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オーク英雄物語 ~忖度列伝~  作者: 理不尽な孫の手
第十章 戦乱の国々 合流編
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119.不死殺しの魔剣


 研ぎの段階に進む頃、鍛冶場は静かになっていた。

 今は、プリメラの出す金属を削る音だけが聞こえてくる。

 ルカは魔力を使い果たして眠り、その隣に兄であるルカが並んで眠っていた。

 キャロットは、焼き入れの作業が終わる頃にバッシュのいる部屋へと向かっていた。

 サキュバスが眠る男の部屋にいく。

 何をしにいったのかなど、聞くまでもないだろう。


 アスモナディアはそれを咎めるつもりはない。

 この作業が終われば、次は戦いなのだから、栄養補給は必要だ。

 サキュバスのそれは、少し早めにやっておかなければ、男の方が使い物にならなくなってしまう。

 今しかなかろう。


 アスモナディアは、プリメラが刃を研ぐ様子を、静かに見守っていた。

 掛ける言葉はない。

 ここまで来れば、アスモナディアよりプリメラの方が腕は達者だ。

 気にかかると言えば、そんな二人の近くで、いつしか人間の姿になっていた『目』のことか。

 彼女はしゃがみ込み、ボンヤリとその行為を見ていた。

 意味など分かっていないだろうが、とにかく目だけがプリメラの手を追い続けている。

 こうしていれば、恐怖など無いのに。

 そう思うアスモナディアの脳裏にあったのは、やはりかつてのこのドラゴンに殺された時の思い出だ。


 そんな『目』が、ふと立ち上がった。


「腹が減った」


 その言葉を聞いた途端、アスモナディアは椅子から転げ落ち、己の身体を抱えてブルブルと震えた。


「こ、この私を食べるつもりか?」

「群れの仲間は食べない」

「まぁデーモンはそんな美味しく無さそうっすよね。なんか青いし」


 答えたのは、いつしかアスモナディアの近くに寄っていたヒューマンの女だった。

 ゼルだ。

 なぜか全裸であり、全身にべたついた液体が付着た、汚ぇゼルだ。

 とはいえ、彼女はバッシュ……オークと共に部屋の奥に入っていったのだ。

 何をしていたかなど、未通女のアスモナディアですらわかった。


 こいつら、私達が剣を打ってる間におっぱじめてやがったのだ……と、憤るアスモナディアではない。

 なにせ向こうにいる愛する男はオークなのだから。

 そりゃあするだろう。

 暇を見つけてやっている分、他のオークよりもよっぽど理性的だ。

 普通のオークは暇など見つけずにおっぱじめるのだから。


「こいつらは変な殻を付けてるから硬いしマズイ……だが、今はそれでもいいな」


 よだれを垂らす『目』に、アスモナディアは戦慄し、口をパクパクと開閉した。

 ドラゴンは知能が高い生物と言われているが、所詮は獣だ。

 今まさに、この場にいる誰かを食べてもおかしくない。


「ご飯ならあるっすよ。オレっちもヒューマンになってから、食の素晴らしさに目覚めたんすよ。日々の干し肉を作るのはオレっちの担当っす。極上の逸品があなたを待ってるっす。あ、その前に水あるっすか? ベタベタして気持ち悪いっす」


 アスモナディアは言われるがまま、魔法で水を作り、近くにあった金属の入れ物に入れてゼルに渡した。

 ゼルはそれを上からバシャリと被るとブルブルと身ぶるしし、鍛冶場の隅の方へと歩いていく。

 そして置いてあったバッグを取って戻ってくると、その中を見せた。

 バッグには、ゼルの作った干し肉がパンパンに詰められていた。


「ほい、どうぞっす!」


 ゼルはその内の一つを、アスモナディアと『目』へと渡し、プリメラの口に咥えさせた。

 目はそれをしげしげと眺めていたが、やがて「これでもマシか」と言わんばかりにもぐもぐと食べ始めた。

 しかしニュートによって味覚が変化していたのか、一口食べると顔をパッとほころばせ、次々に食べ始めた。


「カラカラの肉、うまいな!」

「そっすよね! オレっちもヒューマンになってから、この味に気づいたっす。ヒューマンって塩っけをやたら美味しく感じるんすよ」

「うん。うん……」


 目はしばらく、がつがつと干し肉を食べていた。

 それはもうモリモリと。

 もし肉がバッグに詰め込まれていなかったらどうなっていたのかと思えるほどの勢いで。

 が、やがて顎が疲れたのか、あるいは多少腹が膨れたのか、クワッと欠伸をして、立ち上がった。


「寝る」


 そう一言いうと、のそのそとルドとルカの方へと歩き出す。


「じゃあオレっちも寝るっす」


 ゼルがそれに追従し、二人はルドとルカの近くで当たり前のようにくっついて横になった。

 アスモナディアは、あのヒューマンはドラゴンが恐ろしくないのかと戦慄した後、そういえばゼルはヒューマンではなく元フェアリーのヒューマンもどきであったと思い至り、フェアリーなら仕方ないかと勝手に納得した。


 正直、生きた心地はしない。

 アスモナディアは干し肉を齧ると、深くため息をついた。


■ ■ ■


 それから、またしばらくの時間が経過した。


 バッシュは目を覚ますと、彼の上では、サンダーソニアがあられも無い姿で寝入っていた。

 最近、彼女らの寝台はバッシュそのものであることが多かった。

 野営に慣れた者達だが、それでも柔らかい場所で寝たいのだろう。

 バッシュは決して柔らかくはないが、それでも岩よりはマシだ。

 バッシュはベッド代わりにされることを嫌がることは無い。

 なぜなら、バッシュは硬いが女の肌は柔らかいからだ。極上の布団である。


 バッシュはサンダーソニア起こさぬよう、地面に横たえると、鍛冶場へと戻る。

 すると、丸くなっているドラゴンの姿が目に飛び込んできた。

 さらに言えば、そのドラゴンの腕のあたりに寄りかかり、ぐっすりと眠りこける四人の姿も見えた。

 プリメラ、ルド、ルカ、そしてゼルだ

 そこから少し離れた所では、アスモナディアとキャロットが、静かに飲み物を飲んでいた。

 バッシュは無言でそちらに近づいた。


「バッシュ様、起きられたのですね?」

「遅い起床だな。今は何時かわからんが」


 顎で座れと手で示され、バッシュは言われるがまま、アスモナディア達の前に座った。

 アスモナディアは、無言でガラス瓶を差し出してくる。


「太古のドワーフの酒だ。酒気は完全に抜けているが、喉は潤う。悪くなっている可能性もあるが、なに、お前なら腹も壊すまい」

「ああ」


 バッシュはそれを口に含み、飲み干した。

 酒っぽい風味だけ残った水といった感じだ。

 これで酔っぱらうのは不可能だろう。


「お前は寝ないのか?」

「少しは慣れたが、ドラゴンの傍でなど眠れるものか。奴め、人間になったりドラゴンになったりと、せわしがないしな……なに、私はハイデーモンだ。三日三晩眠らずとも支障はない」

「そうか……」


 バッシュは、アスモナディアをまじまじと見る。

 見れば見るほどに良い女だ。

 理想的なデーモン女。

 背が高く、生意気で、胸が大きい。

 デーモンの国に赴いたのは、まさにこのような女を夢想してのことだった。


「私に見惚れているな?」

「ああ。お前はいい女……いや、麗しい女性だ」

「だろう? どうやら少し勘違いがあったようだが、我が父シーケンスはお前がドラゴンを追い払った際の報酬として、この私を与えるつもりだ。無論、お前が受け入れればの話だがな」

「お前は……俺が好きなのか?」


 そう聞いたのは、バッシュ自身も少し、困惑していたからだ。

 サンダーソニアに言われるがままにここにきて、嫁が増えると言われ、ゼルは納得していたようだが、バッシュは話についていけていなかった。


「ああ。お前に命を救われた時からな」

「デーモンがか?」

「このアスモナディアが、だ」

「……つまりお前は、俺の子を産んでくれるということか?」

「そうだ。そのつもりで来た」


 それは、バッシュにとってわかりやすいプロポーズだった。

 そして、バッシュはオークだ。

 複数の嫁を持つことに、オークの掟という意味で困惑はあれど、すでに三人いるのが七人に増えようが、気にする種族ではない。

 そういうものかと受け入れるだけだ。


 とはいえ、今はバッシュもスッキリしている。

 童貞だった頃のように、いきなり怒張して襲いかかることはしない。

 童貞だった時も、襲い掛かったことはなかったが。


「ならば、戦いが終わった後、お前を抱く」

「そうしろ。ハイデーモンを抱き、子を産ませたオークとして、歴史に名を残すがいい」


 そう言われると、バッシュも元気になりかける。

 やはり立場のある良い女を抱いて孕ませるというのは、オーク的には価値のあることなのだ。


「その後、あっちの娘二人も抱いてやれ……あと、そのドラゴンもか」


 アスモナディアは苦々しい顔で『目』を見る。

 今もなお、四人の若者に寄りかかられて眠っている。

 身じろぎをする時も、潰さぬように気を配っているのがわかる。

 その動作だけで、このドラゴンに敵意が無いことが伝わってくる。

 それでも苦手だが。


「だが、その前にプリメラをねぎらってやれ。いくらドワーフとはいえ、あの剣を一晩で打ち切るのは、中々に骨が折れたろう」

「ああ……お前も疲れたか?」

「いいや。私は疲れてなどいない。奴らの大仕事を手伝っていただけだからな。疲れるのはこれからだ」


 アスモナディアはそう言いつつ、キャロットの方を見る。

 

「手伝っていただけといえば、キャロット。貴様には今後も苦労を掛けるだろう」

「……それは、なんでぇ?」

「今後、我らはバッシュの伴侶として意見を衝突させ続けることになるだろうからな」

「意見を衝突させないという道は無いのぉ?」

「無い。我らのような集まりは、無理にでも反対意見を出し、それを否定せねば落とし穴に嵌る。サンダーソニアは筆頭妻に相応しく貫禄もあるが、調和を取りすぎる。歳のせいだろうな。私が反対意見を出しても、呆れながら『ならそれでやってみるか?』と言ってしまうだろう。失敗してもいいぞと言わんばかりにな」

「あの時、そこまで考えていたのぉ?」

「当たり前だ。私はハイデーモンだぞ」


 アスモナディアはそう言うが、実際の所は本気で筆頭妻を目指していたというのもある。

 それがデーモンという種族だからだ。


「……私、あなたを論破する自信とか無いんだけどぉ」

「何、私も無理筋な提案ばかりするつもりはない。私の意見の方が良いと思ったら、それを通してくれればいい。ちゃんと考えたという感触が大事なのだ」

「そうねぇ……」


 キャロットは苦々しい顔をしていたが、頷いた。


「バッシュ、お前は何があっても当然という顔をしていろ。思う事があったら言ってもいいが、考えることは頭のいい種族に任せておけ。私たちは皆、オークが馬鹿だと知っている」

「ならば、そうしよう」

「よし」


 アスモナディアは、静かに酒を煽った。

 まるで死ぬ前の儀式のようであるが、バッシュもキャロットも知っている。

 これから、死ぬかもしれない戦に赴くのだと。

 これまでも、何度もこういった話はしてきた。

 そして生き残ってきた。

 いつものことだ。


「皆を起こせ。剣の披露といこうじゃないか」


 アスモナディアの言葉で、キャロットたちは立ち上がった。


■


 その剣は、無骨なシルエットをしていた。

 長めの柄があり、鍔があり、肉厚の刃があった。

 刃は、その無骨なシルエットに似つかわしくない文様が刻まれていた。

 かなりの重量があるらしく、プリメラはそれを両手で抱えるように持っていた。

 一行はそれを見て、ほうと息をつく。

 全員が全員、剣に詳しくはないが、いい出来だとわかった。

 人間姿の『目』だけは、作っている過程をまじまじと見ていたせいか、今はあまり興味が無さそうだが。


「バッシュ。約束の剣だ。重心は前の剣に似せてあるけど、重いぞ」


 プリメラの手より、バッシュに剣が渡される。

 太古の金属で作られたその剣は、通常の鋼よりも幾分か重い。

 要所にのみ使われる金属だったか、あるいは本来であれば軽量化の工夫が施されるものだったのだろう。

 時間さえあれば、そこも研究できたのだが、今回は時間も材料も限られていた。

 ゆえに、全てが正体不明の金属で作られている。


 幸いにしてバッシュは片手で軽々とそれを持ち上げることができた。

 ブンと振ると、魔紋から粒子が零れ、軌道に軌跡が残る。

 何やらカッコイイが、実のところ意味はない。

 デーモンがやりがちな、ちょっとした装飾だ。


「前の剣よりもいいな。使いやすそうだ」

「そうか、よかった!」


 バッシュの前の剣と言えば、デーモンの魔剣だ。

 不壊の魔剣と言えば、ドワーフの中でも知らぬ者はいないほどの名剣。

 それと比べて良いと言ってもらえたのは、プリメラにとって最上級の誉め言葉だった。


「あたしは、安全な所で待ってる。ちゃんと戻ってこいよ」

「無論だ」


 プリメラが拳を作り、バッシュの腹を小突く。

 バッシュはその拳を己の手で包み、約束した。


「バッシュ様」


 ルカが前に出てくる。

 徹夜をしたせいか、魔力を一度使い果たしたせいか、その顔には疲れが見えた。


「私も、戦場にご一緒できませんが、ご武運をお祈りしております」

「うむ」


 バッシュは、その小動物のような少女に身を寄せられて、何となく頭に手を置いた。

 かつてのバッシュであれば、抱けるか抱けないかで考えていたかもしれない。

 しかし今はなんとも、穏やかだ。

 戦が近いからかもしれない。


「よし、行くか」


 サンダーソニアの言葉で、バッシュはルカの頭から手を離した。


「といっても、どうやって出るかだが……」


 サンダーソニアが周囲を見渡す。

 入って来た場所はすでに崩落し、出口がふさがっている。

 あるいは『目』であれば土砂ごと大穴を開けられるかもしれないが……アスモナディア的には今のように、ずっと人間の姿でいて欲しい所だろう。


「炉の煙が出てこなかったから、どこかで排煙してるはずだ。外にはつながってるんだ、それを探せばいい」


 プリメラの言葉で、一行は天井を見上げる。

 確かに、炉の煙突は天井へと伸びていた。

 考えてみれば、煙が鍛冶場に充満することもなかった。

 そもそも、煙についてまるで考えていなかったことに気付き、サンダーソニアは苦い顔をする。

 もし排煙処理が土砂などでつぶれていたら、今頃は酸欠で死んでいたかもしれない。

 アスモナディアは涼しい顔をしているから、最初から大丈夫だと気付いていたのか。

 冷や汗を垂らしている所を見ると、そこまで考えていなかったのかもしれないが……。


 しかし、煙が出ていたという事は、とサンダーソニアの脳裏に嫌な予感がよぎる。



「まったく、厄日だな! 山の穴から不自然な煙が出ていると聞き、よもやと捜索してみれば、結局見つかるのはドラゴンではなく、お前たちか!」



 それと同時に、大広間の入口の方から声がした。

 通路を降りてくるのは、二十名近い、完全武装の兵士たち。 


「そういえば、お前らがいたんだったな」

「ドラゴンもお前たちも、放置して帰るわけにもいくまい?」


 戦闘に立つのは、名高きハイデーモン。

 幾つもの魔剣を背負う、デーモンの将軍。


 『剛剣将軍』ネザーハンクスとその配下たちが、そこにいた。

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― 新着の感想 ―
早速試し斬りが出来そうだけど、ここは仲間にして戦力増やしたい まあ斬られて武器を色々GETになりそうな感じ そもそもバッシュなら武器を使わなくても賢者タイム中なら全体攻撃の最強魔法発動して 不死の敵な…
『目』へのリアクション、実はアスモナディアのそれが正しいのかもしれないw
剣を持ったバッシュと強者揃いの嫁たちだと勝ち目なくないか?
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