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タウン・クライヤー~風が運ぶ街の声~  作者:


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2.「聞こえてる」声

 チリン、チリン

「Oyez! Oyez! こんな時間にすまんな。——だが、事件だ」


 数日後。街の人たち大半が寝静まっている時刻に、そのお触れが街中に響いた。


「こんな夜半に珍しいな」「事件ですって」


 闇に染まっていた住宅街に、ポツポツと光が灯されていく。

 時折、様子を見るために外へと出てくる人もいたが、昼間ほどざわつきは大きくない。誰もが皆、この後に話されるであろう“事件”の詳細を待っていた。


「あー……まずは何から話そうか。とりあえず、あれだ。覚えているか? つい数ヶ月前まで長年に渡り、街の衛兵たちをまとめていた男を」


 その言葉に、人々は思い浮かべる。

 世話になった平民たちは、その男の良き記憶を。

 苦渋を飲まされた貴族たちは、その男の憎らしい記憶を。


「その男は収賄の容疑で捕縛され、職務解任の上で都から追放された。突然明かされた事実に、多くの人が失望したと思う。だがな——あれは冤罪だ」


 瞬間、街は喧騒に包まれた。


「え、どういうこと?」「裏切られたって思ってたけど……冤罪って?」「だから俺は言ってたんだ! 『あの人がそんなことするわけない』って」


 各々が思い思いの反応を見せ、動揺と希望が広がっていく。——この声が聞こえていない、ある一部の地区を除いて。


「まぁ落ち着け。冤罪だとわかった経緯については省くが……お前らも知りたいだろう? あの男が追放された、“本当の理由”が」


 落ち着いた低音だが不思議と鮮明に聞こえるその声に、固唾を飲んで耳を傾ける。


「——Oyez! いいぞ、待機班!」


 一際大きな声で指示を出すアッシュの声が、今度こそ都市全体(・・・・)に広がった。


Oïl(ウィ)! 突入します!」

「うわ、何だお前らは!? ええい、離さんか無礼者が!!! 私を誰だと思っているんだっ」


 住宅街から離れた、倉庫が密接に並ぶ地区。その一画で、身なりのいい一人の男が衛兵たちに取り押さえられていた。


「んー? お前さんは誰なんだ?」

「お前らは自分たちのトップの顔も覚えとらんのか! 私はモーリス・ウェルズだ! 早く手を離さんとお前ら全員追放してやるぞ!」

「それは……ダン隊長のように、か?」


 そこに、一人の衛兵が近づき、問いかける。


「何だ、お前は」

「俺は、この衛兵隊で副隊長を務めていたアイザックだ。貴様がダン隊長を追放し、新たな破落戸(ごろつき)紛いの男どもを連れてくる前までの、だがな」

「ああ、あいつの部下か。ってことはお前、こいつらの上司だろ? 早く私を解放するように命じろ。それができたら私の腹心として傍に置いてやらんでもないぞ」

「! 誰がお前の傍になど……っ」


 ニヤニヤと下卑た笑みを見せる男の言葉に、アイザックの顔が怒りに歪んだ。今にも射殺しそうな目で睨んでいる。

 殴りかかりたいのを我慢しているのだろう、握った拳が震えていた。


「ウェルズってことは子爵家か? で、前隊長を追放したのもお前ってことで間違いないんだな?」

「ハハハッあいつを嫌う貴族はたくさんいたからな。簡単だったよ、追放するのも、後釜につくのも」

「へー。ところで、こんな時間にこんなところで何をしていたんだ?」

「そんなことを答える義理はないな。いいからこいつらに早く——って、誰だ!? おい、私に話しかけていたのはお前じゃなかったのか!?」


 ようやく、声の主が目の前にいるアイザックではないと気づいたモーリスがせわしなく周囲を見渡す。


「あー残念だが、お前さんから見える位置に俺はいない。ただ、お前さんの声はしっかりと聞こえてる(・・・・・・・・・・)から安心しろ。あと、お前が今日待ち合わせていた本物の商人はもう捕獲済みだ」

「は……? 何を言って……? あ! お前、まさか……っ」

「そこにいるフードを被った男は、俺の主だ」


 その言葉を証明するかのように、ずっとそこに佇んでいた男——モーリスの密会相手——がフードを外す。


「騙して悪いな。だが、しっかりと取引は完了させてもらった。衛兵! ここが違法薬物の取引現場であり、これが現物だ」

「ああ、協力感謝する。モーリス・ウェルズ、お前を違法薬物取引の現行犯で拘束する! ……ダン隊長の件も、詳しく話してもらうぞ」


 オーウェンの言葉に頷き、アイザックはモーリスに手枷を嵌めた。

 だが、モーリスの顔にはそれでも尚、笑みが残っている。


「お前ら、これで私を追い詰めたつもりか? こんなもの、私の権力があればいくらでももみ消せるというのに」


 余裕を崩さず、馬鹿にしたように笑うモーリスに、オーウェンは何も言わずに憐れみの視線を向けた。


「権力ってのはすごいもんなんだな」

「ああ。お前らには一生わからんだろうが、これが特権階級というものなんだよ」


 ハッハッハ、とモーリスの笑い声が響く中、慌ただしく近づいてくる複数の足音が聞こえた。


「罪人がいるのはここか!」


 そこに駆けつけたのは、衛兵とはまた違う装いの騎士たち——王宮騎士団だった。


「何故こんなところに騎士団が……!?」


 モーリスの顔から、笑みが消える。


「だから言ったろ? しっかり聞こえてる(・・・・・・・・・)って」

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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