第八十四話 涙
「......ノア?なんでこんな深夜に..」
街灯の下で、俯いたままノアは動かない。
肩が小さく震えていた。
「....別に」
小さい声だった。いつもの明るさは消え失せてしまったように。
先程までの違和感が胸に引っかかる。
「別にって.....こんな時間に一人で、何してんだよ?」
「........」
何も答えない。
ただ、絡めた指にぎゅっと力を込めているだけだった。
「.......何かあったのか?」
一歩近づくと、ノアの肩がビクッと揺れた。
「.....いや....大丈夫....」
「.....大丈夫な奴の顔色してないぞ」
一歩ずつ、距離を詰めて話す。
街灯の光にノアの顔が照らされている。
「.....お前....」
光がノアの頬を伝った。
それは流れ星なんかじゃない。むしろ真反対のものだった。
「なんで泣いてんだ?」
「.....っ.....」
ノアの肩が大きく震えた。
肩が小刻みに震え続ける。
「ちが....」
俺の言葉を否定しようとした声は、
途中で掠れて止まってしまった。
声の代わりかのように、ノアの目から涙が一滴ずつ落ちていく。
「ご....め....」
言葉にならない声がノアから漏れ出す。
必死に堪えようとしているのが分かる。
.......ダメだろ。これは。
「.....ノア。」
呼びかけると同時に、ノアの腕を掴んで引き寄せる。
異性の抵抗なんてものは無かった。
「.....っ....」
腕の中に細い体が収まる。
「....無理すんな。」
何があったのかは、後で聞く。
とにかく今は......。
「.....う....っ.......」
ノアの手が、俺の冷たい服を掴んだ。
藁にしがみつくように。
「.....ゆ....うま....ご....めっ...」
「なんで謝るんだよ。
.....!!」
その言葉に、言い覚えがあった。
___なんで謝ってんだコイツ?________
....あの時.....
「ごめん。気付かなくてごめん。
あの時....俺が動けてれば....」
「ううん......でも...私っ....」
言葉の代わりに嗚咽だけが零れていく。
俺の胸元に顔を埋めて、静かにノアが泣き始めた。
....マジで何があったんだ。
強情で精神も強いコイツがこんなに泣くってことは相当なことだ。
「.....後で、ゆっくり聞かせてくれないか。」
背中に腕を回し、ゆっくりさする。
まずは、落ち着かせなければいけない。
「.....ぅんっ.....」
「……もういい」
ぽん、と軽く頭に手を乗せる。
「俺がここにいる」
街灯の下。
冬の夜の静寂の中で。
ノアはしばらくの間、俺にしがみついたまま、静かに泣き続けていた。
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「.......あ.....の人.....がっ....」
「.....?”あの人”?」
ノアの嗚咽も段々少なくなってきた。
ノアが俺の胸から離れ、赤くなった目で俺の顔を見る。
「.........助けて」
「........」
ノアを抱擁していた腕を下げ、
俺は静かに言い放った。
「ああ、そのために俺がいる。」
「....ありがとう。」
「....あー、話をする前に.....。
ここじゃ風邪引くよ。どっかに....」
「......じゃあ.....」
ノアがまた両手の指を絡めて、下を向きながら言う。
「うち、来なよ」
つづく




