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今年の森

 森の東で何かが起きたのは、そのすぐあとだった。


 「うわああ!」


 待機席が、いっせいに声を上げた。


 陸は顔を上げた。


 天涯幕はもう森の東側へ切り替わっている。画面の中で、葉が一面に巻き上がって、光の中で回っていた。


 弾き飛ばされたのではない。何かが下を通り抜けた拍子に、持っていかれたのだ。


 赤い一本の線が、葉の間を走る。


 途中で消える。


 そして、まったく違う場所に、もう一度出てくる。


 【セリカ】LV24/無級


 陸の目は、追いつかなかった。


 鏡も追いつかない。天涯幕は追いかけているうちに彼女を見失って、仕方なく引いて、森ごと画面に収めた。


 見えるのは結果だけだ。あの赤が止まった場所には、必ず魔物が一匹、もう倒れている。


 三度目のときには、観覧席がもう叫んでいた。


 「あの赤いの誰だよ!」


 「今の見たか、今の!」


 隣の少年も、立ち上がっていた。


 さっきから一度も、立ち上がっていなかった男が、だ。


 『……オヤジ』


 『今の、見えた?』


 「見えなかった」


 『俺も』


 画面の中の赤が、ふいに止まった。


 倒れているものに向かって、頭を下げたように見えた。


 そして、また消えた。


 「……あの子、今、謝ったか」


 『謝ってた』


 『あいつに』


 二人とも、少しのあいだ黙った。


 天涯幕が引いていって、闘技場の真上に張り直された。


 名前が、並び替わりはじめる。


 さっきまでの十点二十点の名前が、一つずつ下へ落ちていく。


 上に浮かんできたのは、誰も見たことのない三つの名前だった。


 1 カイ       120


 2 ネロ       110


 3 セリカ       90


 待機席の声が、すっと小さくなった。


 「……差がすごいな」


 『四位は?』


 陸は、下へ目を落とした。


 4 トビアス      20


 「……二十」


 「二十か」と、隣の少年が言った。


 まだ立ったまま、目は板から離れていない。


 「俺も、前に来たときは二十だった」


 陸は、その横顔を見た。


 少年はそれきり何も言わずに、腰を下ろした。


 そのとき、森の西側が動いた。


 天涯幕が、そちらへ切り替わる。


 獣が走っているのではない。地面そのものが、盛り上がっているのだ。


 腐葉の下から出てきたものは、人の半分ほどの太さがあった。表面に蔦が巻きついていて、どこまでが蛇でどこからが根なのか分からない。


 【ツタボア】LV14/軍勢級


 一人の足首が、もう巻き取られていた。本人は気づいていない。別の方向へ向かって符契を唱えている最中だからだ。


 「後ろ!」


 待機席で、何人もが同時に叫んだ。もちろん、場には届かない。


 「……あれ、さっきからそこにいたよな」


 『最初からいたよ』


 『ずっと動かなかったから、みんな木の根だと思ってたんだ』


 陸は、その人間が葉の下へ引きずり込まれていくのを見ていた。


 二秒後、白い光が走った。


 場外。


 天涯幕は、もうそこを見なかった。


 森の反対側へ切り替わる——


 「何の音だ?」


 低くて、こもっていて、石の座席から尻へ伝わってくるものが、鳴りはじめた。


 陸は、座席に手を置いた。


 震えている。


 【ディージェイコング】LV16/軍勢級


 それは猿だった。背中に、自分より大きい板を背負っている。板の上には、光るものが列をつくって並んでいた。


 それを押すたびに、低い音が転がっていく。


 いちばん近くにいた三人が、同時に片膝をついた。


 殴られたのではない。立っていられないのだ。


 「……なんだこれは」


 『音波でしょ』


 低い音が、もう一度転がった。今度は歯まで痺れる。


 『え、これ強くない?』


 「覚えるなよ」


 『覚えられないってば』


 後ろの列で笑い声が起きて、途中で消えた。


 その三人は地面で数秒こらえて、それから一緒に場外へ送られた。


 猿が、また板を押した。


 天涯幕の中で、森じゅうの葉がいっせいに震えた。


 そのとき、陸は気がついた。


 最初は、何かがおかしいという感じだけがあって、それが何なのか分かるまでに数秒かかった。


 ——静かだ。


 音が小さくなったのではない。符契はまだ叫ばれているし、猿はまだ板を叩いているし、待機席はまだうるさい。


 別のものが、無くなっているのだ。


 さっきからずっとあった、細かくて、慣れてしまえば気にもならない音。


 木の上の鳥が。


 一羽も、鳴いていない。


 ー

【ステータス(能力面板)】

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【名前】リク(神坂 陸)

【LV】4

【種族】人族

【職業】浪人(初心者)


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【基本能力値】

HP(生命力):45 / 45

MP(魔力) :??? / ???

SP(體力) :40 / 40


--------------------------------------------------

【裝備・武器】:羈絆の刃・守(まもる)

【 招式塊スロット】:【 風渦曲陣(ふうかきょくじん) 】【 熱素時限刃(ねっそじげんは) 】【 凍水無影斬(とうすいむえいざん) 】【 幻夢蜃氣斬(げんむしんきざん) 】【 ロード中 】

【パッシブ】:【 魔物解析 】【 個体解析 】

【?】:【 放置モード 】【 写身 】

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