第96話「作り直します」
十二時十分。
注文番号が二つ並んだ。
四十一番。
四十二番。
どちらも同じバーガー。
黄色いソース。
ピクルス抜き。
ポテトは小。
好代は二つ作った。
包む。
一つ目に四十一。
二つ目に四十二。
そこで、四十二番の紙が指に貼りついた。
「あ」
剥がす。
粘着が弱くなっている。
貼り直すと、斜めになった。
「四十一番のお客様」
黒い上着の男が来た。
「俺、四十二」
好代は手元を見る。
「すみません」
札が逆だった。
貼り替える。
男が片方を受け取る。
その時。
もう一人の客が、カウンターの前で止まった。
「それ」
好代を見る。
「今、その人のだった?」
「番号札を間違えました。商品は同じです」
「触った?」
「触っていません」
黒い上着の男も、自分のバーガーを見る。
「俺、持ったのこっちだけ」
「ですよね」
客は残った包みを見た。
「……作り直してもらえる?」
好代は一秒だけ止まった。
「はい」
*
新しいパティを焼いた。
鉄板が鳴る。
じゅっ。
黄色いソース。
ピクルス抜き。
同じもの。
最初のバーガーは、カウンターの端に置いた。
誰も触っていない。
中身も間違っていない。
でも出さない。
黒い上着の男が、ポテトを一本食べながら見ていた。
「もったいないね」
「はい」
「俺のせい?」
好代はパティを返す。
「違います」
「でも俺がいなかったら作り直してないよ」
「たぶん」
「じゃ、ちょっと俺のせいじゃん」
好代は黄色いソースを塗った。
「でも、触ったことにはなりません」
男は黙った。
好代は新しいバーガーを包む。
今度は番号札を中央に貼った。
「四十一番のお客様」
客が来る。
「ありがとうございます」
好代が渡す。
客は受け取ってから、小さく頭を下げた。
黒い上着の男の方は見なかった。
席へ戻る。
男が言った。
「好代ちゃん」
「はい」
「俺、あの人に謝った方がいい?」
好代は客席を見る。
四十一番の客は、もう包みを開けていた。
「今は、食べています」
「答えになってない」
「そうですね」
男は笑った。
*
問題は、最初のバーガーだった。
作ってから六分。
廃棄するには早い。
販売には戻せない。
好代は廃棄表を開いた。
理由。
《調理ミス》
違う。
《注文間違い》
違う。
《異物混入》
違う。
《客都合》
指が止まった。
それも、少し違う。
後ろで渾沌が言った。
「食べていい?」
「駄目です」
「なんで?」
「販売用に作ったものなので」
「じゃ捨てるの?」
「たぶん」
「もったいな」
「はい」
好代は理由欄を空白にした。
登録できない。
《必須項目です》
まただ。
好代は少し考えて。
《提供前交換》
と書いた。
通った。
渾沌が横から見る。
「便利な言葉作ったね」
「便利かもしれません」
「次も使う?」
好代は首を振った。
「同じ時だけです」
*
午後一時。
四十一番の客がトレーを返しに来た。
包み紙は空だった。
「さっき、ごめんね」
「いえ」
「触ってないのは分かってたんだけど」
「はい」
「なんか無理だった」
好代はトレーを受け取る。
「分かりました」
客が少し困った顔をした。
「分かるの?」
好代はトレーを見る。
ポテトが二本残っている。
「同じ気持ちかは、分かりません」
客は一瞬黙って。
「そりゃそうか」
帰った。
好代はトレーを下げた。
黒い上着の男は、いつの間にかいなくなっていた。
*
三時すぎ。
また同じ注文が二つ入った。
黄色いソース。
ピクルス抜き。
ポテトは小。
今度は五十八番と五十九番。
好代は番号札を先に二枚、カウンターへ置いた。
それから一つずつ作った。
五十八。
包む。
貼る。
置く。
五十九。
包む。
貼る。
置く。
「五十八番のお客様」
高校生が受け取る。
「五十九番のお客様」
作業着の人が受け取る。
何も起きなかった。
好代は二人の背中を見送った。
昼に作り直した一個分は、戻ってこない。
パティも。
パンも。
時間も。
それでいい、とは思わなかった。
悪かった、とも決めなかった。
次の注文が入る。
六十番。
好代は番号札を取った。
今度は、貼る前に一度だけ数字を見た。
「六十番。はい」
厨房へ戻った。




