森の歓迎会
森の中は、何も見えなかった。
待機席から見下ろすと、あるのは一面の緑だけだ。葉が揺れて、その中で光が跳ねて、時々、木の隙間を人影が横切っていく。
(……これ、何を見ろっていうんだ)
そう思ったところで、頭の上が暗くなった。
天涯幕が動いた。
あの一枚がまるごと下りてきて、木の高さまで沈み、それから中へ潜り込んだ。
次の瞬間、さっきまで見えなかった木の下が、目の前に来た。
腐った落ち葉。震えている両足。斜め上から覆いかぶさってくる、揃わない四つの目。
待機席で、誰かが「わっ」と声を上げた。
陸も、危うく一緒に声を出すところだった。
魔物の口の端の唾まで見えるくらい、近い。
「……そういう使い方か」
『中継だもん』
『じゃなきゃ誰も金払わないでしょ』
そこで陸は、ようやく思い出した。これは、見せるためのものだ。
場にいる人間のためではない。観覧席の何千人と、外で無涯鏡を持っている連中のためのものだ。
だから、選ぶ。いちばん見ごたえのあるところを選ぶ。
画面の中で、震えていた両足が二歩下がって、それから白い光が走った。
場外。
天涯幕は、すぐに切り替わった。
「……切るの早すぎないか」
『そっちにはもう何も無いからでしょ』
陸は、答えなかった。
待機席のほうは、むしろうるさい。
二百二十五人がこの一角に詰まっている。B組、C組、D組、全員だ。前の列では立ち上がって叫んでいる者がいて、後ろの列では上位十人の予想で賭けが始まっている。
「三百二十七番のやつ、俺は十枚」
「そんなのに賭けるとか、頭おかしいだろ」
陸は、隣の少年へ目を移した。
さっきから一度も、立ち上がっていない。
視界の隅に、白い枠が開く。
【ハル】LV5/無級
「……へえ」
『なに』
「いや。こんなふうにも見えるんだなと思って」
陸は、視線を一人ずつ動かしていった。
LV3。LV5。LV2。LV7。
待機席にいる人間は、だいたいこのあたりだ。自分の四と、大して変わらない。
(……じゃあ、場にいるやつらは)
ちょうど、天涯幕が切り替わった。
緑の画面の中から、白い髪が出てくる。
【カイ】LV31/無級
「……三十一」
『……えっ』
蓮の声が、一拍止まった。
『十いくつくらいだと思ってた』
陸は答えずに、その数字と、自分の四とを、頭の中で並べてみただけだった。
それから、目を逸らした。
画面の横から、何かが飛び出してきた。
四眼狼。四つの目が、上下ばらばらに動いている。
カイは止まらなかった。
刀が抜かれて、鞘に戻る。その間に振られたのかどうかは、これだけ寄った画面でも分からない。
四眼狼の身体は空中で崩れて、地面に落ちたときにはもう元の形をしていなかった。
歩調ひとつ、変わっていない。
待機席の前の列が、いっせいに立ち上がった。
「おいおいおい」
「今の何だよ」
「……あの距離、届かないだろ」
そういう声が、陸の耳の横を行ったり来たりしている。陸のほうは、座ったままだった。
「……あれ、何をしたんだ」
『分かんない』
蓮の声が、初めて少し自信なさそうに聞こえた。
『でも、符契は唱えてない』
「唱えなくてもいいのか」
『よくないと思う。だから、たぶんあれ……ただ刀で斬っただけだよ』
陸は、もう一度その死骸を見た。
ただ刀で斬っただけ。
あの位置からあの狼まで、五歩はあったはずだ。
天涯幕が、場所を変えた。
森の反対側で、葉が大量に落ちている。
風ではない。下で、何かが木をひどく揺らしているのだ。
落ちてくる葉の中を、小さな影が歩いていた。
寝間着。裸足。背中の、自分より大きい鎌は、今度は引きずっていない。
【ネロ】LV28/無級
「……二十八」
後ろの列で、誰かが小声で言った。
「あのガキ、去年もいたぞ」
「自分で帰ったってやつか?」
「そう」
その子どもが、一匹の魔物の前で足を止めた。
疾拳獣。ずんぐりしていて、まるで怖くない見た目のくせに、陸が一度まばたきする間に、その腕はもう三回空を切っていた。
子どもは、避けなかった。
背中から鎌を外して、そのまま下ろしただけだ。
振ったのではない。下ろした。
重たいものを地面に置くときみたいに、鎌の刃が自分の重さのまま、魔物の肩のあたりを滑っていった。
魔物が止まった。
それから、動きが遅くなった。ひどく、遅く。そして、動かなくなった。
薄い霜が、斬られたところから這い出して、その身体の半分を包んだ。
【ジャブコアラ】——討伐
子どもは、鎌を背中に戻した。
そして、顔を上げた。
ちょうど、鏡がその正面にあった。
丸くて、可愛らしいその顔の、目の中に、何も無かった。
怒ってもいない。興奮してもいない。怖がってもいない。ただ、何も無い。
「……つまんない」
そして、それは同じ瞬間だった。
『……つまんない』
陸の呼吸が、止まった。
まったく同じだった。
意味が同じなのではない。間の取り方も、伸ばすところも、もう一文字も言う気が無いあの語尾も、全部が同じだった。
「……蓮」
『ん?』
「……なんでもない」
天涯幕の中で、その子どもの顔はもう元に戻っている。
ただの十歳の子どもが、倒れたものだらけの中に立って、次はどこへ行こうかと見回しているだけだ。
陸は、自分の手を見下ろした。
(……あの子も十歳だ)
(うちの息子も十歳だ)
その二つは、もともと何の関係も無い。
だが、そう思えるようになるまでに、少し時間がかかった。
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【ステータス(能力面板)】
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【名前】リク(神坂 陸)
【LV】4
【種族】人族
【職業】浪人(初心者)
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【基本能力値】
HP(生命力):45 / 45
MP(魔力) :??? / ???
SP(體力) :40 / 40
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【裝備・武器】:羈絆の刃・守
【 招式塊スロット】:【 風渦曲陣 】【 熱素時限刃 】【 凍水無影斬 】【 幻夢蜃氣斬 】【 ロード中 】
【パッシブ】:【 魔物解析 】【 個体解析 】
【?】:【 放置モード 】【 写身 】




