↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影葬の剣  作者: いうな
過去編
100/111

第九十六話 政略

「よお玲。」


「喋んなカス」


教室へと入る。

ここは全生徒が300を超える、大型の影法師育成施設である。


ルナは後ろの席、トワは別クラス。

正直、俺達三人以外の生徒の成績、戦闘力はまずまずと言ったところだ。


それでも卒業後に一級の法師に成り上がる者もいるっちゃいるらしい。


荷物を自身の机に置き、椅子に座った。


「おはよう玲。体調は良くなった?」


「....あ?何の話してンだ」


「いや昨日トイレから帰ってきた後様子おかしかったからさあ。便秘かと....」


「違ェわクソアマ....」


「まずはその口調と性格何とかしないとね。

 セツナちゃんに怖がられちゃうよ」


「.......」


この口調は三年くらい前からこうだ。

昔、俺とノアのいた家庭に俺とノアの特殊体質を狙ったαβの組織が押し入り、

俺の父親と母親を殺した。


それから誘拐されたあとの施設で能力が覚醒した。その後、

もう舐められないように、他人を寄せ付けないようにこんな性格にねじ曲がってしまった。


直そうとは思っているが、いざとなると簡単には直らないものだ。

ノアの前では少しマシにはなるが。


そうしていると、教室のドアが開き、教師が入ってきた。


「お前ら席につけー。ホームルームを始めるぞ。

 あと玲....お前机から足を降ろせ。」


「......へいへい」


机の上で組んでいた足を下に降ろす。

背後から笑い声が聞こえてきた気がするが、後で殴ればいい。


「ったく.....お前来週から任務なのにそんな感じで大丈夫か?」


「るせェ.....アンタも昔不良だったらしいじゃねえかよ」


「教師には敬語使え。それでもお前より高校(ここ)での成績は良かったぞ。」


「チッ......」


教師は今日の時間割の説明と報告などを始める。

すると、後ろから肩を叩かれた。


「ンだよ....」


「先生は玲よりも階級も上なんだからそんな口聞いちゃダメだよ〜」


「黙っとけやカス!」


「......にしても過去を知ってる上だと意外だよね。

 不良だったB先生がこんなところで教師なんてしてるなんて」


B。それがこの教師の名前であり、謎の一つだ。

なぜαβがこんなところで教師をしているのか。

俺の中で探るべき謎の一つである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



私は今、組織の最上階にある理事長室へと向かうエレベーターに乗っていた。

エレベーターが停まる。


最上階の廊下は一本道だ。理事長室の扉へ向かう道のみ。

理事長室の、やけに重たい扉のノブに手をかける。


恐る恐る扉を開けると、広い会議室の奥に、

窓の外を見つめる理事長の姿があった。


「......来たかノア君。まあ座りたまえ。」


部屋の真ん中にあるソファに座らされ、

理事長が机にティーカップを置く。


「....それでこの前の話なのだが....考えてはくれたのかね?」


そう言い、カップに紅茶を入れられる。


「緑空さんとの件...ですよね。」


「如何にも、私の息子とについてだ。

 どうだ?君の兄である、玲君の出世のチャンスでもあるのだぞ?」


理事長は紅茶を飲み、間を置いてから話し始める。


「嫌なのかね?我が息子.....緑空との婚約が。」


「.........」


言葉が出なかった。

喉まで何度も「嫌だ」という言葉が込み上げる。


けれど、その一言を口にした瞬間、この部屋の空気がどう変わるのかを考えるだけで、息が詰まりそうだった。

理事長は私の沈黙を否定とは受け取らず、静かに微笑む。


「返事に困るのも無理はない。突然の話だからな。」


そう言う口調は穏やかだった。

だが、その瞳には一切の温かみがない。


同じだ。この目は、私の両親を殺した人達と。


「しかし、組織に属する者なら理解できるはずだ。

 個人の感情より、組織の利益が優先される。」


理事長は再度紅茶を口へ運ぶ。

カチャ、とカップを置く小さな音が、妙に大きく響いた。


「玲君は優秀な人材だ。」


理事長は私から目を逸らさない。


「彼には、いずれこの組織を支える存在になってもらわねば困る。

 そのためには私の後ろ盾が必要だ。」


「…………」


「政略結婚.....そうとも言うが、緑空も君のことを愛しているのだよ」


その言葉の意味は、嫌というほど伝わってきた。

胸の奥が冷たくなる。


「もちろん、私は玲君を高く評価している。

 ……今は、ね。あの荒々しい性格を除けば....」


その"今は"という二文字だけで十分だった。

兄の未来が、私の返事一つで決まる。


そんなことを、遠回しに告げている。


「ノア君。」


理事長は穏やかな笑みを崩さない。


「君は聡明な子だ。私に"断る"という選択肢を提示させるような真似はしないと信じている。」


部屋の空気が重くなる。

逃げ場がない。

何を言っても、この人には通じない。


私は膝の上で拳を握り締めた。


その時だった。


コン、コン。


扉が二度叩かれる。


「失礼します。」


聞き覚えのある声。

扉が開き、一人の男がゆっくりと部屋へ入ってきた。


緑空だった。


「父さん、お話は終わりましたか?」


「ああ、ちょうど良いところだ。」


理事長は口元を緩める。


「本人にも来てもらおうと思っていた。」


緑空は私の隣まで歩いてくる。.......距離が近い。

逃げるように身体を引こうとしても、ソファの背もたれが邪魔をした。


「ノアさん。」


優しい声。だが、その視線だけは違った。

獲物を見つけたような、執着の色が宿っている。


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。」


肩へ手を伸ばされ、触れられる。

思わず身体が震えた。


「……っ。」


「怖がらないでください。」


手は離れない。

むしろ指先に少しだけ力が入る。


この前に初めて会った時から、この人が怖くて仕方が無かった。

表情と口先が、溢れ出る気配とは正反対なのだ。


「僕はあなたを幸せにしたいだけなんです。」


その言葉とは裏腹に、逃がさないと言わんばかりの力だった。

理事長が静かに笑う。


「見たまえ、緑空はこれほど君を想っている。」

 どうだい。組織最強の戦士と神の子である君が繋がれば全てが平和に終わるんだ。」


緑空は私の耳元で、小さく囁く。


「……玲くんのこと、大切なんだよね。」


心臓が止まりそうになる。


「父さんが一言言えば、人事なんて簡単に変わる。」


「…………」


「もちろん、逆もできますけど。

 だから安心してください。」

 ノアさんが"はい"と言ってくれれば、全部丸く収まります。」


私が”はい”と答えれば、お兄ちゃんの階級は上がるだろう。

高い役職にもつけるようになるかもしれない。

そうすれば孤児院の子供たちも.....。


理事長は満足そうに頷いた。


「返事は急がなくてもいい。」


そう言って立ち上がる。


「……とは言え、あまり私を、私たちを待たせないでくれたまえ。」


その穏やかな声には、拒絶を許さない威圧だけが込められていた。

私は何も言えなかった。

ただ俯いたまま、握り締めた拳だけが震えていた。


「......っ....じゃあ私もう帰らないとなので...」


「ああ、Bくんの孤児院のルールだったか。

 ....だが悪いね。」


「.....え?」


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。