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影葬の剣  作者: いうな
過去編
101/111

第九十七話 消音


「えっ....?」


私が呆然としていると、

理事長は静かに立ち上がり、部屋の入口へゆっくりと歩いていく。


「……さて。」


ガコン。影による施錠音が部屋に響いた。

理事長は扉の鍵を回し、そのままポケットへ鍵をしまう。


この部屋は遺物で出来ていたのか?

私は反射的に立ち上がる。


「り、理事長……?」


「何をそんなに怯える必要がある。」


穏やかな笑みは崩れない。


「少し落ち着いて話をしたいだけだ。誰にも邪魔をされたくなくてね。」


部屋を見回す。

この空間だけは東京支部である。窓は最上階。分厚い防弾ガラス。


扉は理事長の後ろ。逃げ道が、ない。


「座りたまえ。」


その一言だけで、身体が硬直する。

動けない。緑空がゆっくりと立ち上がり、私との距離を一歩ずつ詰めてくる。


「そんなに警戒しないでください。」


穏やかな口調。

だが、その足取りは迷いがない。


私は一歩後ずさる。

緑空は一歩前へ。


もう一歩。また一歩。


気づけば背中が冷たい壁に触れていた。

金属製の分厚い壁だ。


理事長室はその役割とは別に、

一度部屋に入ったものを操る遺物でもある。


後付けの扉までそうとは思わなかったが。

そこに理事長の”箱”が絡むと面倒になってくる。


「……っ。」


逃げ場がない。

左右を見ても、緑空が進路を塞いでいる。


理事長は少し離れた場所から、その様子を静かに眺めていた。


「ノア君。」


低く、落ち着いた声が響く。


「君は賢い子だ。」


「……。」


「無理に抵抗すれば、君自身も苦しむことになる。」


言葉を区切り、視線だけを向ける。


「そして、その余波は玲君にも及ぶだろう。」


胸が締め付けられる。お兄ちゃん。


その名前を出されるだけで、身体から力が抜けていく。

緑空は壁との間合いを保ったまま、静かに口を開いた。


「僕は争いたくありません。」


「……。」


「あなたが頷いてくれれば、それで終わる話なんです。」


部屋には時計の秒針だけが響く。

私は震える指先をぎゅっと握り締めた。


ここで拒絶すれば、お兄ちゃんがどうなるか分からない。


かといって、頷けば——。

どちらを選んでも、未来は暗闇しか見えなかった。


理事長はその沈黙を見透かしたように、小さく頷く。


「悪いね。これは緑空の親である役割と同時に、

 理事長命令でもある。」


そう言ってソファを指さす。


「この部屋を出る頃には、君も答えを決めているだろう。」


静まり返った理事長室。

鍵の掛かった重い扉だけが、私には現実を突き付けていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぐっ.....!?」


「?どしたの玲?」


予定通り会議室に向かう途中、急に頭痛が俺を襲った。

なんだ....?


「チッ.....何でもねえよ。さっさと行くぞ」


組織の東京支部......のさらに支部の廊下を進む。

依頼人の一般人(セツナ)がアクセスしやすいよう、

三階建てほどの小さいビルを丸ごと事務所にしているのだ。


「早くセツナちゃんに会いたいなぁ。

 連絡先交換しておいたんだよ!」


「テメェ何勝手に....。

 依頼人との関係は深めないようにだろうが!!」


「うるっさい!別にいいじゃんか!」


そんな他愛のない会話を交わしていた、

次の瞬間だった。


「.....!?」


また強い頭痛が俺を襲った。と同時に.....。


「伏せろ!!」


ズドンッ!!


耳を裂くような轟音が俺達の頭上を過ぎ去った。

後方のコンクリの壁が盛大に破壊される。


「......スナイパー.....!?」


つづく

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