↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/29

本当の主

 水が、同じ方向へ流れている。


 最初は東寄りの一角だけだったのが、しばらくすると水面ごと全部そちらへ向かっていた。


 浮いていた緑色のものが、一本ずつ細い線に引き伸ばされて、同じ場所を指している。


 場では何人かが立っていられなくなって、その流れに引かれて半歩ほど滑った。


 「……水、動いてないか」


 待機席で誰かが言った。


 「何か出るんじゃねえの」


 「軍勢級だろ」


 隣の少年が言った。


 立ち上がりもしないし、身を乗り出しもしない。ただ、その水面から目を離さないだけだ。


 「前のときもそうだった。先に水が動いて、それからでかいのが出てくる」


 陸は、その横顔を見た。


 「前」という言葉を、この少年は今日もう三回使っている。


 天涯幕が、そちらを向いた。


 沼の東南の角で、水面が盛り上がっていく。


 盛り上がりがどんどん大きくなって、それから弾けた。


 水柱が二階の高さまで噴き上がる。


 水の中から立ち上がったものは、一本の通りほどの長さがあった。


 背中は骨の板で埋まっていて、口を閉じていると腐った丸太に見える。開けば、人が一人まるごと入る。


 【ウォーターゲイター】LV19/軍勢級


 「うわああああ——!」


 待機席は、今度こそ本当に叫んだ。


 前の列が一列まるごと立ち上がって、後ろの列では身体ごとのけぞっている者もいる。


 陸は動かなかった。


 ただ、その水を見ていた。


 流れの向きが、変わっている。


 さっきまで東南へ向かっていたものが、今はその長いものの周りを回りはじめている。回るほどに速くなって、最後には全部がその背後へ集まった。


 そして、その水が、あれを押した。


 ウォーターゲイターは、後ろから蹴飛ばされたように、真っ直ぐ飛び出した。


 泳いでいるのではない。水が押しているのだ。


 水面に一本の溝が裂けて、その両側に泥がまるごとめくれ上がった。


 その線の上に立っていた人間は、誰も反応できなかった。


 白い光。白い光。白い光。


 四人。二秒もかかっていない。


 陸の視線は、まだその溝に残っていた。


 その溝は、真っ直ぐだった。


 最初から最後まで、少しも曲がっていない。


 「……あれ、どうやってあんなに速く動いてるんだ」


 『技でしょ』


 蓮の言い方は、普段より少し速かった。興奮している。


 『水を前に押させるやつ』


 『だからさっき、水が全部あっちに集まってたんだよ』


 陸は、裂けた溝がゆっくり閉じていくのを見ていた。


 一度で、四人。


 気づけば、座席の下で足が少し引っ込んでいた。


 陸はそれを戻した。


 そして、もう一度引っ込めた。


 場では、残った人間がもうかなり散っている。一直線に並ぼうとする者はいない。


 ウォーターゲイターが、その場でゆっくりと向きを変えた。


 水がまた、その背後へ集まりはじめる。


 ——ウォーターゲイターの、あたま。


 (へへ)


 (見たか)


 (この沼の水は、俺様のものだ)


 (どっちへ流れるかは、俺様が決める)


 (あの二本足どもは、立つことすらできやし——)


 (……ん?)


 (待て)


 (水、なんであっちへ行ってるんだ)


 (俺様は、あっちへ行けとは言っていない)


 (あっちに、何がある)


 (……)


 ——闘技場。


 天涯幕の画面が、少し横へずれた。


 画面の隅を、一人が歩いている。


 その方向へ、歩いている。


 待機席の声が、すっと小さくなった。


 「……おい」


 「あの傘の」


 前の列で、一人が中腰になって、また座った。


 「何する気だよ」


 陸も、背筋を伸ばした。


 場のあの長いものが、ふいに止まった。


 向きも変えた。水も集め終えている。それなのに、飛び出さない。


 下がっている。


 一本の通りほどもある長さのものが、後ろへ下がっているのだ。


 「……え?」


 「あいつ何やってんだ?」


 陸にも分からなかった。


 あれはついさっき、一度で四人を持っていった。


 その同じものが、今は必死に下がっている。尾が横の枯れ木を薙いで、木が根元から折れても、振り返りもしない。


 そして——


 画面が、一度白くなった。


 光ではない。霧だ。


 あの、ほとんど見えないほど薄い白い霧が、またあの溝の真上に立った。


 霧が晴れたとき、一本の通りほどあったものは、二つに分かれていた。前半分はまだ滑っていて、後ろ半分はその場に止まっている。


 フランシスは、その二つの間に立っていた。


 振り返らない。


 そのまま、次の方向へ歩いていった。


 「……」


 待機席で、誰も声を出さなかった。


 三秒ほどして、頭上の板が動いた。


 1 フランシス     200


 「……二百」


 陸は、その数字を口に出した。


 出してから、自分がさっきの一振りをまったく見ていなかったことに気づいた。


 『オヤジ』


 「ああ」


 『俺も見えなかった』


 そこから、板は止まらなくなった。


 二百四十。二百八十。三百十。


 跳ねるたびに天涯幕が追う。だが追いついたときには、その男はいつも歩いている。


 倒し終えて歩いているのではない。最初から最後まで歩いているようにしか見えないのだ。


 待機席は、はじめのうちは盛り上がっていた。


 「あいつ、どこまで行くんだ」


 「五百だろ」


 「五百? 見くびりすぎだって」


 賭けが始まった。五百に張る者、八百に張る者、千に張る者までいた。


 だが、そのうち賭けにならなくなった。


 いつ手を出したのかも見えない人間に賭けたところで、意味が無いからだ。


 四百二十。四百七十。五百三十。


 どこからだったのかは分からない。気がつくと、待機席は静かになっていた。


 誰かが静かにしろと言ったわけではない。喋る人間が一人ずつ減っていって、最後には板が跳ねるあの軽い音しか残らなかった。


 そこで陸は気づいた。観覧席も同じだ。


 何千人もいる。ついさっきまでカイに悲鳴を上げ、セリカに口笛を吹いていた、あの何千人だ。


 今は、低くて、何を言っているのか聞き取れない唸りのような音しか残っていない。


 「……あの人、いつ倒してるんだ」


 誰が言ったのかは、分からなかった。


 誰も答えなかった。


 陸は、自分の膝を見下ろした。


 「守(まもる)」が横に置かれたまま、動いていない。


 ふと、さっきのあの溝を思い出した。


 あんなに真っ直ぐな溝を引いた、あんなに速いものが、最後は自分から下がっていったのだ。


 六百十。


 水位が、下がりはじめた。


 ー

【ステータス(能力面板)】

--------------------------------------------------

【名前】リク(神坂 陸)

【LV】4

【種族】人族

【職業】浪人(初心者)


--------------------------------------------------

【基本能力値】

HP(生命力):45 / 45

MP(魔力) :??? / ???

SP(體力) :40 / 40


--------------------------------------------------

【裝備・武器】:羈絆の刃・守(まもる)

【 招式塊スロット】:【 風渦曲陣(ふうかきょくじん) 】【 熱素時限刃(ねっそじげんは) 】【 凍水無影斬(とうすいむえいざん) 】【 幻夢蜃氣斬(げんむしんきざん) 】【 ロード中 】

【パッシブ】:【 魔物解析 】【 個体解析 】

【?】:【 放置モード 】【 写身 】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。