常識の崩壊
どれほどの時間が流れただろうか。
馬車の中を支配していた荒い息遣いも、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
誰も口を開こうとはせず、車輪の音だけが果ての見えない荒野に響いていた。
やがて呼吸が整い始めた頃、陸が重い口を開く。
「……なぁ、アリシア。さっきの怪物……一体何だったんだ?」
アリシアは抱えた膝に顔をうずめるようにして、固く拳を握りしめていた。
震える声で、彼女はぽつりと呟く。
「あれは……【災厄級】の魔物よ……」
「災厄級……?」
「ええ。この世界には、危険度に応じた魔物の強度階級が存在するの」
アリシアはゆっくりと青ざめた顔を上げ、小さく息を吐きながら説明を始めた。普段の元気な面影はなく、ただその声には恐怖の余韻が残っている。
「……一番下が【徘徊級(Vagrant)】。『ゴブリンキング』みたいな魔物が、その階級よ……駆け出しの冒険者でも対処できる雑魚よ」
陸は思わず息を呑んだ。
命懸けで逃げ延び、ようやく撃退したゴブリンキング。あれですら、この世界では最下位の魔物だった。
「その一つ上が【軍勢級(Legio)】。群れをなして押し寄せる魔物たち……普通の冒険者じゃ、数だけで押し潰されるわ」
アリシアはもう一度息を整え、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「さらにその上が【異形級(Monstrum)】。複数の属性や特殊能力を持つ……厄介な魔物よ。そして……今日私たちが遭遇したのが、上から三番目の階級——【災厄級(Calamitas)】。」
彼女の瞳に、深い恐怖の陰りが落ちた。
「たった一体で要塞一つを滅ぼして、騎士団すら壊滅させるほど……文字通りの天災……ガルトの氷壁が、あっさり砕かれたのも当然よ……」
「その上に、まだ上がいるのか……?」
「ええ……その上には、一帯の領域を完全支配する覇王——【主宰級(Dominus)】。そして最悪の存在……現れるだけで世界を滅ぼすとされるEX級——【終末級(Apocalypse)】……」
果てしない世界の恐怖に、馬車の中は重い静寂に包まれた。
「……本当に、死ぬと思った……」
その震える声は、重い沈黙を包んでいた馬車の中に溶けるように消えていく。陸もまた何も返せず、ただ固く拳を握り締めていた。
生き延びたという安堵よりも、一歩間違えれば命を落としていたという現実のほうが、ずっと重く胸を締めつけていた。
馬車は静寂に包まれた荒野を進み続けた。吹き抜ける風と車輪の音だけが、重苦しい沈黙を運んでいた。
そして——やがて目的の城鎮へと辿り着いた。
無事に街へ到着し、安堵の息を吐きながら馬車をから降りた陸とアリシア。
アリシアの脚の震えは、まだ完全に収まっていなかった。それでも陸の隣で、小さく息を吐いた。
二人は疲れ果てた足取りで、賑やかな街の雑踏へと消えていった。
二人の姿が雑踏へ消えるのを見送っると、馬車はゆっくりと進路を変え、人影のない裏路地へと入り、その一角で止まった。
御者台から降りた人は静かに手を顔にかざし、変装が解け、現れたのは全く別の素顔。
この世界のシナリオを裏で弄ぶ者——『神秘人』の顔であった。
その人の口元が、意味深な笑みを浮かべた。
「ククッ……」
その視線は、先ほどまで戦場だった遥かな彼方へ向き——魔物が襲いかかってきた、あの場所。
実は、あの戦場の近くにある草むらの中に、本物の馬車の御者が、頭を殴られて絶倒したまま放置されていたのだ。
草むらに倒れ伏した御者は、今なお微かに息をしていた。
何も知らぬまま、自分を御者だと信じ、怯えながら歩みを進めていく二人。
「さて……君はどこまで辿り着けるのだろうね、神坂陸。」
暗い路地裏で、神秘人の歪んだ笑みが、闇へと溶けていった。
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【ステータス(能力面板)】
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【名前】リク(神坂 陸)
【LV】1
【種族】人族
【職業】無職(初心者)
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【基本能力値】
HP(生命力):15 / 15
MP(魔力) :0 / 0
SP(體力) :10 / 10
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【裝備・武器】
・羈絆の刃(預設初心者木劍)
[招式塊スロット]:[ 風渦曲陣 ][ ロード中 ][ ロード中 ][ ロード中 ][ ロード中 ]




