第七十一話 結界術
「遅かったじゃねえの、マナ.....!!」
「....奈落の落とし穴で上手く着地できなくてよ....。
全く、ケツが痛いぜ......」
「.....君.....さっき暴れてた子か。
そこがチームなの?」
エステルが杖を俺とアリスの方に振る。
「どうだろうな。
悠真、アイツの能力は?」
「結界内の物体のデータの改竄ってとこだな。
結界内であればベクトルだろうがなんだろうが変えてくる。」
「なるほど...」
全容をマナにバラしているというのに、
エステルは不敵にも笑う。
「まぁ仕組みが分かったところで手の打ちようがないでしょ。
【固定.....」
「【超越流動】」
エステルが詠唱するよりも早くマナが動いた。
高速でエステルに殴りかかる。
が、拳がエステルの眼前で止まった。
「結界は壁にもなるからね。
悪いけど、私に攻撃は届かな.....」
パリン、と音が鳴り響き、
何かが割れた。
マナの拳が再度動き始めたことに気付く。
「っ.....!?」
エステルがツリーハウスのバルコニーに飛び移る。
マナの拳は地面の土を抉り取っていた。
「解析は得意でな。
即席の結界で防げると思わない方がいい.....ぞっ!!」
マナがピッチャーのような姿勢をとり、
地面の土から掘り出した小石を
エステルに高速で投げつける。
だが今度はエステルの眼前でしっかりと小石が停止した。
マナの【超越流動】は発動中触れたもの全てに
マナの固有特性が付与される。
それでどんなものでも上手く扱えるようになっている、
なので、実質マナのマジ殴りと同等の威力は出るらしい。
だが今回は結界を突き破れなかった。
「.....毎回結界の構造が変化するのか。
めんどくせえ能力だな。」
「褒めてくれて嬉しいよ。」
マナが思い切り地面を踏み込み、
再度エステルに飛びついて殴りかかる。
「殴る事しかできないのか君は」
「テメェのせいだろ.....
途中から箱の使用ができなくなった。
私達がいる結界のルールを書き換えたな。
結界の範囲は.....段々拡大していってるな。
今は大体この森林を丸ごとってぐらいか?」
「はっはっはっ!
君すごいね!やっぱり頭が切れるんだ。
そしてその奈落からも這い上がる身体能力。
いいね君!」
マナが空中に浮いたまま拳をエステルに伸ばし続ける。
.....箱が使用できない?
じゃあなんでアイツ【超越流動】を使えてたんだ?
.....あそっか。あれは言ってしまえば、
影力を放出してるだけだもんな。
影力は使えるって話ね。
「じゃあ今回は見逃してあげるよ!
バイバイ!」
「は....!?」
次の瞬間、エステルが急に消滅した。
ツリーハウスも同時に消える。
マナが宙返りし、地面に着地する。
「どこ行きやがった....!?」
「.....あれ....?俺は何を......。」
気づくと、タップが近くの木に寄りかかっていた。
タップ以外の人間は全員最初からいなかったかのように消えている。
「返してください!」
タップの手に握られていた杖を、
アリスが強引に取り返す。
「えっ....誰ですかあなたたち!!」
「....あ....?」
タップが驚いたような顔をする。
....噓はついてないみたいか。
「とぼけないでください。
殺しますよ?」
アリスが杖をタップの方へ向ける。
「本当だよ!
いつも通り家に引きこもってたら.....
なんでこんな所にいるんだよ僕!?」
「....どういうことだ?」
「..........洗脳.....?」
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タップの話を要約すると、
いつも通り家でPCで遊んでいたところ、窓を割って
黒いローブを着た不審者と、大きい羽の生えた烏人間が
入ってきたらしい。
んで、その後から記憶がないそうだ。
「烏人間.....洗脳とくると.....」
隣で一緒に話を聞いていたマナの目を見る。
「ああ。エステルとクロウは同じ組織なんだろう。」
「......なんなんだよその組織は......」
そのときだった。
「カンカンカーン!!
2時間が経過、そして試験者の五分の四の脱落により、
第一次試験はこれにて終了です。
専用端末のボタンを押して
次のステージに来てください。」
試合終了のゴングのような音が森林に鳴り響く。
「.....2時間?もうそんな経ったか?」
「そんなもんだろ。
というより、気にするべきはそこじゃない。
試験者の数は全部で72。
それが14人ちょっとまで下がってることが問題だ。
私が倒した試験者は30人ちょい下程度。
そして初手でやられた試験者が12。
そしてさっきツリーハウスで会った試験者も
30人ちょっと.....」
「........他のゾーンでも殺し合いが起きてたはずと仮定したら
数が合わないってことか?」
「ああ。だが、試験者には実体があった。
幻術ではないんだろう。
となると......
エステルが森林ゾーン以外で暴れる
→洗脳する→森林ゾーンで悠真とアリス確保
→逃げる→洗脳を受けていた試験者がエステルに倒された.....
ってとこか。」
「エステルはなんで一級試験の結界に入り込めたんでしょう.....」
アリスが頭を掻く。
「他人の作った結界もいじって入り込めるんだろうな。
.....それも問題はそこじゃないな。
組織のセキュリティがザルすぎる。」
「.....組織ってなんですか?
一級試験の運営を務めているのは
グループAですよ?」
......スゥーーー。
やっべ.......。
影法師業界でも組織は秘密な存在なんかい....
てか....グループA?
初耳だな.....
マナの方を見る。
マナもよくわかっていないような顔をしていた。
「アリス......グループAってなんだ?」
「えっ....知らずにこの試験受けてたんですか?
あなた全てに対して無知すぎませんか?」
しょうがないだろ別に興味も無いし!
「....グループAというのは
様々な組織の存在する影法師界において
トップレベルの働きを見せる会社のことです。
主に遺物の発見、開発、改良などをしていて、
どちらかというと一級試験のスポンサー的存在ですね。
ついでに運営もしているということです。」
「そうなるとエステルもグループAと考えるのが妥当か?」
「いえ、それは確実に無いと言っていいです。
グループAは箱の力を持たない者しか入れない”契り”があるらしいので。」
「えっ....そうなの?」
「まあ”私達は抵抗しません”っていう意思表示なんでしょうね。」
「なるほど.....。
まあいいや。次のステージ行くか。」
俺達は端末を取り出し、
ステージを移動できるボタンを押そうとする。
「ま....待ってくれ!!」
「?」
タップが手を伸ばして叫ぶ。
「皆さんが端末っていうから
僕ポッケとか探してたんですけど.....。
ないんですけど!?」
「.....エステルに取られてるんだろうな。」
マナに目配せする。
「こればっかりはどうにもできねえ..............よ.....?」
マナが驚愕したような目をする。
なんだなんだ....?
タップに目線を戻す。
「....!?」
タップの肩が謎に肥大化していく。
「皆さんどうしたんでしぇ.....ca....」
マナがアリスを抱き寄せ、目に手を当てて見えないようにする。
グシャ。タップの肩が破裂し、
目や内蔵が辺りに飛び散った。
「マナさんなんですか.....?
何が......。」
「アリスお前先行ってろ」
マナがアリスの端末を手に取り、
少々強引にボタンを押させた。
アリスの身体が粉のように
消えていった。
「.......仕掛けられてたか。」
「ああ。遠隔起動型の毒だな。
広範囲爆発系じゃなかったのは意外だったな。」
「.....そんなものすら積むほど、
コイツは人として見られてなかったんだろう。」
_____いつも通り引きこもってPCをいじってたら.....___
タップは30代くらいの見た目で、
肥満なのか小太りだった。
「........。」
俺達は無言で次のステージへ続くボタンを押した。
「________試験番号42番、
unknownによる絶命により、脱落。」
つづく




