旅路の試練②
「——出たぞ!」
御者の怒鳴り声と同時に、幌の外から、地面を蹴る音が近づいてくる。
馬車を飛び降りた陸の前で、道端の草叢が割れ、三頭の獣が姿を現した。
狼に似ている。ただし、眼が四つある。
視界の隅に、ふっと枠が浮かんだ。
【新個体を記録しました】
【個体名】四眼狼
【災厄等級】徘徊級
【基本能力値】
HP(生命力):120
MP(魔力) : 15
SP(体力) : 80
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【スキル】
・四方視
背後にも死角が存在しない。
・群狩
三体以上で行動する際、命中率が上昇。
【ドロップ率】
・四眼狼牙42%
・四眼狼皮 11%
・狼眼石 0.8%
「……本当に出るんだな、これ」
『オヤジ、まだ使ってない技、俺たちで試してみようよ』
「え、いきなり実戦で?」
『雑魚のうちに試さないでどうすんの。ほら、行って』
陸は腰の木刀を引き抜き、静かに息を吸った。
刀身の表面を、うっすらと霜が這い上がる。
「氷の符契——三条目、凍水無影斬」
振り抜いた。
音は、しなかった。
斬撃も、見えなかった。
ただ——三頭の獣が同時に足を止め、その四つの眼から、ふっと光が消えた。
一拍遅れて、白い霜が地面を這うように広がる。
どさり、と三つの体が同時に倒れた。
「……なんだ、これ」
『無影=影が無い。斬った瞬間が、誰にも見えないんだよ。しかも凍らせるから、血も出ない』
『暗殺向きだね。オヤジには全然似合わないけど』
「……ほっとけ」
視界の隅で、小さな数字が動いている。
【凍水無影斬】再使用まで:五九秒。
幌の中から、行商の老人が顔を出していた。
「……お若いの。あんた、浪人かね」
「はい。……そう見えませんか」
「いや。腕は、大したもんじゃ」
老人はそう言ってから、陸の腰のあたりへ目をやって、そこで少し止まった。
「……都へ?」
「はい。選抜を受けに行くところで」
「木刀で、かね」
「はい。これしか持ってないもので」
老人は、しばらく黙っていた。
それから、ふう、と鼻から息を吐いた。
その夜、馬車は街道の脇に停まった。
宿場までは、まだ半日かかるらしい。
御者は馬に水をやってから、御者台で丸くなってしまった。
幌の中に吊るされた小さな灯りが、揺れるたびに、荷物の影を布の壁の上で行ったり来たりさせている。
先に口を開いたのは、老人のほうだった。
「……お若いの。都に着いたら、ひとつだけ気をつけなされ」
「……はあ」
「星の紋を着けた者には、関わるな」
「……星?」
「北の空に据わって、動かぬ星の形をしておる。あれを着けた者に道で行き会うたら、道を譲って、離れなさい」
「……もし、喧嘩を売られたら」
「謝ることじゃ。全部自分が悪いことにして、すぐに謝る」
「それだけ、ですか」
「それだけじゃ」
老人は灯りのほうを見たまま、しばらく何も言わなかった。
「……最近、将軍様が代わられてな」
声が、さらに低くなった。
「それからじゃ。町で大きな顔をする連中が、増えたのは」
その先を、老人は言わなかった。
やがて灯りが消され、幌の中は真っ暗になった。
荷台の板は硬く、寝返りを打つたびに背中が痛む。
布の隙間から、星が二つ三つだけ見えた。
(謝れ、か)
思い返してみても、自分が頭を下げた記憶は、あまりない。
会社で謝りに行くのは、いつも誰か別の人間だった。
自分は椅子に座って、その報告を聞いていただけだ。
(……あれ。俺、けっこうひどいな)
外で、馬が小さく鼻を鳴らした。
陸は目を閉じた。
二日目の夜。
馬を休ませるため、馬車はようやく街道沿いの宿場へ入った。
厩の脇で焚かれた火のそばに腰を下ろすと、陸はふと思い出したように口を開いた。
「なあ蓮」
『んー?』
「俺の技、五つあるだろ。あれって、多いのか?」
『さあ。数値全部が俺の決めたことじゃないし。強けりゃいいでしょ』
「……それでいいのか」
『いいんだよ。困ってないんだから』
話は、そこで終わった。
二人とも、それ以上は考えなかった。
——この世界で、技を五つも持つ者など、後にも先にも他にいない。
二人がそれを知るのは、もう少し先の話だ。
焚き火の薪が、ぱちりと爆ぜた。
やがて、頭の中の声が、大きな欠伸をひとつした。
『オヤジ、もう十二時。そろそろ寝るわ』
「ああ。おやすみ」
『……放置モード、自分でちゃんと入れときなよ。忘れると突っ立ったままになるからね』
「分かってるって」
『ほんとに分かってる?オヤジ、説明書読まないタイプでしょ』
「……おやすみ、蓮」
ぷつり、と。
頭の隅にあった小さな温度が、消えた。
薪の爆ぜる音が、急に大きく聞こえる。
陸はステータス画面を開いた。
【放置モード】 ON
「……あれ。もう入ってるぞ、これ」
押した覚えは、無い。
(そういえば……いつからだ?)
体が軽い。いや、軽すぎる。
自分の意志で動かしているはずなのに、どこかで誰かが、そっと手を添えているような。
(……気のせいだろ)
陸は、そう思うことにした。
馬車は夜のうちに宿場を出た。
幌の隙間から差し込む月光が、街道をぼんやりと照らしている。
蓮は、とっくに眠っている。
だがその直後、馬が激しくいななき、馬車が急に停まった。
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【ステータス(能力面板)】
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【名前】リク(神坂 陸)
【LV】3
【種族】人族
【職業】浪人(初心者)
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【基本能力値】
HP(生命力):30 / 30
MP(魔力) :??? / ???
SP(體力) :25 / 25
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【裝備・武器】:羈絆の刃(預設初心者木刀)
【 招式塊スロット】:【 風渦曲陣 】【 熱素時限刃 】【 凍水無影斬 】【 ロード中 】【 ロード中 】
【パッシブ】:【 魔物解析 】
【?】:【 放置モード 】【 写身 】




