5.断罪の声
「誰って……?」「そりゃあ、虐げた継母と義姉だろう?」「いえ、それよりも父親が最低よ。愛人がいたんだもの」「婚約者も……なぁ? どうなんだ?」
街のあちこちで議論が繰り広げられる。
それでも、平民の住む地区はまだ平和なものだった。平民の多くは、戯れはあれどお家騒動とは無縁な者が多い。
だが、貴族たちは安易に人ごとだとは言えない事情を持つものが多い。故に、静かに次の言葉を待つことしかできなかった。
「答えは出たか? まぁ、端的に言えば令嬢の周囲にいた人間のすべてが、彼女の死に関係していると言える。もしも誰か一人でも……それこそ、彼女に手を差し伸べてくれる王子様がいたなら、彼女は今でも生きていたのかもしれないからな」
そこで一度、音が無くなった。
一人の令嬢の無念を思い、誰も言葉を発することができなくなってしまったのだ。
「だが、そうだな……。まず婚約者だが、『悪』ではない。ただ『愚か』だっただけだ。そして、義姉に関してはまぁ『悪』だったのだと思う。悪辣で醜悪で……酷い女だよな。だけど、ある意味では彼女も被害者だったのだと、俺は思う。——なぁ、子供はどうやって育つと思う?」
アッシュの三度目の問いが、街に響く。
だがその問いに答える者は誰もいなかった。
「子供はな、親の顔を見て育つんだ。背中なんかじゃない。笑顔の多い親に育てられれば、子供もよく笑うようになる。だが、親が歪んでいれば……子供も歪む」
アッシュは街を見下ろした。先ほどまで広場を走り回っていた子供が、今は親の傍でこの声を聞いている。赤ん坊は母親に抱かれ、幼子は不安そうに親の服を掴んでいる。
子供は、愛されるべき存在だ。
親に愛され、地域に守られ……世の中の理不尽さなど、知らずに笑っていられたらいい。
無垢で、無力な、尊ぶべき存在。それなのに——その無垢さを、無力さを、嘲笑い利用する大人が存在する。
「もちろん、子供にも個性がある。親がどんなに愛情を注いでも、苦労することはあるだろう。あくまでも親と子は、別の“個”だ。思い通りになんかいかないさ。だがな——歪ませることは簡単なんだよ。ずっと、歪んだ愛情を与えていればいいんだからな」
民衆は、目を見張った。子を持つ母は、思わず子を見遣る。
「この昔話に関して、一番の『悪』は令嬢の父親だ。だが、父親の何が悪かったと思う? 別の家庭を作ったことか? 愛人を家に迎え入れたことか? ……違う。家族を、“見ていなかった”ことだ」
誰もが息を潜め、空を見上げる。
平民も、貴族も関係なく。時に目を潤ませながら。
「——たくさんの愛を持つことを、俺は悪いとは言わない。だが、それによって傷つく人間がいることに関してはどうかと思う。『家族』とは、尊いものだ。『子供』は、大人が守らなければ容易に傷を負う」
アッシュはそこで言葉を区切り、「なぁ」と言葉を続ける。
「令嬢が自死した後に残された家族の末路はどうなったと思う?」
それが、アッシュによる最後の問いだった。
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