第97話「確認しすぎです」
昼前。
好代は、注文票を三度見た。
八番。
黄色いソース。
ピクルス抜き。
ポテトは小。
番号札を見る。
八番。
商品を見る。
ピクルスは入っていない。
もう一度、注文票を見る。
「……大丈夫です」
後ろから声がした。
「好代ちゃん、さっきから三回見てる」
渾沌だった。
「はい」
「一回でいいんじゃない?」
好代は注文票を置いた。
「昨日、間違えたので」
「昨日は一回間違えた」
「はい」
「今日は三回確認してる」
「はい」
渾沌が時計を見る。
「お客さん、増えてるよ」
好代は客席を見る。
入口の外まで列が伸びていた。
*
十二時。
注文が重なった。
十一番。
十二番。
十三番。
十四番。
好代は一つずつ確認した。
番号。
商品。
付け合わせ。
十一番。
確認。
十二番。
確認。
十三番。
確認。
「好代ちゃん」
渾沌が呼ぶ。
「はい」
「十四番、待ってる」
「今、確認します」
「それ、もう見たよ」
好代は手を止めた。
十四番。
黄色いソース。
チーズ追加。
確かに合っている。
「……そうですね」
渡す。
客は受け取った。
「ありがとう」
そのまま席へ行った。
次の注文。
好代はまた三回見た。
列が一人増えた。
*
十二時四十分。
客席から声がした。
「すみません」
好代が振り返る。
朝の客だった。
「はい」
「さっきの、注文通りだった?」
「はい」
「ならいいんだけど」
客は少し笑った。
「店員さん、すごく確認してたから」
好代は答えに困った。
「間違えないようにしています」
「うん。それは分かる」
客はトレーを持ち上げた。
「でも、こっちも急いでる時あるから」
帰っていく。
好代はその背中を見た。
厨房では、次の注文が鳴った。
*
午後二時。
好代は休憩室で、自分の注文票を一枚だけ机へ置いた。
昨日の間違い。
今日の確認。
どちらも自分がしたことだった。
間違えたから、確認する。
確認するから、遅くなる。
遅くなった分だけ、別の客を待たせる。
好代はペンを持った。
注文票の端へ小さく書く。
《番号を貼る前に一回》
その下。
《渡す前に一回》
それ以上は書かなかった。
*
午後三時。
同じ注文が二つ続いた。
三十一番。
三十二番。
好代は番号札を先に二枚並べた。
三十一。
三十二。
作る。
貼る。
渡す前に見る。
一回。
「三十一番のお客様」
「はい」
「三十二番のお客様」
「はい」
二人とも受け取った。
誰も待たなかった。
渾沌が横から覗く。
「減ったね」
「はい」
「何が?」
「確認です」
「いいじゃん」
好代は注文票を片づけた。
*
閉店後。
今日の廃棄数はゼロだった。
昨日は一つ。
好代は数字を見た。
ゼロだから正しかった、とは思わない。
昨日の一つも。
今日のゼロも。
どちらも結果だった。
その間に、自分がいる。
好代は業務メモを開いた。
《明日も二回確認する》
入力して。
少し考える。
《明日も必要なら二回確認する》
書き直した。
保存する。
端末を閉じる。
明日のことは、まだ分からない。
でも。
今日より少しだけ、待たせない方法は分かった。




