「マジかよ」
「わ、私はあるかもしれないわ」
机の下で手をもじもじさせながら俯いたルチルにセターレとトワが白い目を向けている。
「姫は本当に反省してくださいね。あなたは法律こそ破りませんが、かなり際どい事をしますから」




